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2022.5.18 明治安田生命J1リーグ第11節 ヴィッセル神戸vs川崎フロンターレ 〜断絶〜

スタメン

・神戸は中3日の連戦ではありますが、前節から入れ替えたのは槙野→菊池のみ。勝っているチームは弄るべきでないという格言がありますが、それ以上に現状の神戸は替えのきかないポジションが多数あるので(具体的には酒井,ピボーテと2トップ)、クオリティの面を考えると致し方ない選択だったのかなと思います。ロティーナ談話によると槙野,大迫はどうやらコンディションが宜しくないようで、ベンチからも外れます。
・川崎も同様に中3日でこのゲームに臨んだのですが、スタメンに変更はなし。チャナティップを怪我で欠くなかで、空いたインテリオールの1枠は遠野が掴んでいるようです。ジェジエウ,登里は長期離脱中で、ベンチにDF登録の選手が一人もいないメンバーで敵地神戸に乗り込んできました(山村はCBもできますが)。

試合展開

成功体験とプラン

・前節は出会って1分の先制劇で鳥栖の出鼻をくじき、ボールを押し付けながらのスペースコントロールでゲームの主導権を握って勝利を収めた神戸。いかにもロティーナらしい勝ち方をできたことが、選手たちの成功体験となったのは間違いありません。
・この日の相手は川崎。鳥栖の上位互換といっては何ですが、同じようにボールの動かし方(ビルドアップのやり方)を知っていて、プレスも速くて無理がきくし、なにより前節の鳥栖と異なって、中央にレアンドロ ダミアンという本格的なストライカーを備えています。
・というわけで、オープンな展開も辞さない走りあいというのは真っ先に選択肢から消えます。こっちにも武藤とアンドレスがおるやんか!というのはそうなのですが、それ以上にダミアン,快速ウイングのマルシーニョや家長とスペースのある状態で相対すると、ロティーナの忌み嫌う"エラー"が起きかねません。
・よって、前節と同じように神戸は全体の位置を低めに設定し、背後のスペースの管理を主眼に置いた守りで相手にスローリーな試合展開を強います。そのうえで、ボールを持ったら簡単に蹴らずに地上戦での展開を探って、守り一辺倒にならないようにしながら川崎のエラーを誘発するのが大まかなゲームプランだったでしょうか。
・具体的にいうと、プレッシングの際は神戸は2トップをセンターサークルあたりからスタートさせて、ピボーテの橘田をオープンにしないように中央を守らせます。川崎のセンターバックがオープンな状態で受けたり、インテリオールが下がって受けたりするのは許すけど、そこから先は簡単にやらせないよ?といった守備だったでしょうか。

重ねに重ねた我慢

・川崎はワイドのウイングスペースに橋頭保を築いて、そこからのニアゾーンを突く攻撃にストロングを持つチームです。ワイドを取る選手だったり、スペースに走りこむ選手だったりというのは固定されていなくて、あくまで流れの中で流動的にタスクを入れ替えるのですが、ボール出しの所というのはある程度形が決まっていて、2CBが開いて、ピボーテが中央でセンターサークル幅に陣取る4‐3‐3の定石的な形をなぞってきます。
・川崎のCBは鳥栖よりもボール出しの所で比較的融通が利いて、簡単にリリースせずに何タッチか入れながら橘田への供給路を探ったり、運んだりして全体を前に押し上げることができます。
・これに困ったのが神戸のサイドハーフで、川崎のCBが簡単にSBに渡してくれればSBも高い位置に上がることができないので取りどころが分かりやすくなるのですが、彼らが運ぶ意思を見せるとすんなりとはプレッシャーに行けなくなって、リトリートを強いられます。
・前半、神戸の1stディフェンスラインがなかなか上がらなかったのにはこうした要因がありました。後ろが前に出られなければ武藤とイニエスタはステイせざるを得ないので(無理して追わないのが2人のよいところでもあります)、全体的に押し込まれがちになってしまっていた面はありました。
・川崎はサイドバックまで渡すところまでは行けるのですが、そこから先は神戸のサイドハーフが最終ラインまで戻ることも辞さないようなプレスバックでスペースを狭めてくるので、あまり余裕はありません。
・前半目立ったのは、川崎が右ウイングの家長を左サイドまで出張させたりしながら、左サイドにSB,インテリオール,WG,ピボーテなどを集結させて崩しにかかろうとする形。ですが、人ではなくてスペースを守っている神戸は簡単に引き付けられずにラインを守ってステイするので、むしろ使いたいスペースが食い合ってしまって、うまく崩せないシーンが散見されました。
・神戸はサイドにボールが出たらブロックがスライドし、しっかり斜め方向にカバーリングを行ってプレッシャーをかけて追い込むので、川崎がサイドを変えようにもピボーテが中央から追い出されていて、CB経由の各駅停車でサイドを変えざるをえなかったり、サイドを変えられても左に集結していた分右で待っているのは山根と脇坂だけなので、あまり効果的な攻撃にはつながっていなかったように思います。
・神戸の2トップがサイドまで出て守備をするとちょうど密集地帯の出口あたりを占有することになるので、そこでイニエスタがボールを落ち着かせたり、武藤が背負ったりして神戸のトランジションを成立させられるようになっていました。実際、神戸の右サイドで奪って、中央経由でオーバーラップする酒井に広げる形は何回かチャンスを作っていました。
・というわけで川崎の攻め手は中央のスペースのないところでのワンタッチか、インスイングでのクロスが大半でした。ラインから逸脱しがちだった菊池もこの日は中央の守備に集中できていたため、ダミアンと互角以上の戦いを見せます。
・中央と川崎の戦略目標であるニアゾーンをゾーナルに封鎖し続け、裏を取らせなかった神戸は、前半はほぼ危険なシーンを作らせないままゲームを進めます。が、前述したとおり神戸もボールの取りどころが見つからないままの45分だったため、川崎の幾度とないやり直しのU字循環によって走らされたのは事実でした。ここでの消耗がのちのち効いてくることになります。

