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夜の公園のムード

霞ヶ関駅のC3出口を抜けて地上に出ると、そばを通る車の音に混じってドラムの音が聞こえてきた。
横断歩道を渡ると、それが大好きな「花傘」の演奏だと気づいて足を早めた。

この日は心待ちにしていたindigo la Endの日比谷野音公演。
オフィスビルの立ち並ぶ街に、大好きなindigo la Endの演奏が響いていることが、なぜか誇らしかった。

秋の高い空が気持ち良くて、心を躍らせながら会場へ向かった。
雨バンドと呼ばれるくらいなので、念の為にカッパを忍ばせてきたが、出番は無さそうだ。

聞こえてきたら、「あ、まずい」とイヤホンをするくらい、リハの音漏れは好きではない。
なんだか盛大なネタバレを食らっているような、ライブの楽しさが半減するような気がするからだ。

しかしこの日は別だった。
壁1枚隔てた先でメンバーが演奏をしているのかと思うと、どうしても「聞きたい」と思ってしまったし、日比谷公園を離れることが出来なかった。

物販が終わったらコーヒーを飲んで時間を潰そうと思っていた。
でも、結局近くのプロントでコーヒーを買って、リハを聞きながら開場時間まで時間を潰すことにした。
開演時間が近づくと、少しずつ涼しくなって、風が気持ち良かった。

開演時間を少し過ぎた頃、ステージが真っ白な煙に包まれて、いよいよ開演。
スモークが消えると、ステージには既に定位置に着いたメンバーが。

一曲目、「煙恋」。
スローテンポな演奏と「愛されたようで よかった」とゆったり伸びる絵音さんの声を聞いた瞬間、夕方の空に溶けていくスモークのように、わたしの心もゆっくりと溶けていった。
「ムード」というツアータイトルにぴったりの、雰囲気たっぷりの曲で幕開け。

「愛されたようで良かった 認められた風で本当に良かった 混じり気のない気持ちに 自分で酔ってしまってるのかな」と、自分を俯瞰で見ているところやちょっと冷めた様子、自己嫌悪に陥っている風の歌詞にどことなく共感を覚える曲。

スモークががかった会場が夢の中のようで、1曲目から完全に、indigo la Endの世界観に引き込まれてしまった。

久しぶりに聞いた(気がする)「ダビングシーン」は、CD音源と全く違う曲のように聞こえた。
というのも、CDだとシンバルやギターが目立って聞こえるけど、ライブで聞くとベースやドラムの重低音がよく聞こえるからだと思う。

高めのジャカジャカという音だと、少し忙しなく聞こえるけど、ドンドンという重低音だと音数が少ないのもあって、ちょっとゆったり聞こえる気がする。
そのおかげで、思い出を噛み締めて歌っているように聞こえた。

演奏しているメンバーの後ろに、時計の映像が流れていた。
その映像と合わさって子気味良いドラムが秒針の動く音に聞こえて、聞きながら時間が過ぎていってることを意識させられた。
まだ始まったばかりなのに、今が過ぎていくような、音が過去に流れていくような気がして切ない気持ちになった。

5曲目の「左恋」は、骨まで響くベースがとっても格好良くて好きな曲。
過激な単語が出てくるのがindigo la Endにしては珍しい。
でも、不思議と下品さを感じないところが、ある意味「ムード」な曲だな、と思った。

6曲名、イントロのキーボードが印象的な「夜風とハヤブサ」。
聞けば聞くほど好きになる、いわゆるスルメ曲。
夜行秘密のリリースツアー「夜警」で聞いてからより一段と好きになったし、小説「夜行秘密」を読んでまたさらに好きになった。

CD音源で聞いて、生演奏で聞いて、小説で他の人の捉えた「夜風とハヤブサ」を読んで、「あぁ、そういうことか」とだんだん自分の中に腹落ちしていく曲。
終盤、「それが夏 それが夏」で一気に曲を終わりに持っていく感じ(伝わらん)が個人的に大好きです。

7曲名、アコギをジャカジャンと弾いてから「花傘」。
「左恋」と似たような色気というか上品さのある歌詞と、「夜風とハヤブサ」とはまた違った歌謡曲感のある曲。

indigo la Endの中で、一番ムードがあると思っている曲です。
すごく切ない歌なんだけど、歌詞が綺麗すぎてうっとり聞き惚れてしまう。

流れるようなメロディーも、思わず口ずさんでしまうくらい素敵な曲です。
演奏が終わったあとのしっとりとした空気がなんとも堪らない。

チューリップは始まり方がめちゃくちゃ良かった。
コーラスだけで曲の一部?を歌ってからイントロに入るやつ。

「色を変えたあなた 壊れきったわたしを見て 差し出そうとした手を 引っ込めた そう見えたの」と絵音さんの高い声が空に響いて、とても綺麗だった。

曲が進むにつれてだんだん冷えていく関係性が切なくて、「終われないってわたしがいくら喚いたとて あなたは首を横に振る」という歌詞に胸がギューっと締め付けられて、嗚咽して泣きたい気分になった。

