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映画『クリスティーン』B級ホラーの巨匠・ジョン・カーペンター監督~擬人化した車の狂気~

車を擬人化した映画はこれまでにもいろいろある。擬人化まではいかなくても、車は数々の映画の舞台装置であり、運動であり、アクションであり、デート場所であり、相棒のような存在でもあり、映画には欠かせないものであった。最近でも車とセックスする珍妙な映画『TITANE チタン』があったし、自動車の事故とセックスを絡めたデヴィット・クローネンバーグの『クラッシュ』のような変態的な映画もあった。レオス・カラックスの『ホーリー・モーターズ』の大きなリムジンもまた映画に欠かせない舞台装置になっていた。言うまでもなくスティーブン・スピルバーグの出世作は、カーアクション映画の『激突』であり、車同士の対決のような映画だった。車のスピードと迫力、暴走する不気味な存在感だけで、映画は出来てしまうのだ。ジャン=リュック・ゴダールが「男と女と一台の車とカメラがあれば映画ができる」と言ったとされているが、ゴダールもまた『気狂いピエロ』などでも車を使いまくっているし、車が大好きだ。

さて、B級ホラー映画の巨匠ジョン・カーペンター監督の女性の名前がついた本作も、車と恋人になってしまった男、車に取り憑かれてしまった男の妖しい物語である。クリスティーンと名付けられた58年型プリマス・フューリーを買い取ったアーニー(キース・ゴードン)は、廃車同然のこの赤い車に突然魅せられ、一人で部品を調達して整備を重ね、ピカピカに再生させる。これまで冴えない男で、不良グループに苛められていたアニーは、メガネを外し、車の再生とともに別人の男になり、学校でいちばんの美人のガールフレンドも出来て大変身する。しかし、この車は呪われた意思を持つ車であり、アニーのガールフレンドに嫉妬し、彼女を車に閉じ込めて殺そうとするのだ。不良たちにボロボロに壊されても、車が自らの意思でボディーを修復し、元通りにピカピカの赤い車に再生させてしまうのだ。そんな妖しい赤い輝きを持つ車のクリスティーンにますます魅せられてしまったアニーは、次第に狂気じみてきて、車に操られているかのようになっていく。後半は人間よりも車が主人公となる。車を壊した不良たちをクリスティーンは追い詰め、次々と殺していく。車が火だるまになったまま人を襲うシーンは凄まじい。アニーが運転していなくても、クリスティーンは無人運転で暴走し、人を襲うようになっていくというホラー映画だ。

車のラジオから突然、懐かしのオールディーズが流れ、眩しいまでのヘッドライトの光とともに襲ってくる。嫉妬に狂った女性のようでもあるし、車自体がエロティックな輝きを放っている。ただの走るマシーンをここまで擬人化して命を吹き込んで描いているという意味ではとても映画的である。まさに珍品と言える作品だ。刑事役に『エイリアン』や『パリ、テキサス』のハリー・ディーン・スタントンが出ている。


1983年製作/110分/アメリカ
原題:Christine

監督:ジョン・カーペンター
製作:リチャード・コブリッツ
製作総指揮:カービー・マッコレー マーク・ターロフ
原作:スティーブン・キング
脚本:ビル・フィリップス
撮影:ドナルド・M・モーガン
美術:ダニエル・ロミノ
編集:マリオン・ロスマン
音楽:ジョン・カーペンター、アラン・ハワース
キャスト:キース・ゴードン、ジョン・ストックウェル、ロバート・プロスキー、ハリー・ディーン・スタントン、クリスティーン・ベルフォード、アレクサンドラ・ポール

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