チャレンジしてはいるものの

・守り一辺倒にならないためにも、ボール保持の時間をいかにして使うかはかなり重要です。走らされる展開が続くと後々苦しくなってしまうので、ボールを持てばテンポを落として、広くピッチを使いながら相手を動かそうという意識は共有されていました。
・神戸はいつも通り2CBが幅を取って、ドブレピボーテがあまり列落ちせずに中央で待つ形でボール出しを行います。SBはCBに近寄りすぎずに幅を取って、サイドハーフは中央のレシーバー役も務めながら斜めにワイドへ出ていく役割だったでしょうか。
・川崎のプレッシングは前節のレポで例示した所謂”広く守る"やり方なのですが、方法論は鳥栖と異なっています。
・具体的にいうと、ウイングが下がらずに1トップと1列目を形成して、中央寄りの位置からプレッシングをスタートします。ダミアンはピボーテを消しながら中央を守り、ウイングがスイッチを入れてCBに寄せる。2列目は可動域がかなり広く設定されていて、インテリオールがピボーテのカバーからサイドバックへの寄せまでこなします。
・6角形のような形になる分、中央を使えればスペース的猶予が与えられるし、サイドバックを使えばインテリオールが引き出せます。この日の川崎は連戦ということもあってかプレスの強度は控えめだったので、空き気味のサイドバックの所に前川がフィードを送ったり、ダミアンの裏を大崎が使ったりなどで少なくとも1列目が外せたシーンはいくつかありました。
・問題はここからで、サイドバックを低い位置での避難場所として使う分、そこからワイドに張り出すのが難しくなっていて、例えばイニエスタが中央で受けて、何人か剥がして前進したとしてもそこからウイングスペースに振ったりして目先を変える選択肢は持てていなかったように思います。右の山川はマルシーニョ対策で高い位置まで上がることを自制していたように見受けられたので、仕方ない面はあるのですが。
・一度川崎が撤退すれば4‐5‐1的になって前にはダミアンを残すだけになるので、その脇は神戸の2CBとドブレピボーテが使えるようになるのですが、毎度言っているようにこのスペースを2CBが持ち運びで使えるようになれば、後方で人が滞留する問題は解決されたように思います。川崎の車屋が躊躇ない運び出しで武藤の脇を通過しているのとは対照的でした。
・結局前半はお互いトランジションくらいでしかゴールに迫れない展開で終わりますが、クローズなゲーム運びは双方が意図したところだったように思います。
・神戸のリスク排除の姿勢は前述した通りですが、川崎も試合を寝かせておいてから交代選手でギアをあげるやり方は常套手段ですし、なにより彼らには幾多の撤退守備を破壊してきた成功体験があるので、必要以上に焦ることはありませんでした。

1歩踏み出す勇気

・神戸は後半開始から守備の所で修正を施し、プレスラインの上昇を企図します。具体的には、サイドハーフのニュートラルポジションを4,5m上げて、ドブレピボーテ‐2サイドハーフ‐2トップで六角形を形成するようなプレッシングに変更します。

