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2022.4.10 明治安田生命J1リーグ第8節 ヴィッセル神戸vsセレッソ大阪~ここからもう一度始めよう~

スタメン

・神戸初陣となるロティーナのチョイスは4-3-3。GK+4バックは前節東京戦と同じメンバーを流用し、ソロピボーテには扇原を起用。右ウイングには初瀬が復帰した。

4‐3‐3のすすめ

・4‐3‐3をJリーグで実行するにあたって、問題となるのが3点。センターバックのクオリティー,ピボーテの位置取り,ウイングの破壊力の3点である。

①センターバック


・前節東京戦のレポでも述べたが、J1のチームであっても、水準以上の対人能力とボール出しのスキルを両方備えたセンターバックはほとんどいないのが現状である。フェルマーレン,大崎,ダンクレーの3枚をそろえていたフィンクの神戸は稀有な例だ。
・CBが運ぶドリブルを行わないチームは、相手を効果的に動かすことが難しい。かつ、チーム全体が低い位置に滞留して、陣形の縦幅をコンパクトに保てなくなってしまう。”同じ列車で旅をする”には、バックラインからの突き上げが不可欠なのである。

②ピボーテ


そもそも、ピボーテ(pivote)とは、スペイン語で「軸」を意味する単語である。一度読者の皆様に椅子から立ちあがって、片足立ちをしてみていただきたいのだが、体の中心部にしっかりとした体幹がなければ、体はふらつき、バランスをとることは難しいだろう。フットボールにも同じことが言える。
・ベトナム戦の柴崎岳のプレーが典型だが、ピボーテがセンターサークルの幅からふらふらと離れ、ボールに寄ってきてしまうと、チームは軸を失ってしまう。リカルドの浦和やアルベルトーキョーが必死になってピボーテの人材を求めているように、このポジションの選手を日本国内で調達するのは困難を極めている。
・サンペールを欠く今、ロティーナが選んだのは扇原。彼の一日も早い適応がチームの浮沈のカギであるといっても過言ではない。

③ウイング


・この話については散々書いてきているので、いまさら多言を要する必要もないだろう。ロティーナは以前、このようなことを話していた。

ここ数年の日本サッカーからは良いサイドアタッカーが出てきている。横浜F・マリノスやサガン鳥栖には特徴的なサイドアタッカーがいて、川崎フロンターレには優れたサイドアタッカーが数多くいる。それはなぜか? 現代サッカーにおいてはどれだけパスを回しても、高いボール支配率で相手を支配しても、1対1で相手の守備システムを打開しなければ得点のチャンスが生まれないからだ。
 その代表例がジョゼップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ)で、彼は常に攻撃において1対1を有効活用してきた監督だ。守備システムがこれだけ向上した現代サッカーにおいてはスペースも時間もなく、攻撃では素早くサイドにボールを循環して、そこでの1対1で活路を見いだす必要がある。1対1に秀でたサイドアタッカーの重要性は年々高まっている。

サイドアタッカーの出現は進化の証し C大阪ロティーナ監督が見た日本サッカー - スポーツナビ (yahoo.co.jp)
・ロティーナのように極力リスクを排し、静的なポジショニングでクローズな戦いを志向する監督にとって、均衡を崩すポイントはウイングの1点である。ヴェルディでは泉澤、セレッソでは坂元と優秀なウインガーに恵まれてきたロティーナだが、神戸では手札が圧倒的に乏しい状態。本職はサイドバックの初瀬を右の逆足ウイングで起用したのは、この苦悩を物語るものであるといえるだろう。

前半

出会って2日で即浸透?

