春待ち列車

大きな選択を迫られたとき
人は迷うだろう

でも、
大きな選択をする人のそばにいるとき
私に何ができるだろう

彼は県の都心部にある企業に推薦された。そして彼はその推薦を受け、面接に行くと決めたらしい。彼は私と同じ地元の大学に進むつもりだったから驚いた。少し心にもやもやを残しながら彼が面接に行く日を迎えた。

都心部へ行く特急のホームは少し混んでいた。特急なんて滅多に乗らないから不安を紛らすためにホームまで送りにきたのだ。特急券を買うのにも手こずっていたからついてきて正解だった。
まだ少し時間があったため、ホームでは他愛もない会話をして時間が過ぎるのを待った。

初めておそろいのTシャツを買った話
彼がデートに遅刻してきて喧嘩した話
誕生日のサプライズを失敗した話

なんでもないような、なんでもある話は私たちの心の距離を縮めた。
そうこうしているうちに特急がホームについた。

行ってらっしゃい

そう背中を押すと彼は

行ってきます

と言って電車に乗りこんだ。
その背中に私は咄嗟に彼の名前を呼ぶ。
振り返った彼に…

ピーッ

言葉の途中で発車のベルは鳴り、扉がしまった。

ねぇ、そこに受かったら
会うたびにこんな思いをするのかな?

やりたいことをやってほしい気持ちと私のわがままが交差する。こうして私たちは前に進んでいくのだろう。

冬の風に背中を押された私は入場券を握りしめて、ホームをあとにした。

#小説 #短編小説 #超短編小説

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?