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たった一晩で、人生なんて変わるわけないと思ってた。

2022.11.01(Tue)
indigo la End oneman live "藍" @ 日本武道館

売れるだとか大きいキャパを目指すとか、そういうの、興味ないもんだと思ってた。いや、いまでも興味はないのかもしれない。自分たちのペースで、自分たちのやりたい音楽を、かモットーのバンドだと思ってたから。そうやってコツコツとやってきた結果、indigo la Endという独自のジャンルを生み出していると思ったから。

だから、武道館でワンマンをやりますと聞いた時は、めちゃくちゃ嬉しいでも遠くへ行っちゃうんだという感覚でもなく、「あ、うん。」という感覚だった。バンドとか音楽に詳しいわけでもないけど、大箱で単独ワンマンできるくらいのキャリアや実力は十二分にあると心のどこかで思っていたんだろう。

キャリア12年目にして初の武道館。遅いとか早いとか、そんなのどうでも良くて、着々と近づくライブに向けて気合十分なメンバーのSNSを見て、ただただ心待ちにしていた。

キャパのわりにはステージが近く、天井席のお客さんから見下ろされるってどんな感覚なんだろう、と思いながら会場を見渡した。ガス灯のような街灯が4本と楽器とマイクが準備されたステージ。舞台を隠す緞帳のようなものがステージの後ろに飾ってある。

「たった一晩で、人生なんて変わるわけないと思ってた」女性の声で幕を開けた「藍」というライブは、ロックバンドのライブというよりも1本の映画のようだった。1組のカップルのストーリと共に、ライブが進んでいく。

「頭の中に響いているのは懐かしい音楽」というナレーションのあとに演奏されたのはsweet spider。お客さんが続々と席を立つけど、目の前で演奏されている曲が信じられなくて、「嘘でしょ…」と呟いてしばらく立てなかった。

だって、sweet spider。毎回毎回、アルバムのツアーだろうと何も引っ提げないライブだろうと、次こそは演奏してほしいと願った曲。何回行けども全然演奏してくれないから、願うことすら疲れてしまって聞けなくても良いやと思うことにした曲。そのうち、聞きたいと願っていたことすら忘れてしまっていた。それを今目の前で演奏してるなんて、何かの間違いじゃないかと目を疑った。

ほんとにわたしが聞いてるのはsweet spiderなんだと実感が湧いてくると、今度は涙が止まらなくなった。会いたかった人にやっと会えたかのような感情。ホールやライブハウスよりもちょっと高く広々としたステージにかかるスモークやレーザーの演出。瞬きしたら消えてしまいそうなくらい儚い桃源郷のような空間で、聞きたかった歌を聞いているのが信じられなかった。

悲しくなる前に、瞳に映らないとライブの(わりと)定番曲がつづく。悲しくなる前には、イントロのギターとベースの掛け合いや感情の起伏を表すようなドラムの強弱が好きで、何度聞いても飽きない曲だなと思う。

「後鳥亮介が約10秒後にめちゃくちゃかっこいいベースを弾きます」という一言で絶対あれだ、と分かった花をひとつかみ。イントロのベースは言わずもがな、サビの流れるような、体を左右に揺らしたくなるようなメロディーもとっても好き。

「得意げに喋ったあの映画の話 今思うと間違いだらけで 気づいてたのかなと思うと なぜか愛しくなるんだ」みたいな、すごい身近に感じられる日常の小さなことを歌詞に入れ込むのがめちゃくちゃ上手。ところで2番Aメロ、どうやってリズム取ってるんだろう。わたしライブで聞くと絶対ズレるんだけど。

1本の映画を見ているようだと言った今回のライブ、数曲演奏してはムービーが流れ、数曲演奏してはムービーが流れ、という感じでライブが進んでいく。2度目のムービー直後に演奏された想いきりは、前の曲との「繋ぎ」がないのが斬新だった。

今回、わたしがセットリスト考えた?ってくらい好きな曲しか演奏しなかったんだけど、そのうちの一つに夜行という曲がある。夜行秘密のリリースツアー以来かしら。バンドサウンドとピアノの調和がめちゃくちゃ好きで、indigo la Endの曲の中でも個人的に好きな曲ランキング上位に入る。

武道館だしあんな曲やこんな曲もやってくれるかな、と期待せずにぬるーっとこの日を迎えてしまったので、好きな曲が演奏された時の衝撃が尋常でなかった。

「武道館踊りませんか」という振りから、夜風とハヤブサ。このまま夜行秘密のアルバムツアー始まる?と思った。むしろそれでもいいと思った。踊りませんかと言われた瞬間何を?と思ったけどこの曲だったか。MCで言ってた通り、おりゃー!って曲はないけど、リズムが心地よかったり体をついつい揺らしたくなる曲が多いのは良い。

