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ベランダに落ちていたのはジップロックされたパンティー

それはよく晴れた気持ちの良い朝のこと。起き抜けにカーテンを開け、ベランダに出ると、違和感を感じた。

ふと足元を見ると、無機質なコンクリートの上に見慣れない物体が落ちていた。薄い桃色で、文庫本くらいのサイズ。透明なビニールで包まれている。

パンティーだった。

丁寧に畳まれた桃色のそれは、ジャストサイズのジップロックにパッキングされている。

そうだね、こんなに気持ちがよい朝だもの。パンティーくらい落ちてるさ。あるある、あるあ……いや、ないないないないっ!

一撃で目が覚めた。原因がわからない。どこからか落ちてきた? いや、上の階は独身男性だ。誰かが投げ入れた? 何のために? そんなことする理由がわからない。

理由はどうあれ、大変に困った状況だ。「アラフォー独身男性(私)」と「パンティー」は非常に食い合わせが悪い。同じ空間に存在すると、なんとも誤解を生みやすい代物である。

相当に戸惑ったが、意を決してそれを拾い上げるとまずは紙袋に入れた。するとなんだろう、逆に後ろめたさが高まるルックスになってしまった。

「拾う瞬間を隣人に目撃されたかもしれない」自意識過剰かもしれないが、そんな不安さえ頭をよぎる。

だめだ、一旦コーヒーでも飲もう。すっかり動揺している。一息入れるべきだ。落ちてたもんは仕方ない、それに俺はやってない。大丈夫、大丈夫。

コーヒーを飲み、動揺が落ち着くにつれ、今度は別の感情が湧き上がってきた。「できれば持ち主の元へ返してあげたい」という気持ちである。

これだけ丁寧なパッキングだ。きっと大切なものに違いない。それに、見知らぬパンティーをゴミ箱に入れたまま、ゴミの日まで過ごすのも気が気ではない。

とはいえどうやって返す? 交番に行き「ベランダでパンティーを拾いました」と届け出ようものなら「どうぞ、こちらへ」と奥の方へ通されそうだ。自首扱いだ。

悩んだあげく、僕はパンティーをマンションの大家さん(50代女性:既婚)へ届けることにした。十分に面識があり、信用されていると踏んだからである。

すぐさま、真横のマンション最上階にある大家さん宅を訪れた。丁寧に事情を説明すると、やはり大家さんは快くパンティーを受け取ってくれた。さらには、どうにか持ち主を探してみるとのことだ。

そして、翌月の家賃を支払いに行った時(手渡しスタイルなのだ)大家さんから報告があった。残念ながら、どうやら持ち主は見つからなかったようだ。仕方ない。協力に感謝である。

しかし今思えば、届け出るにあたって、僕はあれが「大家さんのもの」である可能性を加味していなかった。なんとも無鉄砲な行動だ。「あ、これ私のです」とでも返されようもんなら相当困ってたはずなのに。

ん、待てよ。仮に持ち主が見つかっていたとして「あのパンティー〇〇さんのでした」なんてこと、大家さんが言うだろうか。名前を言わないとしても「持ち主が現れた」と言った時点で、ご近所さんのものだという事は確定する。なんとなく気まずい。

ましてや「これ私のです」なんて絶対に言わないだろう

そう考えると、実はあのパンティーはきちんと持ち主のもとへ届いているのかもしれない。かもしれない。

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■この文章を書いた人
ナナシナタロウ
31歳から音楽活動を始めた、少しスロースターターなヒト。よい語感が好き。文章書くのも好き。熊本出身、福岡在住の無所属シンガー。LIVEではアコギやエフェクターと弾き語るスタイル。引きこもって創作活動に励む。右利き。

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