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2022.5.29 明治安田生命J1リーグ第16節 ヴィッセル神戸vs北海道コンサドーレ札幌〜sweet(s) spot〜

※記事自体は全文無料で読むことができますが、もしよろしければ150円(執筆のお供のコーラ代です)ほど恵んでいただけると幸いです。
※※試合を見返す時間が十分に取れなかったため、普段よりも抽象的というか、ゲームの大枠の話が中心です

スタメン

・神戸は橋本拳人を初めてスタートから起用し、山口を休ませる決断を下します。コンディション不良でアンダー代表を辞退したはずの小田は、仙豆でも処方されたのかまさかのスタメン入り。逆に郷家はあまり状態がよくなかったようで、ベンチからのスタートとなります。4バックはいつも通りの人選ですが、サイドハーフは左が小田で、汰木を右に回してきました。
・札幌は菅野,田中駿太,高嶺,小柏らを怪我で欠いているようです。カードトラブルで起用できない福森のところには深井を起用し、マンマークのイニエスタ番を任せます。身長168cmの駒井がトップを務める、ミシャらしいアバンギャルドな布陣(オブラートに3枚ぐらい包んだ表現です)でこの試合に臨んできました。

試合展開

右の汰木

・試合後に三宮のカフェでアジアンべコムさん⬇とお話しさせていただいたのですが、

・個人的な試合前のイメージとしては、汰木が左で、小田が右で幅を取って、札幌の3バックをワイドに広げる形を想定していました。

・懐かしい図を引っ張り出します。2年前のホーム札幌戦(名将三浦アツの初陣です)の図なのですが、札幌は今も昔も変わらずスペース管理に割と無頓着なマンツーマン志向の守り方をしてくるので、神戸のウイングが広がれば勝手に3バックも広がってくれるというのが構造的な狙いどころでした。
・なので、縦に抜ける速さはチーム随一の小田を順足サイドに置けば、武藤が降りてきたりして作ったスペースをランニングで活用できますし、苦し紛れのロングボールでも間に合うので、高い位置で橋頭堡を作ってくれるのではないかというのが私の予想でした。
・ですが、実際に小田が起用されたのは左サイドで、汰木が右に回ります。どういう意図があるのかなと考えてみたのですが、個人的にはベコムさんの提示されていた「山川と小田を組ませると無理がきかないから、それぞれ酒井と汰木にカバーしてもらう方がいいんじゃないか」という考え方がしっくりきました。
・掘り下げて考えてみると、右の山川はボール出しの所で自ら運んだり、パスで起点になったりすることが難しいので、どちらかというと空中戦などで"使われる"側の選手です。小田も同様で、現状彼も裏へのランニングが活きる展開でないと消えてしまいがちなプレーヤーです。なので、"使う"側にもなれる酒井と汰木と組ませることで、彼らがプレーしやすいようにしようという考えは理にかなっています。
・もう一つ考えられるのは、札幌の左HVの中村に対する対応です。彼は運びのところでも貢献できるプレーヤーで、右の岡村よりもどちらかというと彼からの展開をケアしたい。なので、より守備のタスクを遂行できる汰木を右に置いたということも考えられます。

スイートスポットの幅

・ロティーナ神戸のここまでのチーム特性を雑にまとめてみると、4-4-2の練度はそれなりに上がってきて、失点こそ抑えられるようにはなったものの、ボールを持って相手を動かすところはまだまだ不得手なので、どちらかと言えばボールを捨てる展開の方が都合がいいチームであると言えます。
・ボールを捨てるためには、撤退したところからボールを運べるアタッカーをピッチに立たせることと、とにかくスコアで先行することが重要になります。前者に関しては武藤とイニエスタがいる限り問題はないのですが、後者に関してはそれこそボールを安定的に敵陣に持っていけないので、運とか個々のタレントとかに拠るところがどうしても大きくなってしまいます。

・この前こんなツイートをしましたけど、基本的に言いたいのはこういうことだと理解していただければ結構です。まぁ別に点を取る手段は武藤のシャイニング・ウィザードでもいいですし、ボージャンのスパニッシュ・フライでもいいんですけど。