そしてハンドマイクでステージを行ったり来たりする絵音さんの殺傷能力よ…。ハンドマイクの時は無意識で絵音さんから目を離せなくなっちゃう。

蒼糸、花傘、チューリップ、邦画と物語が進み、「indigo la Endは12年目のバンドで、12年でやっと武道館に立てて感無量です。12年もやってるとほんとにいろんなことがあって、メンバーが安定しなかったんですよ。最近はこのメンバーでしばらくやってますけど。ありがたいことにたくさんの曲を出させてもらってます」と絵音さんがおもむろに話し出した。

「次やる曲はほんとはセットリストに入れない予定だったんです。12年の中であまりなも個人的な思いが強すぎて、1番恥ずかしい曲だから。この曲を書いた時は後悔するより先に手が動いてて。こんな個人的な曲を武道館でやるなんて、と思ったんですけど、僕の殴り書きの歌詞も、他の人には違う意味で捉えられることもあるんだよな、と思ってセットリストに入れました。3か月に1回くらい音楽がほんとに嫌いになることがあります。好きにならなきゃ良かったって。でもそんな時でも音楽は流れてくるし、indigo la Endの曲は生まれてきてしまう。僕には音楽しかないし、indigo la Endが人生の大切な一部になってます。」と、次演奏する曲への思い入れを話してくれた。

演奏したのは、夜の恋は。いわきで聞いた時に、絵音さんのまっすぐ前を向いてなにかを決意したような顔でマイクを持つ絵音さんを見て、大事な曲なんだなと感じたのを思い出した。個人的な曲でも、その曲がなかったらindigo la Endと出会わなかった人もいるし、個人的にもとても好きな曲なので、気が向いたらまた演奏して欲しいな、と思う。

最新曲のそのままの冷たさで、夜汽車は走るを演奏し、ハートの大きさ、秘密の金魚とストイックな曲が続く。秘密の金魚の時のサイケっぽい照明が綺麗だったなぁ。
いよいよストーリーが終盤に差しかかるかと思ったとき、ここで、夜明けの街でサヨナラをだった。ステージが金色の光に包まれて、お馴染みの始まり方だった。すごい好きな曲なことに変わりはないけど、今回ストーリー仕立てのライブになっていたことで、また一段と深くこの曲を好きになった。

曲の間に流れるムービーで、主人公の女の子が夜道を走っている途中、(おそらく)元彼にもらったキーホルダーを道に落としてしまって振り向くけど、少しためらった後に拾わずにまた走り出すシーン。夜明けって夜が明ける朝方のことだと思ってたけど、このシーンのように、なにかに区切りをつけてまた新しく出発するっていう捉え方も出来るなと思った。と考えると、なんとなく歌詞の意味もこれまでと違って聞こえてきたりして。

「夜明けの街であなたにサヨナラを 歌った」という大好きな聞き慣れたフレーズが、とても切なく、でも強い意志を持ったことばにきこえた。その時の感情や置かれている環境でいつも聞いている曲がすごく特別なものになったり、演出やライブのストーリーによって全く違った歌に聞こえたりするのも、ライブの醍醐味というか、個人的に好きなところ。

一番好きなこの曲を、まさかもっと深く好きになることがあるなんてびっくりだった。なんだかとても嬉しかった。

indigo la Endの中では、ある意味異質な存在の名もなきハッピーエンド。「最低!」で始まる最高の曲です。
縦四分割されたバックスクリーンにメンバーの映像が映ったときはすごくテンションが上がったなぁ。アリーナ規模のライブでよく見るやつ!と思って、なんか嬉しかったし、それぞれの楽しそうな顔が見られてこちらまで楽しくなった。

間奏で拍手を煽る時に頭をブンブン振ったり、「ハッピーエンドはあなたの終電次第さ」で両手で客席を指さす後鳥さんが可愛かったです。ベーシストってあざとくないとなれない職業なんですかね。ストイックに演奏する姿も格好良いけど、この曲の時はみんなはち切れんばかりの笑顔で楽しそうに演奏する姿を見られるので良い。

電車と走るというイメージが名もなきハッピーエンドと共通する藍色好きさ(MVに駅のホームが出てきたり走るシーンがあったりするから)は、聞けば聞くほど魅力が出てくるスルメ曲だと思う。「走る速度は上がれど 時間は早くはならない」という歌詞が、MVとライブで流れたムービーとリンクする。

