見出し画像

【変わらないスタイル】2019年12月21日(土) 天皇杯準決勝 神戸vs清水【変えた歴史】

https://note.com/7634548/n/nc52818d7a948
プレビューはこちらからどうぞ

はじめに

こんにちは、ダビド・梨名 @David_Rina7です。
前回のプレビュー記事がきっかけでtwitterのフォロワーが3人ほど増え、ちょっとだけ優越感に浸っています。
てことはおいといて、早速分析を始めていきます。

①スタメン・基本システム

神戸はほぼプレビューの予想通りで、イニエスタ・フェルマーレンがスタメン復帰。ポドルスキはベンチに入りましたがビジャは結局ベンチ外だった。(コンディション不良とのこと)
清水はキーパーを大久保に変えてベテラン西部を起用してきた。

②基本構造
2-1:神戸のビルドアップ

基本的には外枠をしっかり組み中盤の3人をフリーマンとして運用していたが、これに対して清水はまずは2トップでサンペールへのパスコースを遮断し、HVにパスを出されても出来るだけSHは動かさずに2トップだけで対応していた。(下図)

サイドを変えられた場合は予め前に出しておいた逆サイドのSHをHVに当てて前進を阻害していた。
この狙いが成功した前半3分のシーンを見ていく。

一度サイドを変えられたあとドゥトラがプレスをかけることでダンクレーのミスを誘い、速攻に持ち込んだ。
この清水のミドルプレスに神戸はこのような狙いを持ってビルドアップを行っていた。(下図)

先程も少し話したが2トップがHVに間に合わなかった場合はSHが行くしかないため、その裏に酒井やイニエスタが登場することでボールを前進させていた。
この狙いは早い時間から再現性を持って行われていた。

こんなシーンや

こんなシーンや

こんなシーンが散見された。
プレビューでも触れた通り神戸のWBと清水のSH&SBはどうしてもミスマッチが起きるので、それを利用するのが目的だったと思う。

2-2:神戸のポジショナルな攻撃

ビルドアップの稿でも書いたがまず起点はサイドで、清水のSHを押し込みつつ酒井・イニエスタの強力ユニットが存在する左からの攻撃が目立った。

神戸の左サイドにブロックを収縮させつつ、勝負どころでは右の西を活用していく。また、最終ラインは2対2の数的同数を辞さず、大崎をフォアリベロ的に活用するシーンも見られた。

2-3:神戸のネガティブトランジション

左サイド中心にボールを運んでいるため、ボールロスト時は酒井が前残り気味にプレスを掛け逆サイドの西は予防的ポジションを取っていた。
恐らくこれは以前の数試合でドウグラスが神戸から見た右サイドに流れることが多かったのを見越した位置取りだったと思うが、実際は左サイドに流れることが多かった。

このようにボールサイドの数人でプレスを掛けていくのだが、そこを回避されるとサイドに流れたドウグラスにシンプルに出して陣地回復をされたり、ボランチ経由でサイドを変えられることがあった。
まずはネガトラに失敗したシーンを見ていく。

このシーンでは西が右サイドでボールを失いボランチに展開されたところを酒井が逆サイドから絞るなどして複数人で対応したがエウシーニョへのパスを許し、ドウグラスのカットアウトランによって大崎を釣りだされて陣地回復を許した。
ネガトラが成功した場合は後述する。

2-4:神戸のプレッシング

プレビューでは5-4-1での撤退を予想し左サイドのイニエスタの守備負担を課題に挙げていた(故にスタメンを見た際にはこんなツイートをした)が、

フィンク監督はこれに対する解決策を提示した。

このように2トップの一角の古橋を左サイドにプレスバックさせイニエスタの戻りきれていないスペースを埋めつつエウシーニョに対応させていたが、古橋も戻りきれていない場合は酒井の縦スライドを含めた5バックのスライドで対応していた。
右サイドでは人への強さが特徴の山口を中心にしたより積極的なプレッシング(厳密に言えば普段通りだが)を採用し、高い位置からのボール回収を狙っていた。

ドウグラスが神戸の左サイドに流れることが多かったことに加えドゥトラがそこまで裏を狙うことがなかったこともあってこのサイドでは危険に晒されることは少なかったが、左サイドでは前述したドウグラスの存在に加えエウシーニョが半端なポジションを取ることで幾度となく5バックをサイドに釣りだしていた。

2-5:神戸の撤退守備~5-3-1+イニエスタ~

5バックがボールサイドにスライドしていくのはいつも通りだがその前のユニットの運用で、具体的には古橋を2列目のラインに組み入れ、イニエスタは戻れる時は戻る。サンペールは中央から動かさずに残りの2枚をスライドさせるというもので、古橋と山口は相当な運動量が必要となるがうまくこなしていた。

夏場に同じシステムを採用していた際は田中がイニエスタのいないスペースを埋めていたことが多かったが、あえて役割を入れ替えた理由としては清水のCBのパワー不足を見越して田中の起点創出能力に期待したのだと思う。

