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【新しい風が今】2020年7月11日(土) J1リーグ第4節 大分トリニータvsヴィッセル神戸【吹き抜けて拓けたよ】

スタメン・基本システム

神戸は前節から6人を変更。山口蛍をピボーテに置き、インテリオールを安井、郷家で固める布陣。菊池はこの試合がJ1初出場。
大分も同じく6枚替え。前回奏功した田中達也をシャドーに配置する策をスタートから採用する。(島川と長谷川の位置が途中まで逆になっています)

1 前半

大分ボールでキックオフ。岩田に下げて松本に預けたところを神戸が古橋と酒井で囲んで奪い、古橋がPA前まで運んで流して安井のミドル、大分の選手に当たって浮いたこぼれ球に再び古橋が左足で合わせて対角線に突き刺すスーパーボレー。開始16秒での望外の先制点から、ゲームはスタート。
得点こそ奪えたものの、大分ペースで試合は進む。神戸のGK-2CB-ピボーテのビルドアップに対し、大分はいつも通りの5-2-3守備で対抗。中央の5角形内から神戸の選手を排除して、他の選手にはマンマークで対応。ミスマッチとなる山口に対しては知念のバックマークで対応し、神戸の攻撃を外回りに制限。

高い位置からのプレスのキーマンも知念。飯倉に寄せつつ山口を消せる位置取りをすることで、両CBにシャドー,SBにWBという形でマークをかみ合わせることに成功。幾度となくショートカウンターを成立させるが、飯倉の好セーブなどで難を逃れる。

そうこうしているうちに、12分頃を境に山口は内部の圧力を嫌って、CB間に落ちてきてしまう。これははっきり言って悪手で、1人降りてしまうとまた1人と"サポート"に降りなければボールを循環させるのが難しくなってしまい、結果的に前線の選手をいるべき場所から遠ざけることになってしまう。
今日の神戸でその割を食っていたのは主に古橋,田中順也の2人だった。(藤本は我慢してラインけん制役をこなしていた)

同点ゴールもハイプレスから。知念に詰められた飯倉が酒井に浮き球を通すが、酒井に松本、郷家に岩田と詰めてボール奪取。岩田がそのまま大崎の内側のスペースに侵入して、三平のパスを受けてコントロールショットという形だった。


序盤の神戸はWBをWGでピン止めしてSBに時間を与えるなど5角形ディフェンスの弱点である大外を使うこともできていたが、マンマークで整理できる展開だと難しい。古橋に釣られた岩田の裏を酒井が突くシーンもあったが、これも散発的だった。
この試合と似たような展開だったのがACL第2節の水原戦で、その日もピボーテは山口。彼が5角形ディフェンスの中で我慢できなかったため、イニエスタら本来崩しで使いたい選手が降りてきてしまう現象が多発していた。

その点サンペールは(横浜戦のような例外もあるが)基本的には降りずに、中でタスクをこなしてくれる。改めて、彼の凄さと希少性を感じる前半だった。
J1初出場の菊池。運ぶドリブルを見せる機会も数回あったが、基本的にボール保持に関してはまだまだの選手。特に山口が降りて3バック化してからは田中達也のプレッシャーからボールを早い段階でリリースしてしまう場面が目立った。個人的にはtwitterにも書いたが、隣にサンペールや西などプレス耐性が高い選手がいた場合はどうなるか気になるところだ。
https://twitter.com/David_Rina7/status/1281928253008048128?s=20
大分は、GKを使ったボール前進という面ではJ1でも有数のクオリティーを持つチーム。そういう相手にはハイプレスで根本から組み立てを破壊しようというのがフィンクの志向で、その流れは今回も変わらなかった。
だが、なかなかプレスがはまらない。理由としては、まず大分は限界まで後ろの人数を増やせるということ。基本的に所謂ミシャ式は、人員を前と後ろに分割しての運用に特徴がある。GK高木がフィールドプレーヤーと遜色ないディストリビューション能力を持っており、3バック+2CHの変形に加えてGKをDFラインに加えた変形も可能であるため、前から人を当てるやり方ですべてを処理するのは難しい。今回の試合では、図で示した藤本vs大分のGK-鈴木+島川(どちらかというと長谷川より彼が落ちることの方が多かった)の場所で数的不利が生じ、ハイプレスでの封殺は困難になってしまう。

