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吉本ばななさん著『花のベッドで昼寝して』の感想散文。

 最近、読書会を主宰している。数人ですることもあれば、わたしともう1人だけ、1対1で行うこともある。オンラインなので物理的空間は必要なくて、主宰とは名ばかりのわたしはファシリテーションめいた技術もないので、楽しく話せたらそれで成功。結果、ただの電話みたいになることもしばしばだ。

 今回扱わせていただいたのは吉本ばななさんの小説『花のベッドで昼寝して』だった。

 わたしは本はそれなりにたくさん読むほうだと思うけれど、吉本ばななさんの作品を読んだのはこれで2冊め。対して、今回読書会に参加してくれた友人は吉本ばななさんの作品をよく読んでいる。SNSで見かける彼女の文章はなるほど、繊細でいて柔らかいが、磨かれたきれいな刃物の美しさみたいなところもあって、吉本ばななさんの影響を受けているんだろうなと思う。(偉そうなことを書いているけれど、すべて個人の感想及び偏見なのでご容赦を)

 『花のベッドで昼寝して』のあらすじはGoogleで検索したほうがすばらしいものに出会えると思うので割愛する。

 読み進めていちばん印象を色濃く感じたのは『愛情の取り扱い方』だった。主人公の女性は血縁関係のない家族や友人をとても大切にしていた。いっしょに暮らしているときも、ときには亡くしてからも。彼女の不安定な出生を思えば、たとえば自己否定に走るだとか、孤独を感じて反抗的な性格を形成するだとかは十分あり得そうなのだが、不自然なくらい自然に彼女は他人(自分以外のだれか)に愛情を向ける。彼女の周りのだれもかれもがまた、彼女をすばらしく丁寧に大切にする。いやなことも辛いこともきちんと毎日流れていくのに、愛情の循環がとても滑らかだ。

 愛情とはなんなのか、という議論は色々あるだろうけれど、物語の中で主人公は相手によって、それこそ性別や関係性をひっくるめたその人たちに向けて、かたちを変えて愛情を交換している。

 なので、主人公の取り扱う愛情はたくさんのかたちをしている。

 ただ寄り添う、言葉を交わす、空気を共有する、いっしょに食事をする。泣いたり、笑ったり、感情の波長を合わせる。相手の大切にしているものを大切にする。いっしょにいることに理由をこじつけない、探さない。未来の約束をする。過去を肯定する。意思決定を尊重する。自分の価値観を押し付けないよう細心の注意を払う。などなど。

 ああ、大切な人に向ける愛情はこんなにも多岐に渡るのだ、とはっとしてしまう。生活のなかにこんなに自然に散りばめることができる人になるのはなかなか難しいことだと思うので。

 フィクションだからうまくいくというにはあまりにも不自然なくらい自然な流れがとても心地よかった。けして軽薄な感じはないけれど、無理に地に足をつけない軽やかさがある。

 ちなみに、吉本ばななさんの代表作(たくさんあるうちのひとつ)『キッチン』やAudibleで拝聴できる『幸せへのセンサー』もとても良かった(急に雑)。


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