2-6:神戸の守備に対する清水のボール保持の狙い

10月の広島とのアウェーゲームで明らかになったが神戸の弱点はサイドに過負荷をかけられた場合にDFが持ち場を離れてしまうことで、当然清水もそこは狙い目として認識していた。

このようにサイドに人を集めることでできるスペースにエウシーニョのインナーラップなどを組み合わせて侵入し、ドウグラスにクロスを上げるのが主要な攻め手だった。
この狙いが見られた典型的なシーンを振り返る。

ちなみに神戸の右サイドはどうだったかというと、ドゥトラをクロスのターゲットとして運用したいためかこのような仕掛けは少なかった。

2-7:神戸のポジティブトランジション

前半のうちはできるだけ試合をオープンにしないという意向もあり縦一本でカウンターといった局面は限られたが、神戸の2点目は敵陣高い位置でのボール奪取から生まれた(後述)。

③前半の試合展開
3-1:~15分までの攻防

まずは神戸のボール保持攻撃を清水がミドルゾーンから迎撃する形になり、基本的には前述したSHの裏を使った前進が主だったが緊張からかなんでもないところで引っ掛けられるシーンもあった。
サンペールを消されていることもありワンサイドでの攻撃が目立ち幅が使えていない印象だったが、1本目のサイドチェンジでいきなり試合が動く。

まずサンペールと大崎がポジションを入れ替え、更にイニエスタも最終ラインに下がることで清水2トップの基準を狂わせる。

フェルマーレンが金子の単発プレスを難なくいなして清水4バックに捕捉されていない酒井に供給し、酒井はエウシーニョの逆を取ってガラ空きの右サイドにサイドチェンジを送る。

山口から受けた西がドゥトラを剥がしてフリーのイニエスタに送り、

イニエスタが見る者全ての予想を覆してシュートを選択し先制点を奪った。
最後を仕上げたイニエスタの個の技術がどうしても注目されがちだが、そこに至るまでのボールの運び方は非常に論理的なものだった。
プレビューでも書いた通り清水は4枚で横幅アタックに対応できなくなるとまずボランチを下げるので、(下図)

このように中央に空洞ができ、遅れて上がってくる中盤の選手が捕まえにくくなる。
そこを見逃さず絶妙のタイミングで侵入したイニエスタは流石と言えるし、もし彼の個人能力を活かす選択肢を採らなくても

このようにできたCB-SB間のスペースに西が走り込んでいればやはり決定機になった可能性が高いだろう。

3-2:15分~30分までの攻防

予定より早い時間に先制点を奪われた清水は、攻守とともに所謂"アグレッシブな姿勢"を打ち出す必要が出てくる。
と、いうわけでプレッシングの開始位置を高めての対応が頻発するのだが、清水としてはこの方が噛み合わせが良さそうだった。(下図)

神戸は高い位置からプレスを掛けられると飯倉を組み入れた4バック化をレパートリーとして持っているのだが、この形だと清水の2トップ+2SHと形が噛み合ってしまうため、ボール前進を阻害される場面が見られた。
清水の課題としては神戸2トップが裏抜けなどのアクションを起こすとなかなかラインを上げられないので、サイドに追い込んだはいいもののWBを捕まえきれずに対角線にサイドチェンジを飛ばされ撤退、といったこともあった。
この時間の神戸はドゥトラの対応が相変わらず怪しい右サイド(清水の左サイド)からの展開が多く、西から2度ほどサイドチェンジを蹴る機会があった。リードされたことで清水はボールを保持しての攻撃の局面が増えるが、ボール前進経路は殆どが外経由ということもあり神戸は右サイドを山口、左サイドを古橋という具合に役割分担を明確にして対応していた。

こうなると清水のSBに神戸のSH、清水のSHに神戸のWBといった感じでサイドで人が揃うのでこれだけで詰まってしまうこともあったが、CBが関与することでビルドアップに成功することもあった。

GK西部からCB二見に渡り、田中が2度追いを敢行するが間に合わずにドゥトラにレイヤースキップパスが通る。

逆サイドでサイドチェンジを引き取ったエウシーニョが酒井を突破し、金子が時間を得てフリーでクロスを上げてドウグラスのヘッドまで持ち込んだ。
先程から再三書いているがイニエスタサイドでの守備は神戸の課題で清水もそこを狙い目として認識していた可能性は高く、トランジション・ボール保持攻撃にかかわらず左から右という展開は再現性を持って見られた。
29分には前述したプレッシングの形からサンペールを河井が潰してドウグラスに決定機が訪れるが、飯倉の奇跡的なセーブで難を逃れた。(ちなみにこのミスの後にゴール裏からサンペールのチャントが流れたことに筆者はちょっと感動した)

