見出し画像

2020年1月1日(水) 天皇杯決勝 神戸vs鹿島 【勝利の港】

プレビューはこちらからどうぞ

スタメン・基本システム

神戸は準決勝から2人メンバーを変更。
前回対戦で2度致命的なミスを犯したサンペールを外し、ポドルスキを入れてシステムを3-4-2-1に変更。鹿島に相性のいい藤本もスタメンに名を連ねた。現役最後の試合となるビジャはベンチから。
鹿島は土居をスタメンから外し、よりサイドで無理がきく名古を入れセルジーニョをトップ下に据えた。(情報通の方曰く負傷中であったらしい)

①両チームのゲームプラン

神戸

いつも通りボールと試合をコントロールし相手を従属させることが狙いだが、ビッグゲームということもあり普段より所謂“塩試合”度は高くていいという認識だっただろう。

鹿島

ボールを持たれることは許容するが、速攻とセットプレーで先制点を先に奪うことは何より重要視していただろう。

②基本構造

・鹿島のプレッシング

前回対戦とは異なりプレス開始位置を下げた鹿島だが、左右が非対称なのはそのままだった。(下図)

まず左の白崎を前に出し、配球能力が高くないダンクレーを監視。一方右の名古はできるだけフェルマーレンに釣られず、WBをマークしていた。
理由としてはSBが釣られた裏に古橋が走る展開を警戒していたのだと思うが、この策は後述する10分頃からの神戸のポジションチェンジによって効力を失ってしまう。
2トップはサンペールをバックマークで消すことが課されたタスクだと推測されるが、前述の通りサンペールがスタメンから外れたため基準点を見失ってしまう。
CHは相手のフリーマン(イニエスタ・山口)が定位置にいる場合はマンマークでの監視を行うが、彼らが1列下がってプレーした際(所謂ロンドの外周に降りる動き)はそのまま付いていくことはせず、ラインを維持することが多かった。(下図)

・鹿島のプレッシングに対する神戸のビルドアップ

神戸のビルドアップの出口はハーフスペースに陣取るシャドーで、彼らがブロックの中で中間ポジションを取り続けることで守備側に難しい状態を作り出していた。(下図)

具体的にはWBの監視がメインタスクの名古周辺にフリーマンが降りることで人数をかけ、ブロックを広げて縦パスのコースを空ける。名古が絞って対応する場合は酒井が空く、といったように二者択一を強いてボールを前進させていた。
また2トップの対応が不明瞭であることとディフェンスラインに数的優位ができていることを活かした持ち上がりも手段の1つで、1点目やポドルスキの幻のゴールでも大崎のドリブルが起点になった。

・神戸のポジショナルな攻撃

序盤の神戸の攻撃サイドはいつも通り左が中心で、深く押し込んでからは4バックvs5トップのミスマッチを活かしつつマイナスのクロス(所謂カットバック)を多用していた。(下図)

このように鹿島はサイドを抉られるとCHがギャップ埋めに動く必要があるので、1度ラインを押し下げてしまえば手前にはかなりスペースができる。
そこにクロスを送り込むことで何度かシュートまで持ち込む場面が見られた。

・鹿島のビルドアップ

大きく陣形を変えることはなく、4-4-2の範疇でボールを前進させていたが神戸がSHを前に出してCBと数的同数を作ると簡単に前に蹴り出していた。
ターゲットは白崎や町田だが、ここでダンクレーや西が空中戦に勝ち続けたことは大きかった。
地上戦のビルドアップでは中央で数的優位を作るためにセルジーニョが降りてくることもあったが、イマイチ得策とは言い難かった。(下図)

③0~15分の試合展開

蹴り合いの様相が弱まった前半3分、神戸の最初のビルドアップで基本構造と同じ形が早速現れる。

フェルマーレンが持ち上がるが、名古は釣られず1度酒井に預けてリターンを受ける。

大崎が引き取ってダンクレーに預けるが、白崎が前に出て監視しバックパスを誘う。
結果的に白崎の裏から前進に成功するが、その後はSBがしっかり詰めるようになったこともあってこの経路が使われることは少なかった。
一方、左サイドでは4分、大崎のサイドチェンジが酒井に渡り、詰めきれなかった永木の裏に古橋が走ってチャンスが演出される。(下図)

名古にWB番を任せて永木にスペースを守らせるのが鹿島の狙いだったと推測されるが、この様に酒井が裏抜けのアクションを見せることで名古を押し下げる意図があったと思う。
ある程度フリーで持てるCBからの縦パスを軸にした攻めが続いた前半10分頃、ポドルスキと古橋のサイドが入れ替わる。
前述した通り左サイドにイニエスタ·酒井·ポドルスキと人数を掛けていくことによって、二者択一を迫って前進をしていく。ポドルスキは下がってのサイドチェンジという十八番を披露することは少なく(引っ掛かってカウンターを浴びるのを警戒していた)、中間ポジションでハーフスペース突撃とポスト役をこなしていた。
鹿島の攻め手はセットプレーで、サイドで仕掛けを期待できる選手がいないこともあるが詰まったら当ててコーナーキック狙いを徹底していた。

④15~30分の試合展開

大枠は変わらず神戸のボール保持を鹿島が受ける展開になるが、前半16分に起点となっていたハーフスペース経由で試合が動く。
ともすればラッキーな得点とも見られるシーンだが、そこに行き着くまでは再現性のある崩しを行っていた。(下図)