・試合の最序盤はセレッソがボールを握る時間が長かったように感じる。ゴールキックの挙動が物語るように、神戸も決してボール保持を断念したわけではなかったが、まずは相手にボールを譲り、ゲームの鎮静化を図る。
・セレッソは定型の442をあまり崩さず、ミドルゾーンでは2枚のセントロカンピスタを1トップの大迫の脇に降ろしつつ前進を試みる。神戸的視点からすると、今シーズンのセレッソはボ-ル保持による試合の支配で勝ってきたチームというよりは、フレッシュな2トップの速攻にストロングを持つチーム。よって、ボールを譲ってしまっても問題ないという判断はあったはずだ。
・大迫の脇に降りてボールを受けた選手に対しては、4141の2ライン目から主にインテリオールが出てきて前方向をけん制しつつ、大迫を援護する。たいていの場合、この役はどうしても帰陣が遅くなるイニエスタであった。
・神戸の守備陣形がイニエスタをトップ下にした4411のようにも見えていたのはこれが原因である。トランジションの流れから扇原がサイドの選手とボールに食いつきすぎることもあったが、他の選手の勤勉なスライドにより、その穴をセレッソが有効活用することは少なかったように思う。
・きちんとDFラインを上げ、縦横とともにコンパクトな状態を作れていたのはポジティブな要素であった。セレッソが時折狙ってくる縦パスも、きちんと集団で網に引っかけることができていた。
・唯一問題となるのは、ワイドに開いたSBの山中,松田らによるアーリークロスや、2トップを走らせるボール。そこでのエラーを避けるため、左ウイングの汰木はミドルゾーンでヨニッチがボールを持った時に外から内へと圧力をかけるプレスを選択。U字型前進の経路を破壊し、バックパスを促す。
・より守備で無理がきく右サイドの初瀬は、低い位置まで下がることも辞さず、なるべく西尾には食いつかずに持ち場を守る。内側から圧力を高め、サイドに追いやる普遍的なプレッシャーのかけ方で対抗する。
・両者のクロスに対し、神戸の守備陣形が大きく乱れている状態(例えば、センターバックの1枚が釣り出されていたり)で対応する場面はほぼなかったので、失点シーンは文字通り痛恨であった。

・イニエスタが一発で西尾に寄せてしまい、簡単に交わされてしまったのは反省材料の一つ。しかし、この精度のクロスを通されてしまうと守備陣にできることは少ないように思える。対面の初瀬の対応が根本的に誤りだったというわけでもなく、2人のCBの上を通過してしまうクロスを放った山中を褒めるしかないだろう。
・とはいえ焦れることなく相手を引き込み、ゾーナルに守ってスペースを消すロティーナの守備がある程度形になっていたのは、彼自身の手腕ももちろんだが個人的には前任のリュイスによるところも大きいのではないかと思う。彼が3週間ほどでチームに植え付けた原則がロティーナ体制下でもきちんと活かされているのを見ると、改めて両者のゲームモデルの親和性を感じざるを得ない。

ボール出しに関する一考察

・神戸は扇原をピボーテに据え、ウイングをはっきりとサイドに張らせた433の布陣を取る。2CBはきちんと深さを取り、GKからボール出しをスタートしようとする意志を見せる。
・セレッソは442で構え、ひとまず中央を封鎖。サイドに出たところを人とボールを捕まえるオーソドックスなやり方で対抗する。
・この試合の前半、神戸がうまく相手陣内までボールを運びきれなかったのはバックラインの責任であると感じる。やはり気になったのは、センターバックとピボーテのプレーだ。

小林友希が上へ行くためには

・セレッソは無理をせず、ピボーテの選手を消すことにフォーカスしていたため、神戸のセンターバックにはある程度時間とスペースが与えられていた。
・右の菊池は、とりあえず隣のサイドバックに流すだけだった前任時代とは異なり、一つ飛ばして同じサイドのウイングに速いパスをつけてみたり、サイドチェンジを飛ばしてみたりと試行錯誤しつつ、なんとかしてロティーナのオーダーに応えようとする姿勢は見せていた。
・ワンタッチ目で前にコントロールオリエンタードをすることができれば、より相手1列目の突破が容易になるのではないかと感じる。足元に止めすぎることなく、しっかりと前方へベクトルを向けることができるようになれば、その後の運びにもスムーズに移行できるはずだ。
・問題は相方の小林である。セレッソの右サイドハーフを務める中原は基本的に持ち場にステイしていて、センターバックにプレスをかけたシーンはほぼなし。よって、菊池と扇原で山田を釣り出せた状態なら、小林には運ぶスペースがあるはず。
・だが、そこで小林は中原に働きかけるような形で運ぶドリブルを行えず、早い段階で酒井に渡したり、一つ飛ばして汰木につけたりとリスクを取り切れないプレーが多かった。
・こういったプレーはまさにフェルマーレンの得意としていたところ。下の画像は懐かしの天皇杯準決勝のものだが、彼はこのようにサイドハーフを引き付け、近い距離感でプレーすることができていた。

