エンパイアオブライト
最近やっとまた映画を映画館で観る心の余裕というか、必要性を感じ始めた。
30歳を超えていまだに沖縄のファミリー層へ向けたレストランの配置に慣れることができずに、外でご飯を一人で食べることができないのだが、映画を一人で観るのは余裕。
特に沖縄は夜8時以降は映画館ががら空きなので楽しい。
劇場で一人、一番安い飲み物を手に、一番後ろの座席に座るの最高。
飲み物は飲み終わったことはない。
大概は映画にのめりこんで飲む暇がないんです。
まずは興奮冷めやらぬ間に「エンパイアオブライト」について長文を書きます。
エンパイアオブライト 己を恥じている人にとって居心地の悪い映画
サム メンデス監督の作品。めちゃ有名な監督ということはわかりますが、私は無知なので… 007の監督だったと思います。
以下ネタバレ
多分1980年代を背景にして描かれている作品なんでしょうか、サッチャー首相とか、白人と黒人間の暴動事件とかありました。
服装とかも好きです。
冒頭のモスグリーンというか靄がかかった青色と、灰色のトーンで映された静謐な映画館がとてもきれいでした。
主人公のヒラリーは最初、おそらくオーナーと思われる人のオフィスで吸い殻を片付けて、それからストーブの電源を入れて、履物を温めていました。
そのあとロッカーに行ってその履物を履くわけでもなくて、そのままヒールの高いブーツを履いて勤務。
履物は一体誰のためなんだろうなと思ってたら、普通に営業が始まって~という感じだった。
それからびっくりしたのが、オーナーがコリンファース!!イエーイ大好き!!!と思ってたら、とんでもないくそ野郎じゃんエリス!涙
従業員に手コキさせんなや!!!!!!
しかも温めたその履物はお前が履いとるんかい!!!
うわー過去の自分のトラウマ掘り返される感じでぶすぶす心に刺さる刺さる。居心地が悪い。
男性の性を全面的に出してるな、この映画における支配者だこの人。
と思ってたら黒人のステファンが新入社員として入ってきて、ヒラリーに屋上見せてーとか、ハトのけが治しちゃったりとか、もう皆を明るくする優しい青年なのですよ。
みんなメロメロ。
ヒラリーはもっとメロメロ。
新年のカウントダウンを一緒に過ごして、ここが映画のポスターにもなっているとても綺麗な場面でした。
しかし居心地が悪い。
自分の母親くらいのヒロインが、自分より歳が若いであろう青年との恋に熱を上げているのだ。
年甲斐もなしにとか、恥ずかしくないのとか、映画を観ながら割と真剣に思った。
違う場面ではヒラリーがレストランにて一人でワインを飲んでいると、わざわざ外で奥さんとその様子を見て同じレストランにエリスが入ってくるのよ。
その時の気まずさって大抵の人が想像できる気まずさだと思う・・・
まあ、エリスからの性的搾取も続きながら、ヒラリーとステファンは恋仲を深めていってという展開なのですが、ここで気になるのが、ヒラリーは精神障害を持っていて、定期通院を受けているということが1つ、ステファンは黒人で、元から差別を受けているけど、時代背景もあって益々立場が悪くなっていくという、徐々に忍び寄る暗い影がありました。
徐々に年上女性と年下男性の恋も気にならなくなって、若干二人を祝福し始めた頃、ヒラリーはステファンとの恋に舞い上がって薬の服用を自分で判断してやめてしまい、躁状態に陥っていくの。
ビーチで二人きりでデートしたとき、発作が起きてしまって、それをあまり覚えていない様子。
二人で建てた砂の城をヒラリーが崩して、関係がやがて崩れるんだと予想させる展開。
案の定二人の関係は他の従業員にばれて注意を受けるし、状況が最悪になっていく。
ステファンは心配して二人の関係を整理しようとするけど、躁状態のヒラリーにはどこ吹く風。ヒラリーは結局傷ついて家にこもってしまい、同時期にエンパイアではプレミアが行われることになる。
劇場一世一代のお披露目の日にヒラリーはおめかしして、一般客として参加するのだ。
うわーもう手で顔を覆ってしまいたい、ここからの展開なんか想像が付くとひやひやしていたら、意外にもヒラリーは登壇して勝手に演説するけど、黒人と白人は仲良くしようと呼びかけて、そのあとエリスの奥様に旦那がやった気持ち悪いことを全部ぶつけるのだ。
この場面で気づくのが、従業員皆優しい。
でもヒラリーはもう限界。
自宅にこもって毎日酒飲んで騒ぐ騒ぐ。
ステファンがやっとの思いでヒラリーの家に入ることができたけど、そこで気づくのが愛する人の暗い過去。
ヒラリーは母親に愛されず、女性ということを否定されてきたんだなと思った。