まず大崎がフリーで運び、鹿島の1列目を越えてイニエスタにパス。ポドルスキが降りる動きで三竿と名古の2人を引きつけ、大外の監視が甘くなったところで酒井にパスが入り、時間を得てライン裏にスルーパスを通す。抜けてきたポドルスキのクロスは1度カットされるが、酒井が前残りしてのカウンタープレスがハマり点に結びついた。
酒井のカウンタープレスは清水戦の2点目でも見られた形で、そのパターンに持ち込んだ時点で神戸に分があった。
奪われたくない先制点を奪われた鹿島は地上戦でのボール保持が増え、伊藤やボランチの1枚が流れることで数的優位を作っての前進が見られたがこの場合ネガティブトランジションに必要な枚数を確保できないことが多く、空いたスペースに藤本が降りてカウンターの基準点になっていた。(下図)

次なる神戸の大チャンスは28分で、セカンドを受けた大崎が持ち運び、ポドルスキとのパス交換でPA付近まで侵入する。(下図)

アウトナンバーになっている酒井に浮き球のパスが通り、遅れて走り込んだポドルスキがカットバックを蹴り込んだ。(下図)

酒井のオフサイドで得点こそ認められなかったものの鹿島の守備の問題点を突いた論理的な得点だった。大崎の持ち運びに2トップが最後まで対応できなかったことが守備を苦しくしたのは間違いない。

⑤30~45分の試合展開

流れは変わらぬまま38分、西のクロスが犬飼のミスを誘い藤本に当たってゴールに吸い込まれる。
この時間帯は山口がアンカーに入る時間が増え2トップに明確な守備基準が与えられたこと(大崎が持ち上がるスペースが消えた)やシャドーへの楔にCBが対応するという方針が定まったことで一時的に守備が整理された時間であっただけに、西をフリーにしてしまったミスは文字通り痛恨であった。
ビハインドを追う鹿島はプレス開始位置が高くなる兆候もあったが、大枠に変更はなく後半に進む。

⑥後半の変更点

鹿島は前半試合に絡めていなかった白崎に変え土居を投入。システムを神戸と同じ3-4-2-1に変えて個の質で殴る狙いを明確にする。

⑦45~60分の試合展開

前述した通り神戸とシステムを噛み合わせた鹿島は超攻撃的プレッシングを敢行し、既に2点をリードしている神戸は無理をせず蹴り出す場面が増える。(個人的には大崎がアンカーの位置を取って伊藤を押し下げる動きはあっていいと思ったが)
この15分間で飯倉がゴールキックを蹴る機会は3度あったが、全て前線へのフィードを選択した。
数的同数プレスでボールを回収した後は左サイドに人数をかけて崩しに持ち込む。(下図)

敵陣には容易に侵入できるようになったためサイドプレーヤーが下がる必要がなくなり、名古は前回対戦で小川慶治朗をぶち抜いた自慢の仕掛けを解禁できるようになるが負傷により交代となってしまう。
ボールロスト後は人数をかけたカウンタープレスで回収するため、ボールを逃せなくなった神戸は撤退以外に選択肢がなくなり、徐々に危険な位置でのファウルコミットが増える。
大崎や山口のシュートブロックによって奇跡的に難を逃れていたがここで1点でも奪われていればさらに試合が動いていた可能性は否定できない。

⑧60~75分の試合展開

鹿島がボールを保持する展開なのは変わらないが、名古に変わった山本がそこまで仕掛けには期待できないことや神戸の5-2ブロックが最低限の強度を保っていたこともありなかなか中央が空かなくなってしまい、サイドに流れる動きが多かった伊藤を変えて中村を投入し徐々にレオ シルバを1列落としてHVを開かせる4-1-5のミシャ式的なシステムにシフトしたが、

町田はともかくブエノにサイドでプレーする適正が乏しかったことやターゲットになり得る選手を下げたことで結局中央で中村が持ち味を発揮できたのは73分のショートカウンター1回きりだった。
神戸はイニエスタが痛むような仕草を見せていたが、この時点ではプレス耐性を期待してピッチに残した。

⑨75分~タイムアップまでの試合展開

神戸は78分に殊勲の藤本に変えて田中を投入。
投入直後の田中は深い位置まで下がり、プレスバックでイニエスタの守備負担を軽減する役割を果たしていた。
情勢はほぼ変わらず、神戸のブロックを鹿島が攻めあぐねる。永木のピンポイントクロス以外には目立ったシーンがなかった。
イニエスタは結局85分前後までプレーし、安井と交代。ビジャの交代出場という見せ場もしっかり用意し、最後までともすれば“らしくない”戦い方で試合を塩漬けすることに成功した。

戦術的まとめ

神戸としては、前半の構造で殴れている時間に2点をリードできたのが何より大きかった。
最後にボールを持たせるところまで計算してプランニングしたフィンク監督の戦略と、古橋とポドルスキのポジションチェンジに象徴される修正力でも鹿島を上回った。
鹿島は3バックに対するプレッシングの形が結局見つからなかったのが痛かった。ミスマッチのまま消化してしまった前半のミスがなければ、もう少しマシな展開になっていただろう(どことなく日本対カタール感のある攻防だった)。

個人的雑感

地元のある富豪が買い上げた沈没寸前の船は、塗装を変え、何度も船長を変え、2度暗礁に乗り上げるも幾多の乗組員達や乗客と航海を続け、ついに勝利の港に辿り着いた。
これがゴールかと言われるとまだそうではないが、今だけはこの喜びに浸ろうと思う。