神戸のインテリオール(安井)がマーク関係を守って藤本に加勢することもあったが、前述したとおり高木がいれば恒久的にフリーマンができる設計の為、あまり有効な手ではなかった。

かといって前から行かないと、今度はミスマッチを利用されて前進されるのが関の山。ワンサイドに神戸を寄せてから、アウトナンバーになっている逆側のWBを使って、神戸の4バックに困難を突きつける。
この試合の前半はCBがサイドにつり出されて手薄な中央にクロス、といった場面が数回見られたが、基本的にはこの仕組みだったように思える。神戸の2CBは大崎と知念、田中達也と菊池といった関係でマークを整理していたが、サイドに落ちる田中達也への対応に菊池は苦慮していた印象がある(その中でもある程度戦えていたのは好材料)。
前回6月、ハイプレスから2点を奪った大分戦との違いはどこか。既におぼろげな記憶を紐解くと、確かこのような展開だったように記憶している。
あの日の重要なファクトは、2トップがアンカーへの配給路を遮断しつつGKにも当たれていたことと、SHが所謂"走って死ねる"タイプだったこと。ミシャ式に対して4‐4-2というのは本来あまり相性のいい噛みあわせではないのだが、運動量の多く位置取りの的確な2トップ、機動力に長けたSHを揃えることで後ろの人数を可能な限り削ることが可能になっていた。

2 後半

神戸は3バックに変更。山口を1列下げて(おそらく山口のバック起用は初)、ミラーゲームに。

55分頃に大分が"神戸キラー"渡を投入したのを機に、山口と大崎の位置を入れ替え、大崎をリベロに配置する。

大崎が最も得意な位置に入ることで、前の選手を落とさずにビルドアップすることが可能になる。安井をピボーテに置いて(前を向くプレーは少なかったが)郷家と縦関係にして、大分のプレス開始位置が下がったこともありライン間に陣取るキレキレの古橋から何度か崩しに成功する。
この時間神戸が苦しんでいたのはピボーテ脇からの被カウンター。大分の差ドーは最初からカウンターで使いたい中央よりにポジションを取れる為、トランジションが機能し徐々に試合はオープン展開の様相を帯び始める。


非保持の守備も、高木周辺はある程度放置してマーク関係を明確に守るようにしたことで、混乱は明らかに減少していたように思う。

同点の75分、フィンクが大胆に動く。J1史上初であろう4人同時交替を実行し、さらにCHにアタッカーのイメージがある佐々木を起用。リアルタイムでは困惑も覚える交替策だったが、結果的にこの動きが試合に変化をもたらす。

非保持は前線を入れ替えたメリットを活かし、もう一度前から行く姿勢を鮮明に。その結果、試合は双方スペースを残して前に出るオープンな展開に。
ボール保持は、佐々木をピボーテに置く形。字面だけならファイヤーフォーメーションかと思われるかもしれないが、この配置が大当たり。
佐々木は5角形の中にしっかりと常駐して中央に相手を引き付けて、いざボールを持てばターンで前を向くあたかもサンペールのようなプレーを披露。披露も考慮すべきだが、大分のライン間が空くようになっていたのは偶然ではない。


トランジションでも躍動する佐々木。アタッカー時代の機動力はそのままに、ネガトラでは囲みを突破された後のカバータスクをこなす。ボールに食い付く嫌いこそあったが、初陣にしては上々の出来だった。
カウンターから決定機を数回作った神戸だったが、小田と佐々木の逸機が響きゴールを割ることはできず。最低限の勝ち点1を神戸に持ち帰った。

3 戦術的まとめ

3連戦の最終日でマネジメントが問われる中、トルステンは上手く対処していたように思える。前半こそ外国籍選手の不在を感じさせる内容であったが、3バックへの変更、大胆な4枚替えで流れを変えた。
戦術的ヒットは佐々木。大崎をバック専門で使わざるを得ない状況下、彼のプレーはまさに希望の光で、サンペールを運動量的な問題で途中交替させたとしても、彼が残っているとなればボール循環力は維持されるはずだ。
その他の若手選手も特筆すべき欠点はなく、ある程度は実戦でもやっていけるクオリティを発揮した(小田は1本でも決めていればヒーローになれただろう)。「補強が少ない!」「選手層が薄い」と非難を浴びていた神戸だったが(私も言っていた)、この分なら案外夏の補強ポイントは少ないかもしれない。