・小林が中原をうまく引き出せれば、受け手の酒井や汰木にはよりスペースが与えられたはずだ。後ろからの貯金を前に引き継ぐというバックラインの仕事を彼がこなせなかった結果として、左サイドではセレッソを十分に動かしきれず、攻略に多くの人員を割く羽目になってしまった。ワンサイドに過剰に人員をかけすぎてしまうデメリットについては後述するが、ともかく好ましくない状態なのは間違いない。
・パススピードや、ときたま繰り出すサイドチェンジには光るものを見せている小林だけに、ロティーナ・イヴァンの指導次第でモダンなセンターバックになる可能性は十分秘めている。チームのために、自らのキャリアのために、彼のもう一段の進化が求められている。


扇原貴宏はピボーテの夢を見るか?

・三浦政権時代はたびたびピボーテで起用され、サンペールの代役としての働きを求められていたものの、期待に応えることはできていなかった扇原。しかし、投資額を考えると、簡単に彼をあきらめるわけにもいかない。
・そんな事情もあってか、この試合では大崎を差し置いて彼がソロピボーテを務めた。先に総括をすると、彼なりに意識をしてこのポジションに取り組んでいることはうかがえたが、まだまだ足りていないところも多いなという印象だった。
・ビルドアップの初期段階では中央に陣取ろうとする意識は見えたが、前述したように左サイドで手詰まりが発生していたため、必要以上にそちら側へ寄って”サポート”をしようとするシーンが多発。山田をこちら側へ引き連れる結果となってしまい、かえって使えるスペースは減ってしまった。
・彼は左利きのため、サンペールと異なって右サイドへの展開を苦にしているのも難点の一つ。左サイドで持った時にターンをして、右足で逆サイドへとボールを開くことができないので、健気に張っていた初瀬に有効なサイドチェンジが届く場面は前半にほとんどなかったように思う。
・これは先ほどの話にも通ずるが、センターバックが持った時に彼らが運ぼうとしないので、扇原がピボーテポジションを放り出し、早い段階で3バック化してしまっていることも多々あった。
・数的優位ならええやんけ!と思う方もいるかもしれないが、後ろを3枚にしたいならセンターバックはもう少し開いて、2トップの脇を運んでいくのが定石。この試合の彼らにはこのアクションが両方欠けていたため、ただただ前を攻略するための人が減っただけで終わってしまった。
・この試合では、後方部隊がボール出しのコストを負いきれない分を大迫やウイングの2人が下りることで請け負っていた面が大きかった。本来彼らは前でスコアリングやレガテに注力してほしい人材。このような形で彼らを使うことは本意ではない。
・コンディションの面は我々にはうかがい知れないが、この出来なら大崎のほうがソロピボーテにふさわしいのではないかと思ってしまったのも事実。単純なキック力こそ扇原には劣るかもしれないが、中央に堂々と陣取るポジショニングは一日の長があると感じられた。

後半

前進の理由

・後半になると、神戸のプレーエリアは少なからず前進する。理由としては、早々とリードを得たセレッソが無理をする必要がなくなったことが挙げられる。確かにウイングがサイドチェンジを受け取るところまではいけても、そこから対面の選手をぶち抜いたり、カットインからスコアリングするのは汰木,初瀬には酷な仕事である。
・セレッソも先制される前の神戸と同じように、ジンヒョン‐西尾‐ヨニッチのユニットでスペースを消しておけばそうそう破られることはないと判断したのも十分理解できる。
・60分に神戸は初瀬→ボージャン。ボージャンは2戦連続の右起用だが、今回与えられたのは右で張る仕事。彼に期待されていたのは、バックラインの不手際から下がって受けがちだったウイングの事情を勘案し、そこから運んでの陣地回復を図るタスクだったのではないだろうか。
・ターン力はやはり別格のボージャンを投入したことで、菊池,山川の苦し紛れのパスを彼が引き取り、前進する形が作れるようになる。タッチラインを使いながら、相手を背にしてキープできる右利きの利点を利用した形だ。

