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ほんの少しの幸せ
じぶんが気づいていないところを手助けしてもらうと、うれしくなる。
めずらしく台所に立って、お肉とかお魚とかを切っているときに、すっとボールとかバットを差し出してくれるのがうれしい。
調理をしていて、できあがりそうなときに、それっぽい器を差し出してくれるのがうれしい。
ついつい切るとか、炒めるとか焼くとか、そういうメインっぽい仕事に目を奪われてしまうけれど、そういった縁の下の力持ちというか、仕事がうまくはかどるように手助けをしてもらうと、うれしくなる。
こういった気遣いっていうのが、うれしいのだけれど、上手ではなくて、ぼくはほんとうに気が付かない。
だれかにやってもらって、そうか!って気が付いて、うれしくなるんだけれど、はじめから気が付かなかったことにへきへきする。
気持ちとしては、ありがとうございます!なんだけど、とても申し訳ない感じになる。
ぼくらは、じぶんではあちこちに注意をはらって、気を張っているように思っているけれど、ほんとうはそうではなくて、あまり注意をはらっていない。
ひとつのことに氣が向いてしまうと、他のことには氣が向けられない。
集中してやるという点ではいいことかもしれないけれど、それ以外のことについては、ほとんどわかっていない。
そういった意味では、いつもぼくらは隙だらけだ。
意識しているもの以外の部分では、かなり無防備で、隙だらけだ。
しかし、たいていは無防備で隙だらけだからといって、大ごとになることはない。チコちゃんに怒られるかもしれないが、割りとボーっと生きていくことができる。
でも、ボールや器を差し出された瞬間のように、じぶんに隙があることに気づかされる瞬間は、なにかが心のなかにスッと入ってくる氣がする。
足りないじぶんのなにかを埋めてもらったような気がする。
じぶんっていうものは不完全で足りないものばかりだ。そんなことはわかっているんだけれど、改めて体感する。
じぶんの足りないところや欠けているところを指摘されると、イヤな気分になったり、反発したりしてしまうものだけど、スッと支えられるとうれしくなる。
欠けているじぶんがうれしくなったりもする。
そういった体験ってけっきょくのところ、じぶんが思ってもみなかったことに遭遇したときに起きる。
それも、ほんの少しだけ思ってもみないこと。ほんの少しだけじぶんの範囲から外れたこと。
大きく外れていて、想像もつかないことが起きたら、それはそれでめちゃくちゃ興奮するけど、それとはまた別の感情だ。
ほんの少しだけ外れているのがいい。
ぼくたちは目が前についているし、基本的には歩くのも走るのも前に向かって進む。うしろに進むという言葉もあるかもしれないけれど、進むと言われたら、前をイメージしてしまう。
仕事をしたり、ひまな時間を過ごすときでも、パソコンを操作したり、スマホを使う。キーをたたくときには、手を前に使うし、指を使う。デスクに置いてあるカップなんかも前に置いておかないとこぼしてしまう。
どうしても目を中心にかんがえると、前が優位になる。
その分だけ、前の反対側、うしろは死角になる。ぼくたちはほとんど、うしろを意識できない。
ぼくは田舎に住んでいるから、クルマを運転しないと、日常生活がなかなか不便だ。クルマを運転するときは、必要に応じては、ミラーでうしろを確認する。
そんなぼくでも、歩いているときにはうしろをあまり気にしない。あまりうしろを気にし過ぎたら、歩けないということもあるんだろうけど、やっぱりちゃんと前を向いて歩く。
ぼくたちは普段の生活でうしろを気にすることはあまりない。
でも、前側が活躍するためにはうしろ側の支えがなくてはいけないんだよ。
整体ってそういうところがあって、背骨に触れてもらうだけで、なんだかホッとする。筋肉が硬いからどうとか、ゆがみがどうとかはどうでもいい。
ぼくは整体をつうじて、手のぬくもりを伝えている。
ぼくたちは前を向いているけれど、うしろがぬくもることはうれしいんだ。
それは、ほんの少しだけじぶんの範囲を外れた幸せ。
手に余るほどの、大きなたくさんの幸せもうれしいけれど、ほんの少しだけの幸せがうれしい。
とはいえ、じぶんの背中に手を当てることって、ひとりではできないです。そう考えると、ほんの少しの幸せも、ひとりではつかまえることがむつかしい。
ぼくたちはいつも大きな幸せを追いかけてきたのかもしれない。大きな成功を追い求めてきた。
でも、ほんとうに望んでいるものはそうではないのかもしれない。
ほんの少しのぬくもりや、ほんの少しの幸せは、意外とちかくにあると思います。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。
読んでくださってありがとうございます。とてもうれしいです。