3-3:30分~45分の攻防

少しずつ清水に流れが傾きかける中、ここで神戸の追加点が決まるのだからフットボールというものはよくわからない。

流れに乗る清水はハイプレスを継続するが、大崎から受けた飯倉は西へのフィードを選択。西が高さを活かして競り勝ち、セカンドを回収して左サイドに展開する。

1度はサイドに追い込まれ、ボールを失うが酒井がカウンタープレスを敢行し、金子から即時奪回。
金子がファウルを主張したことでフリーでクロスを蹴る時間を得、早く低いクロスを田中がファーで押し込んだ。
酒井がボール喪失時に前残り気味にプレスを掛け、その裏を流れたドウグラスに何度か狙われたことは前述したが、このプレーではそれが功を奏した。
清水からするとサイドに追い込むことは織り込み済みだったが、そこからボールを逃がせないとこうなるよ、といった失点だった。
追加点を奪った後の神戸はWBを前に出すアグレッシブな対応が増える。相変わらず清水のボール保持は外→外や直接中央に縦パスを送るようなブロックを大きく動かされないものが大半で、33分には西が敵陣でボールを奪いショートカウンターを発動する。
押せ押せの展開だったが次の1点を奪ったのは清水。得点自体は中央で密集してからのドゥトラの個人技といった所謂脈絡のないものだったが、そこに行き着くまでにはこのように(下図)

サイドを変えてエウシーニョを中に入れる時間を得てからの中央集合だったので、やはり中央で勝負するためには1度ブロックを動かす必要を感じるシーンだった。

④後半の変更点

4-1:神戸の守備

前半、ボールのあるサイドに応じて可変的な並びを見せていた神戸は、後半も大枠はそのままにイニエスタと古橋の位置を入れ替え、5-3-2の並びで守っていた。

また、右サイドでは山口がより高い位置を取るようになり、一時的に3トップのようになっていた時間帯もあった。

4-2:清水のメンバーチェンジ

追う清水は枠組みはそのままに54分に金子を下げて西澤を投入する。
長い時間守備に従事させられた金子の疲労度を考慮したのかもしれないが、単純な守備力で劣る西澤を入れて右サイドの対応が改善されたかというとお世辞にもそうは言えなかった。(当たっているドゥトラを変えられなかったのには同情するが)

⑤後半の試合展開
5-1:45分~60分の攻防

仕切り直しということもあって両軍積極的な入りを見せるが、前半とは違い後半の神戸は冷静なプレーでボールを落ち着かせることに成功する。
清水の狙いは変わらず、プレッシングからの速攻だったがいざボールを回収しても神戸の選手の切り替えが速く、徐々に遅攻の割合が増えていく。
ボランチのサイド落ちや交代した西澤を張らせることで守備基準を狂わせることは行っていたが、神戸のブロックの前に決定打を与えることはできなかった。

5-2:60分~75分の攻防

Jリーグではありがちなオープンな展開に陥ってくる時間帯に差し掛かるが、この辺りから清水の選手は前半から神戸のロンドに従属させられていた影響か明らかに切り替えの速度が低下していた。
象徴的なのは61分からのシーンで、

サイドで西がボールを失うがすぐにプレッシャーをかけGKに蹴らせることに成功。

蹴った先でも人数をかけて奪い、ラインの裏に出して田中が裏抜けに成功する。

シュートまでは持ち込めないがサンペール経由でサイドを変え、まだスペースを埋めきれていないドゥトラを尻目に西がフリーでクロス。
4バックで横幅アタックに対応する場合はドゥトラや西澤などSHが戻る(走って死ねる)ことが必須であり、この問題はこの後隠せない弱みとして何度も登場することとなる。

1度はクリアされるが広大なスペースでセカンドをイニエスタが拾い、無防備なライン裏にスルーパス。惜しくもオフサイドとなったが紙一重のところだった。
ここ最近の神戸が勝ちを拾えている理由はこの時間帯の強さにあり、前半からロンドで相手を動かして疲労させることができていることがその主な要因だと考える。(コントロールしたオープンな展開を作り出すことで小川のような裏抜け系アタッカーが活きる)
守勢に回る清水にとって68分のドウグラスの決定機は文字通り最後のチャンスで、これを飯倉がまたもや止めたことが運の分かれ目だった。
そのわずか30秒後、サイドでボールを奪った古橋が山口に預けて縦にスプリントし、イニエスタからパスを受けて決定的な3点目を奪う。

5-3:75分~試合終了までの攻防

76分に清水は河井に変えて楠神を投入。SHにフレッシュな選手を入れ横幅アタックに対応する意図かと思われたが実際はそうではなく、前述したドゥトラの裏問題はより深刻化する。
前後するが75分、サイドで拾った古橋がライン際を駆け上がり、ギャップに山口が侵入。

1度古橋に戻してイニエスタが受け、ほぼフリーの西に正確なスルーパスを配給する。

81分にも同じような局面から山口が抜け出し、チャンスを作った。

かのらいかーると氏も述べられていたが、左ハーフスペースからの折り返しはイニエスタのバルサ時代からの十八番で、これを防ぐ仕組みが清水にあるようには見えなかった。
※この項目は後日加筆予定

⑥雑感

イニエスタの守備負担問題に解決策を示した神戸と、ドゥトラを最後までカバーできなかった清水の対比が目立つ試合だった。大舞台でもロンドを90分ブレずにやり続けたことも大きな勝利の要因だが、もう1つ要因を挙げるなら身も蓋もないが個人の質的優位だと思う。