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ストリートの新参者

金比羅さんへ続く参道の100段目に、新しい土産物屋ができた。香川県の名産品を集めた店は、サヌキノ了見(りょうけん)という。

100段目という看板があるので、記念写真を撮るグループが多い。「あと何段ですか?」と聞かれて、残り685段ですよ(御本宮まで785段)などと、無粋なことは言わない。

正確な数字はいらないような気がして「上まで600段かな。いってらっしゃい、お帰りにぜひお寄りくださいね」と見送る。


肌にねっとりとまとわりつく熱気が、上り階段でさらに増す。体温と気温がほぼ同じぐらいで、飲んでも飲んでものどが渇く。野趣あふれる果実シロップの炭酸割りが、よく売れた。

豊島(てしま/瀬戸内海)で採れた果実をざく切りにして、そこへ白砂糖を加え、適当に加熱した果実シロップだ。たぶん、レシピはない。田んぼと畑が忙しくて、果樹の消毒まで手が回らないから結果的に無農薬だ、と専業農家1年目の63歳が日に焼けた顔で笑う。

仕事の傍ら高松から豊島へ通い、米作りを初めて6年目、念願かなって専業農家として第2の人生を踏み出したばかりの自称農夫、こちらも豊島では新参者だ。屋敷の周りが棚田の稲作と畑、斜面には柿や栗などの樹木がある長老の敷地を、縁あって引き継いだ。


収穫後の樹木に肥料をやることを「お礼肥え」という。剪定をし、次の花に備えると、この地で70年以上にわたり土とともに暮してきた長老に聞いたことがある。同じ種類の夏ミカンでも「あの木は甘い」とこっそり教えてくれた。「これとこれはすっぱい」と、果肉の出来を1本ずつ熟知している。

「柿は100年ぐらいになるじゃろ、わしより古いから。わしが気がついた時は、よう実がなりよったよったからな」

この夏シロップになったのは金柑、山桃、スモモ、梅。どれも長老が天塩にかけた年月の、豊かな余韻だ。


夏ミカンの炭酸割りジュースはさっぱりとした甘さで、スタッフがとても気に入った。シロップと炭酸のベストな配合を、何度も試飲しながら探るのも楽しかった。いくらでも飲めるのだ。時に、お客様に試飲をすすめて「かき氷なら、中にも果肉があるといいよね」とご意見を頂戴して話が弾んだ。

洒落っ気のない瓶にたっぷり詰まったシロップは、火を入れ直し、果肉は裏ごしをした後、カルダモンやシナモンをちょっと加えて、余すことなくたくさんの方に味わっていただいた。

サヌキノ了見は飲食店営業許可を取得しています。


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