初潮を迎えて汚してしまったシーツを母親が父親に見せて責めたり、父親の愛が娘に移ってしまうことに堪え切れなったさみしい母親の元苦しんで、そのあと交際した男性からも壮絶なDVを受けて、だんだん壊れていったんだなということがわかる。
悲劇の人生だ。
結局若い青年には重すぎる女性だったので、ヒラリーは精神病院に再入院し、日々は過ぎて、ステファンにもお似合いの彼女ができる。
でも、この映画はここからでした。
退院した後、ベンチに座って海を眺めるヒラリー。
新しい彼女のローズを連れながら、ヒラリーに気づいてしまうステファン。
ステファンは一度通り過ぎながらも結局声をかける。
優しいなぁ。
ヒラリーは劇場にも戻ることができて、でもやっぱり気まずい。
あの時の私は恥ずべきことをした?とのヒラリーの問いに、ステファンはヒーローみたいだったと答える。
ヒラリーは従業員からも歓迎され、無事に映画館に戻って勤務することができて、映画館は安心すべき場所になった。
しかし暴動が映画館近くで発生して、ステファンが映画館にいることに気づいた人たちがなだれ込んで、彼をぼこぼこにする。
幸い一命は取り留めたのだけど、ヒラリーはお見舞いに行けず、映写技師のおじさんが「何を怖がっているの?」といい、自身の過去を打ち明ける。
息子に会うのが怖くて会っていないと。
何に怖がっていたのかも覚えていないと。
それを聞いてお見舞いにいくヒラリー。
ステファンの母親が務めている病院なので、ここで改めて自分とステファンの年齢差と何かを意識するヒラリー。
だけど面会して、ステファンの母親から感謝されて、その足で劇場の映画を観たヒラリーに一筋の光明が差すのだ。
その時ヒラリーが履いていたブーツにヒールはなかった。
自分を取り戻したのだと私は思った。
それからステファンは大学へ進学するとこができ、さみしい気持ちを押し殺して送り出そうとしたヒラリーも、最後にはステファンを本当の意味で抱きしめられた。
というのが私見を加えた本篇の内容です。見た後すぐ記憶がなくなる人なので、順番まちがってるかも涙
どちゃくそネタバレだし長い!!すみません。
この映画で気になったところとか、感想とか
この映画をみて思ったのは、靴が割と重要な役割を果たしているなと。
ヒラリーは結構年不相応なヒールの入ったブーツを冒頭で履いていて、あとから底がぺったんこになるんです。
あと温めていたエリスの室内履きとか。
ヒラリーの靴底は背伸びした自分と等身大の自分を表しているのかなと思ったり。
エリスの靴を温めるのは、ヒラリーのやさしさと従順さ、鬱屈した毎日なのかなって。
ステファンも新年には靴にゲロを吐かれたといってて、新しい門出には新しい靴を買ってたなと。
完全に私見ですけど。自分で「ほー」とうなずいちゃった。笑
この映画、あまり泣くとこ無いと思ってたけど、終わった後反芻して、めちゃくちゃ泣きました。
私は恥ずべきことをしたのかとヒラリーが聞くシーン、毎日の私みたいで死ねる。
勇気を持ってやったことってすごい恥ずかしい思いがセットで来るんだけど・・・意外に他人は好意的に感じてたりするよね、思い切って聞いてみても良いのかなと少しだけ救いがあった。
最後らへん劇場でヒラリーが一人で映画を観るシーン、ヒラリーは元々ステファンから観たらいいのにと言われていたのを断っていて、それがヒラリーの生きづらさの一端なんだなと思っていました。
真面目で融通が利かない。
自分の世界にこもって外を見るのを拒否している。
他人のアドバイスを否定してしまうところ。
一歩踏み出すのなんて、映画を観るとか、海辺で石を投げるとかとても簡単なのに。
踏み出して世界が変わるわけでもないし、日常がひっくり返るわけでもない。
ただほんの少し自分のことを開放できて、自分はこういうことで喜びを感じることができたんだという発見とか。
壮大なテーマじゃない。
他人を許すとか自分を許すことを考えて心や思考を満タンにするわけじゃなくて、仕事には相変わらず行くし、嫌なことは毎日起きるけど、それでもたまにうれしいことだったり、新しい発見があるから、それを感じ取った時が少し光が差したときなんだと思う。
他人とこれを共有出来たらもっとハッピーだね。
最初ヒラリーは、新年を迎えるたびに死んでいくみたいな詩で自身を評価していたけど、最後ステファンに送った詩はなんだか彼女のほの暗さもありつつ未来への展望があった。
己を恥じている人にとって、最後の15分くらいまでは居心地悪い映画でした。
けど最後の15分で何かが変わった気がしました。
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