・ということを考慮に入れてから神戸と札幌の相性を考えると、守備はマンツー主体でスペースができやすくて、その上ボールを持ちたがってくれる(けどフィニッシュの手段はあんまりない)札幌は、神戸のあまり広くないスイートスポットにぴったりはまってくれる相手です。
・ロティーナのゲームプランとしては、連戦の最終戦かつ30℃越えのノエスタということもあり、一応CBが開いたところからボール出し自体はスタートするのですが、ボール保持にこだわらずさっさと武藤に放り込んで、札幌にボールを持たせるのが基本線だったと思います。どっちみち武藤とイニエスタの2人ならハイプレス的な1stDFは嵌らないので、高い位置で待つウイングまでボールが渡るのは許容するけど、そこからはやらせまいとする守備だったでしょうか。
・その上で相手のエラーを突くというか、どこかしらで武藤,大迫らのフィニッシュ・ホールドが爆発する時は来るはずなので、そこまでは我慢してゲームを進めようというのが考えだったと推察します。

山川(神) 1号

https://youtu.be/RWAVqsMSasw?t=74

・この神戸のゲームプランを確固たるものにしたのが17分の山川のJ1初ゴールです。ストーンを越えるような高めのボールで、惜しくも本来のターゲットであろう菊池には合わなかったのですが、ゴールから逃げる軌道のボールだった分クリアが難しくて、後ろで待っていた山川が打ちやすいチャンスボールになりました。にしても、あんな地を這うようなシュートを叩き込めるとは思ってもいませんでしたが。
・ともかく、喉から手が出るほど欲しい先制点を手に入れた神戸は、省エネモードで相手にボールを押し付ける準備が整います。水曜のゲームでは速攻主体にチャンスを作りながらもゴールにはたどり着けませんでしたが、この日は棚ぼた的ではあるものの、先取点を奪ってゲームの主導権を握ることができました。

迷える若武者

・札幌は左ピボーテの深井が左CBのポジションまで下りてきて、バックラインの3人とともに4バックを形成するおなじみの変形を行います。両HVはSBのような動きでタッチラインまで開いて、WBはウイング化するいつも通りの形です。
・神戸の1列目は連戦で出ずっぱりの武藤とイニエスタなので、中央を守る以上のタスクが与えずらい状況ではありました。加えて、右ピボーテの荒野もボールに寄ってきて、宮澤と深井の間に落ちたりしながら後方に加勢するので、前述したとおり神戸はここで無理はせずに、ボールは持ってもうてええけど、とりあえず君らが使いたい後ろのスペースは消しとくでといった対応をします。
・札幌の事実上の右SBである岡村はルーカスと被るくらいの高い位置を取っていて、右サイドのボール出しは宮澤にほぼ一任されていたのですが、このポジショニングに小田がかなり気を取られていて、ゾーナルなディフェンスとはいいつつも実際には人を見るような対応をしてしまっていました。
・小田にはルーカスにサイドチェンジが渡った際に後方に走って酒井と2on1を作るタスクがあったのも承知の上なのですが、にしても釣られすぎというか、幅を取って運んでくる宮澤に何のプレッシャーもかけることができていなかったので、結果的に神戸が押し込まれる一因になったように思います。

構造と人選の限界

・というわけで、少なくとも神戸の1列目を剥がすことはできていた札幌なのですが、そこから神戸の中央のブロックを動かすというよりはその前にサイドへ振る意識が強くて、迂回する形でサイドチェンジを蹴ってきます。
・そのうえ、札幌には英国王・ジェイボスロイドのような中央でクロスを得点に変えられるプレーヤーが不在なので、サイドからのハイクロス中心の攻めではあまり生産性がありません。守備がセットされていて、中央にスペースがない状態で駒井や金子が神戸の菊池,小林らに競り勝つのは困難を極めます。
・札幌がどのみちサイドに振ることはわかっているので、神戸のSBはWBへの寄せを躊躇なく行えます。その上で後から神戸のサイドハーフも加勢して、内と外の進入路を防ぐのが狙いだったでしょうか。
・結局のところ、前半札幌がサイドからゴールを脅かしたり、クロスが中央の選手に合ったりすることは数えるほどだったと思います。右のルーカスはダイナモ・酒井相手でも互角以上に戦えていて、自慢の細かいドリブルで数回縦突破を成功させたりもしたのですが、彼からのクロスもよっぽどいいボールがファーの菅まで流れない限りは神戸のDF陣がクリアできていました。
・サイドで詰まると札幌のHVはオートマチックにポジションを上げて、WBの"サポート"に入るのですが、これはむしろ逆効果というか、WBの仕掛けるスペースを奪っているのと同時に後方を手薄にしているので、ここをボールロスト後に使われて、神戸のボール保持への移行を止められないシーンが散見されました。