スローインも立派なセットプレー

・リュイス体制になってから、神戸ボールのスローインの際に、必ず逆サイドで張る選手を用意するようになっている。この利点としては、密集地帯から抜け出すためのサイドチェンジの基準点を作れることや、一気に斜めのランで裏を急襲できることだろうか。
・サイドに張る選手を用意することによるワイドな攻撃の意識づけは、セットプレー,通常のプレー問わず徹底されていた。普段はあまりサイドチェンジを蹴るイメージがない中坂でさえこの試合ではいいボールを何度か蹴っていたのを考えると、意識づけは順調だといえるだろう。
・68分には、スローインの流れからセレッソボランチ脇の中央でボールを持った中坂が、前述した斜めのランで松田の裏を取った汰木に惜しいスルーパス。負け惜しみではないが、正直1点もののシーンだっただろう。

夜明けの井上潮音

・今季初出場となった井上。この日のポジションは順足の右ウイングだったが、かなりポジティブな驚きを提供してくれた。

・以前このようなツイートをしたのだが、この日の彼は簡単に押し負けず、うまく対面の相手をやり込めてターンを決めていたのが好印象。J1での2年目となる今シーズンに合わせ、きっちりとバージョンアップを図ってきたのがうかがえる。
・右ウイングとして爆発的な縦突破はレパートリーにないものの、きちんとした幅取りや、体幹直下にボールを置いての運び出しを駆使し、チームを動かしながら自らの持ち味もうまく落とし込んでいた感がある。
・77分のニアゾーンへの抜け出しは、フィンク時代の山口蛍を想起させるものだった。持ち場を守る意識が希薄であった中坂ではなく、彼をインテリオールで使ってみるのも一考に値するのではないだろうか。

総括(主にボール出しについて)

・ネガティブなことも多々書いたが、前任時代に比べるとボール周辺の人口密度もだいぶんと緩和され、開くウイングを用いたワイドな展開を使えていたのも事実。就任会見でロティーナは「セレッソ戦までにまずは攻撃に注力したい(意訳)」といったことを話していたが、その言葉通り、新体制移行の初期段階にしては悪くないプレーも散見されたし、なによりイニエスタのプレーエリアが過度に低くならず、高い位置でプレーできていたのが一番のポジティブな要素であろう。
・ラスト25Mでのスペシャルなサイドアタッカー不足という問題は今後も間違いなく付きまとうが、いないならいないなりにその問題と向き合うしかない。補強以外の改善方法としては、やはりバックラインの相手を動かす意識と、個人戦術の面が挙げられるのではないだろうか。

雑感

・繰り返しになるが、神戸の戦い方をゼロベースから再構築し、軌道に乗せたリュイス前監督に改めて謝意を述べたい。ロティーナ神戸が初期段階にしてはそれなりの形を見せられているのも、普遍性のあるフットボールの基本をチームに落とし込んだ彼の功績だといえるだろう。今後もぜひ神戸でその腕を存分に振るっていただきたいところである。
・けが人が帰ってくるまでは、足りないところは必死にパッチワークをしながら、この試合のようにクローズなゲーム運びで勝ち点を掠め取っていくしかないだろう。補強ポイントは明確になったが、サッカー観に相違のありそうなSD(仮)は適切な補強を施せるだろうか。
・個人的には、正直神戸のウェアを着ているロティーナチームの姿がいまだに信じられない。休暇期間を切り上げ、ごたごた続きのクラブに身を置く決断を下してくれた彼らに最大限感謝するとともに、サポートをしてあげたいという気持ちで一杯である。
・まずは、上海海港の棄権で若干の日程的余裕ができたタイ遠征を「戦術的なトレーニングキャンプ」として活用できるかどうか。5月からのリーグ戦反転攻勢に向けて、ロティーナチームの腕の見せ所である。