「5年振り?6年振り?くらいに演奏する」と言って始まった「夜の公園」。
ライブで初めて聞いたかも。
すっかり日が落ちた日比谷公園にぴったりの曲だった。

演奏と一緒に虫の声も聞こえてきて、それがわたしのイメージする「夜の公園」のイメージにぴったりだった。

本編最後は「Unpublished manuscript」。
「数年前に書いたけど、今一番伝えたい想いが詰まっている曲」と言っていた。

正直言うと、そう言われてピンとは来なかった。
でも、「indigo la Endの歌は自分が書いているけど、indigo la Endとしてのメッセージでもある」という言葉と「青二才が言う重たいテーマこそ 論じて点に上げてくれ」という歌詞はリンクする部分があるのかな、と思った。

絵音さんの高い歌声と低いコーラスが素敵で、神秘さすら感じた。

「どうした?」ってくらいゆるゆるの物販紹介からアンコールが始まり、謎のゴイゴイスーがあり(ド下手なMCはもはやお家芸だと思ってる)、「ここからの演出は見なかったことにしてください。あとでTwitterになんか色々書かないで」という前振りから、初のコラボ曲「ラブ」を演奏してくれました。

茶番の様な演出というのは、国際電話をかけて電話の先でpH-1に歌ってもらうというもの。
MVに電話が出てくるから、演出に使ったんだろうなあ。

「ラブ」ってカタカナで書くとなんか安っぽい感じの字面になるけど、「indigo la Endの新曲『ラブ』」と書くと、一気に上品さが漂うの何でだろう。
馴染みのある単語や言い回しを使うことが少ないから、あえてそれを使った時に逆に目立って見える感じがする。

ラッパーとのコラボということもあって、ちょうど良いリズムと思わず口ずさみたくなる歌詞が癖になる。
「もう嫌んなっちゃった」が特に癖になる。
曲中での「ラブ」という単語の使い方も独特で、中毒性のある曲。

「次で本当に最後の曲です」と、最後の曲を演奏する前に絶対絵音さんが言うけど、毎回この言葉を聞くとしゅんとしてしまう。
永遠に続くライブなんてないんだけど、それでもindigo la Endの音楽を向き合って聞ける空間が愛おしくて、終わってほしくないと思ってしまう。

「エレキ持ってるってことは『夜行』と『華にブルー』は聞けなかったか。何演奏して終わるんだろう」
転換中やMCで次の曲を予測しがちなわたしだ。
絵音さんの声は耳に入らずに、次の曲は何だろうと、ぐるぐる頭を巡らせていた。

今回のライブ、繋ぎの演奏で次の曲を予想するのが難しがったけど、最後の曲だけは一瞬で分かってしまった。
この世で一番大好きな曲のイントロくらい、ライブ版であろうとちゃんと覚えてる。
前回の野音では一番最初に演奏した曲。
今回も一発目じゃなければ聞けないだろうなと思っていた曲だった。

「夜明けの街でサヨナラを」という曲。
夜はこれから更けていくのに、「夜明け」の歌を最後に持ってくるなんて思いもしないじゃない。
不意打ちはずるい。

大好きなイントロが流れると、ドキドキと胸が高鳴り、多幸感でいっぱいになって涙が出そうになった。
何度聞いても、最初に聞いた時みたいに幸せな気持ちになる。
何度聞いても、やっぱりこの世で一番大好きな曲。
この曲に恋してるのでは?と思うくらい、聞く度にピュアなドキドキに見舞われる。

「潤った愛す声で 夢から覚めたら恋をして 夜明けの街であなたにサヨナラを 歌った」
サビの歌詞が儚くて綺麗で、この言葉選びとセンスがが大好き。
野音という特別な場所で、しかも最後という特別な枠で、大好きな曲が聞けてほんとに幸せだった。

幸せな余韻に浸ってステージ袖にはけて行くメンバーを拍手で見送ると、さらに幸せな出来事が。
次のワンマンツアーが発表された。

「11年間続けてきて、責任の二文字が音楽活動をする隣で踊っていた。ここ2年で音楽は無力だと痛感させられ、絶望したことが何度もあった。そんな思いも、indigo la Endは音楽として伝えることが出来る。helplessというツアータイトルだけど、ネガティブな意味じゃない。どうか会場で目撃して欲しい」
ステージバックには文章映し出されて、絵音さんがそれを朗読していた。

失ったことを歌うバンドだし、「夜行秘密」では曲や小説を通して後悔について考えることが多かった。
indigo la Endの曲は、別れ、悲しさ、切なさ、激情、喪失、後悔、絶望をテーマにした曲が多い。

曲を聞いたり歌詞を見たりすると、自分の感じている後悔や悲しさとリンクする部分があって、indigo la Endの曲に共感してもらっているような気がする。
背中を押してくれたり、元気になったりする曲は少ないけど、すごく助けられているなと感じる。

何にせよ、野音で見るindigo la Endはやっぱり特別だった。
なんだか今回は、向き合って音楽を聞けるライブという空間がとっても愛おしく、儚く感じた。
いつも以上に感情が揺さぶられたな。
「野音は定期的にやりたいと思ってる」という言葉を信じて、また気長に次の野音を待ちます。
次は大阪の野音にも行ってみたいな。

まずは次のツアーで、どんな景色を見せてくれるのかが楽しみ。
色んな世界を見せてくれるのindigo la Endのライブが大好きです。

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