・ちょっと内容を先取りすると神戸の4点目はまさにこのような形で、荒野からのロングボールを高い位置に上がった岡村が競ろうとするのですが、ここまで高い位置だと神戸のSBの射程内に入ってしまっていて、酒井(この人は陸でも空でも戦えますよね)がヘディングでこれを跳ね返し、岡村の裏のスペースで汰木がボールを受けます。
・そこから汰木がサイドに出ざるを得なくなった宮澤をぶち抜いて、カバー役を置かない札幌DFを尻目にそのままゴール前まで侵入。左足のクロスは大迫には合いませんでしたが、DFに当たってネットを揺らしました。

目論見が外れた?

・ハーフタイムに神戸は小田に代えて郷家を投入し、汰木と左右を入れ替えます。この2人はより守備タスクの遂行に長けていて、札幌のHVに対して下がりすぎずにCBにプレスをかけられる位置を保てます。酷暑の環境下でも引きすぎるのではなくて、相手に圧をかけられるところではかけて、ボール奪取ラインを前進させていこうという意図はうかがえました。
・札幌は青木に代えてドウグラス オリヴェイラ(以降、相性のドドと表記します)を送り出します。ミシャの認識としては、サイドを突くところまではできているので、合わせるターゲットを用意すれば何か起こるだろうといったものだったでしょうか。

・実際にその"何か"は59分に起きます。荒野がサイドチェンジを菅に通すまでは神戸も想定済みとして、そこから菅がこの試合ではおそらく初めてカットインからインスイングのクロスを入れてきて、前川のキャッチミスから失点という流れでした。こういった自陣でのエラー(ロティーナが忌み嫌うやつですね)がまだまだ起きがちなのが現状の神戸なので、そこを減らすためにはもっと自分たちでボールを運べるようになって、敵陣でプレーができればいいのかなと思います。

つとめて老獪に

・神戸の2点目につながるFKを得るシーンは大迫の交代直後のファーストプレーから始まります。前川のゴールキックを深井と競って、ヘディングでボールを前進させて武藤につなぎ、裏に抜けた郷家がファールを受けます。札幌の対応は1on1が基本なので、神戸のセカンドトップとマッチアップするピボーテの所にFWタイプの選手を持ってくると深井では手に負えなくなってしまいます。
・セットプレーのキック自体は、ストーンを迂回する軌道のボールを武藤がマーカーより前に出て触った時点で勝負あり。武藤のマーカーの走路を遮断するように上手く菊池が斜めに入ってきていて、結果としてマーカーが武藤につききれなかったのが札幌的には痛恨でした。そもそも札幌には185㎝越えの選手が中村とドドしかいなかったので、傑出したキッカーこそいないとはいえ長身ぞろいの神戸のセットプレーを90分間ゼロに封じるのは難しかったかもしれません。

雑感

・ゲームプランの話に戻ると、スペースを消しながら札幌のマンツーDFの粗を突くロティーナの目論見から試合が外れかけたのは結果的にドドの同点弾だけでした。コンディション的に思わしくない5連戦の最終戦でこうした戦略勝ちを収められたのは、必ず今後にも生きてくるのではないでしょうか。
・ここまでリーグ戦で上げた2勝は鳥栖,札幌といったいずれもボールを持ちたがってくる相手に早々と先制点を取ってボールを押し付けた展開からのものでした。誤解を恐れずに言うと、発展途上のボール出しの質を問われない展開でしか勝ち点3を拾えていないのが現状です。
・幸い連戦は終わり、2週間弱の代表ウィークに入ります。リカバリーばかりで満足に戦術練習を行えていなかったはずなので、この期間にチームとしてのスイートスポットを広げる努力を重ねてほしいところです。

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