・サイドハーフと2トップとのラインの結びつきを強くして、川崎のCBが持ったら斜めから寄せつつSBを切る1stディフェンスへシフトすることで、多少リスクを負ってでもプレスのポイントを上げて、敵陣でプレーしようとする意図がうかがえます。
・川崎は前半のプレーを加味してボール出しは2CBとピボーテだけで十分務まると判断したか、SBを上げて神戸のサイドハーフを押し下げようとしてきたのですが、前述した通り神戸のサイドハーフは前進してCBに圧力をかけるようになったので、後半開始直後はこの形が川崎を混乱させます。

・47分のシーンはこの形から谷口のパスを引っかけて、イニエスタ経由でボールキャリーした汰木が武藤へ斜めのパス。武藤が引き付けて郷家のヒールの落とし(彼はこういうワンタッチの意外性のあるプレーが得意ですよね)に山口が右足を振りますが、惜しくも枠外でした。
・後半立ち上がりの10分はロティーナが言うところのエラーをいくつか引き起こせた時間帯ではあったので、ここでなんとか一点ほしかったなという思いはあります。この先の時間帯では消耗から徐々にカウンターが打ちづらくなっていったのでなおさらです。
・川崎は後半から家長のスタートポジションを右ワイドの定位置にして、過度な渋滞を避けるようにプレーしていました。前がかりになった神戸のサイドハーフの裏は当然消しきれないスペースができるので、佐々木が下りて郷家を引き出し、遠野が流れたりしてそこを使う工夫もありましたが、あくまで散発的だったように思います。

Killing time

・川崎は63分の交代でダミアンと遠野を下げて、知念とシミッチを送り出します。前者の交代はあまりタスクの変わらない交代ではあったのですが、重要なのは後者で、これによって川崎は橘田とシミッチのドブレピボーテに形を変えてくる。理由としては、ボール出しで少し苦労する時間が続いたので、中央の枚数をリスクヘッジとして1枚増やすことと、神戸のカウンターの初動に対して2枚で対応できるようにしたかったということが考えられるでしょうか。
・しかしゲームの構図にはあまり変わりはなくて、神戸は後半も肝心の中央を動かされることなくボールをブロックの前に置くことができていたので、脅威と呼べるシュートはマルシーニョがトランジションから放った1本だけだったように思います。この構図は、75分に宮城が幅取り要員として起用されたり、小林の投入でターゲットが1枚増えたりしてからも変わりませんでした。
・ウルトラマン・イニエスタのカラータイマーは70分過ぎに点滅します。現状、イニエスタのボールを運ぶ能力がなければ神戸のボール保持は成り立たないので、次節の6ポインターマッチのことを考えるとこのタイミングでの交代は理解できます。
・とはいえやはりイニエスタがいなくなると神戸は時間を作れなくなって、ここまでの消耗との相乗効果でカウンターを打つのが難しくなります。解説・ゲットゴール福田氏は80分過ぎからイニエスタがいないことのデメリットをひたすら繰り返すbotになってしまったのですが、指摘自体は正しいところがあるのも事実です。
・両チームとも2トップがプレスのスイッチを入れられなくなってきたので、脇のスペースから侵入してワイドまでボールを運ぶことはできていたのですが、双方とも決め手を欠くままゲームはアディショナルタイムに突入します。

断絶

・問題のコーナーキックは川崎の左サイド深くで佐々木がボールを持ったところから始まりました。菊池はステイしたので局面は山川との1on1の様相を示したのですが、交代で右サイドハーフに入ったここで小田は山川の裏をカバーするのか、斜めの進路をふさぐのか中途半端なポジショニングをとってしまい、インスイングのクロスを上げる余地を与えてしまいます。
https://youtu.be/GU6MX9FDOyM?t=306

・結果として与えてしまったコーナーキックはストーンの前に入り込んだ谷口がニアで合わせて、ファーを気にしていた前川のニアを破ってゴールに吸い込まれます。ここまでの90分のディシプリンの伴った守備とは断絶したかのような2つのエラーで、勝ち点1は我々の手からすり抜けていきました。

雑感

・以前、フットボール的に再建が間に合うかと勝ち点的に再建が間に合うかは別問題だとレポの雑感欄に書いたことがありますが、本当にその通りの試合になってしまった感があります。王者川崎に対してこちらのやりたいことを出せたのは事実なのですが、それに見合った勝ち点を得る事はできませんでした。
・この試合だけに話を限定するなら、勝ち点1を逃したことをシリアスに受け止めるのは当然のことです。未だ残留圏から抜け出せない中で、喉から手が出るほどほしい勝ち点を逃してしまったことが痛恨であるのは間違いありません。
・しかし、逃した勝ち点を取り戻すすべはありません。ゲームプランをほとんどの時間でやりきれたという成功体験と、最後の最後でエラーが出てしまったという失敗体験の両方を糧にしながら、苦難の道を進んでいくしかないのでしょう。