藍色好きさの演奏が終わると、またムービーが流れる。夜道を走って主人公がたどり着いた先は、11月1日の武道館。武道館の前には「indigo la End 藍」の看板が。ドアを開ける音と共に、ほんとに主人公の女の子が会場に入ってきて、そのタイミングで夏夜のマジックが演奏される。

ステージにいるメンバーと主人公が交互にスクリーンに映ると、自分も映画の登場人物になったような不思議な感じがした。うまく言葉に表せないけど、とても素敵な演出だった。

最後の曲はPlay Back Endroll。indigo la Endのライブで最後に演奏される曲って特別な意味を持ってるように感じる。1本の映画のような今回のライブの締めは、この曲しかなかったんだろう。

「エンドロールのクレジット 好きな人しか載せずに 何度も見ていた」という歌詞通り、スクリーンにはメンバーや音響、ライティングのスタッフさんたちの名前が。いろんな人の力が合わさってできた公演なんだと目で見てわかると、とてもあたたかい気持ちになった。

「追いかけて 問いかけて 何が正しいって言うんだよ」と渾身の力で歌う姿はグッとくるものがある。クレジットが流れ終わると、左半分は今までのライブの映像がくるくると走馬灯のように入れ代わりながら流れ、右半分は映画の主人公と元彼の思い出のシーンが流れた。

主人公の女の子にとっては、別れた彼との思い出がindigo la Endとの歴史だけど、ここにいるお客さんそれぞれにindigo la Endとの歴史があるんだよなぁと思った。わたしも、YouTubeで偶然緑の少女のMVを見たあの日から、今日まで歴史が続いてる。

「遠くても近いから もう少しだけ歌わせてよ 空白を探す旅」という歌詞は、空白=ぽっかり空いた穴、つまり失うことをこれからも歌い続けるというメッセージに聞こえた。最後は各々が楽器をかき鳴らして叩いて、綺麗な轟音に包まれて本編は幕を閉じました。(indigo la Endのことエモエモバンドだと思ってる人は、一度ライブに行ってこの轟音を浴びればいい。)

ここまでで22曲。長丁場のライブだったけど、アンコールも大盤振る舞いで3曲も演奏してくれた。通り恋、冬夜のマジック、最後は「これからのindigo la Endを示して締めくくりたい」と新曲を。

「あなたがしてた指輪のサイズを 遠回しに聞いたことも 靴のサイズだけ直接聞いちゃって笑われたことも 覚えてるだけで実感がないんだよ でもさ、やっぱり好きなんだ」という歌詞を口ずさみ、なぜか涙が止まらないままこれを書いてます。共感とか思い入れとかじゃなくて、通り恋は純粋に切なくて聞いてると悲しくなってしまう。

ポップなメロディーでしっかり暗い、indigo la Endの専売特許的な新曲で、アンコール含め25曲(!)の太っ腹ライブは見事完走。アンコール後にエンディングムービーを流してくれるのも、indigo la Endのライブではお決まり。

「こんな素敵な季節に、次のアルバムのタイトルを発表できることを嬉しく思います」と、暑くなる頃に次のアルバムが出ることが発表された。会場がざわついたのは、涼しくなる頃に出るはずだった夜行秘密が、すっかり寒くなってからリリースされたことをみんな知っているからだろうな。みんなindigo la Endがだいすきなんだろうな。「哀愁を歌わせたら右に出るものはいないだろう?」というナレーションが印象的だった。

indigo la Endの物語なんて絶対ハッピーエンドになんかならない。今回だってそうだった。シャボン玉を吹くのは恥ずかしがるくせに、もらったキーホルダーをバッグに付けるのは平気な彼女と、あのバンドが武道館でライブをしたら結婚する?と賭けた(可能性が低いと見込んで思ってもいなかった結婚というワードを出したと解釈したけど)彼は、たぶんお別れしたんだろう。

それでもひとつの別れを越えて、彼女は武道館にたどり着いた。そしてこの日を越えて2023年2月25日。見慣れた横浜の景色をバックに「記念日とか大事にする方だっけ?」と思い出の中から語りかける元彼の問いかけに「大事にするでしょ、記念日」と笑って答える彼女がいた。

彼女もわたしも、indigo la Endとの歴史は次の「蒼き花束へ」と続く。願わくば、すべての季節で会いましょう」と言った冬の約束。結成記念日の翌日に、横浜で会いましょう。

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