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ずっと欲しかったものがある日突然ポストに届いた、っていう話

ある日、ポストに郵便物が届いていた。
差出人は知らない男性の名前。

一瞬、ん? と思うものの、すぐに思い当たることがあった。

数日前に観に行った、友人が出演している舞台がDVD化されるということで、その舞台を気に入った私は、出演者違いの2つのバージョンを両方とも購入していたのだった。

ちょうどDVD2枚分くらいの厚さだったし、劇団の主宰の方もしくは動画制作会社の方から送られてきたのだろうと合点した私は、そのまま家の中へ持ち帰った。

着替えなどもろもろ済ませて、落ち着いてからワクワクしてその包みを開く。

すると、中から出てきたのは、本だった。

本、のみ。

手紙もメモも入っていない。

本のように見えるDVD、でももちろんない。

タイトルは『悪魔とのおしゃべり』
さとうみつろうさんの本だ。

その本がずっと欲しかった私は喜んだ。
やった! 欲しかった本が降ってきた!

いや、待て待て。

購入したわけでもない本が、知らない男性の名前である日突然ポストに届いたのだ。
喜んでばかりいられない。

当然次に私は、軽いパニックになった。

確かにその本は私が数年前から欲しかった本なのだが、厚くて大きいので、文庫本サイズにならないかなあ、と待ちながら忘れてしまっていた本なのだ。

さっさと買えよ、という話なのだが、未練がましく時々本屋で確認しては、まだ文庫になってないかあ、と思ったりしていた。
しかし最近はそれさえしていないくらい、記憶から消えていた本なのだ。

それがある日突然ポストにやってきた。

これは、どういうことなのだろう?

思い返すこと数年前、私がまだ営業の仕事をしていて、毎日のようにはじめましての方とお会いしていた頃、ある男性とお会いして、映画の話になったことがある。
確か、ウィル・スミス主演の『幸せのちから』の話だった。
すると、1週間後くらいに、その男性からオフィスに本が届いた。
『幸せのちから』の原作本だ。
もちろんその時は、一筆箋が同封されていた。

「原作も素晴らしいです。本もお好きとのことでしたので是非」というような内容だったと思う。

その心遣いに感謝し、喜んだ記憶が蘇る。

しかし今回は、封筒をひっくり返してもメモらしきものはどこにもない。

もう一度差出人の名前を見るが、やはりおぼえがない。
最近誰かと、この本の話をした記憶もない。
頻繁に本屋で確認していた時期でさえ、誰かに、この本が欲しいと話したこともない。

宛名を見ると、間違いなく私の家の住所だし、私のフルネームも間違いない。

私は焦った。

この人は、誰だ?
なぜ、私がこの本を欲しかったことを知っている?
いや、そもそも知っていたのか?
そしてなぜ、ここの住所を知っている?

ただ、自慢ではないが、私は記憶力が悪い。
記憶力が悪い、と聞いて今あなたが想像した記憶力の悪さのおそらく3倍くらいは記憶力が悪い。(どのくらいだよ)
一昨日の会話を今日の会話と間違えて、相手に怪訝な顔をされたり、「双子のお姉さんですか?」と言われるくらい自分のことも覚えていないことがある。(大丈夫か?)

次に私がとった行動は、Facebookの「友達」の中で差出人の名前を検索してみることだった。

営業マン時代にたくさんの人とFacebookで繋がっていた私は、2000人以上の友達がいたが、今日は〇〇さんのお誕生日です、と言われても、この人誰だっけ? どこで会った人だっけ? ということが少なからずあったからだ。
忘れてしまっている、Facebookの友達かもしれない。

が、しかし、その名前はなかった。

そのあとも、何度もその人の名前を眺めたり、口に出したりしてみては、記憶をたどり続けた。

ずっと欲しかった本が手元に来たことは嬉しいが、その謎が解明しない限りはむしろ気味が悪い。

Facebookを調べても、どんなに記憶をたどっても思い出せないので、いったん私は本を放り出してほかのことをすることにした。

動きながら考えた方が思い出すかもしれない、とも思ったのだ。
夕飯の支度をしながら、あとで、仲のいい友人に、差出人の名前を伝えて「この人知ってる?」と聞いてみようかな、と思った。

Google検索する、という手もあったかもしれないが、その時は思い浮かばず、悶々とした気持ちが抜けないまま夕飯をすませた。

一日のやることを終えて、もう一度、天から降ってきたその本を手に取る。
そして、パラパラとめくってみた。

ん? 何か書いてある?

中表紙、というのだろうか、表紙の裏の部分に文字を見つけた。

「桜井なな様。分厚い本です。でも面白いですよ。by 〇〇ちゃん」

それを見た瞬間、何かがひっかかった。
既視感を感じたのだ。

〇〇ちゃん、それは、差出人の名字の頭の音2文字をとったニックネームだった。

なんか、この響き、聞いたことがある。
そう思ったがまだ思い出せない。

口の中で何度か「〇〇ちゃん、〇〇ちゃん」を繰り返し、やっと思い出した。

それは、私が購読しているメルマガの発行人の名前だった。
「こんにちは、〇〇ちゃんです」という書き出しで始まる週に一度のメルマガだ。
確か、フルネームはどこにも書いていなかったはず。

そこまできて、やっとやっと、私にはすべての謎が解けた。

というか、記憶が戻った。

その本は、2週間前に〇〇ちゃんのメルマガで毎週募集している、書籍プレゼントの景品だったのだ。

つまりなんのことはない、この本が欲しかった私が、応募して、当選した、というだけのことだったのだ。

1週間後の当選者発表を、その時に限って私が見逃していたようで、確認したら、前の週のメルマガに、今週の当選者として私の名前が載っていた。

そりゃあ、私の住所も名前も間違いなく、届くはずだよね。

天から降ってきたわけでもなんでもなかったわけですよ。

いやー、自分の記憶力の悪さに、我ながらびっくり&大笑い。

あなたの想像の3倍、どころじゃなかったかもしれないですね。

呆れたけど、結果的には謎も解け、欲しかった本が手に入り、プレセント当選なんていう久々の体験もして、やっと落ち着いて読書に取り掛かれた私なのでした。

それにしても、きっとあなたは「まずは本をめくってみなよ」と思ったことでしょう。

本当に、私もそう思う。

そうしたらあんなにずっと悶々としなくてすんだのにね。

ま、それも今となっては笑い話で、こうしてネタにもできたからよしとしよう。





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