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瀧内公美の映画『由宇子の天秤』ジャーナリストには見て欲しい「真実を追うことの覚悟」について

画像(C)2020 映画工房春組合同会社

真実とは何かを追い求めるフリーのドキュメンタリストの木下由宇子(瀧内公美)。3年前に起きた女子高生いじめ自殺事件の真相を追っているのだが、製作側のテレビ局サイドと何度もぶつかる。そして、表現を変えろと言われる。また、ネットでの拡散を恐れる犯罪被加害者家族や遺族や関係者たち。心ないネットの声に傷つき、身を隠すように生きざるを得ない人びと。そして由宇子も先生として勤務していた学習塾を経営する父(光石研)が起こしたある事件真実と隠蔽。真実に見つけるために厳しく迫ってきたはずの由宇子を、別の真実が追い詰めていく。かなりキツい映画だ。逃げ場のないほどに過酷に登場人物たちが世間から、社会から、追い詰められていく。

主演の瀧内公美は、最近でこそアマゾンのCMにも出てメジャーの活躍をしているが、『彼女の人生は間違いじゃない』では震災後の福島から上京するデリヘル嬢を演じ、『火口のふたり』では、セックスをやりまくっていた女性を体当たりで演じていた。それがこの作品では、社会派の硬派な役のジャーナリストだ。真実にまっすぐに向かっていく迫力、テレビ局の圧力にも負けない強さやしたたかさ、そして取材相手に寄り添う優しさを出しながら、父親の起こした事件で苦悩する一人の女性の姿を見事に演じている。

また最近、NHK‐BSドラマの『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』で見事な演技をしていた将来を期待される女優、河合優実が不安定な女子高生役で出ている。

真実とは?正しさとは?スマホを構えて、すぐ相手の証言を撮影しようとする由宇子のジャーナリスト的攻撃性。事件に殺到し、報道合戦で人生をボロボロにさせるメディアの暴力。誹謗中傷の数々、作られる物語やねつ造や噂。ネットで拡散される恐怖。そんな現代の社会的問題を一方的に描くばかりではなく、真実を追う立場にある彼女自身にも問いを突きつける。彼女は自らを守るために嘘に加担せざるを得なくなり、ある少女の信頼を裏切ってしまうのだ。人を追い詰める暴力が至るところに満ちている。報道、メディア、ネット、心無い噂や社会の目。何を守り、何のために真実を暴くのか。天秤にかけざるを得ない選択の難しさ。自分が楽になりたいための真実の告白か、嘘を背負うことの苦しみか。カメラを向け、真実を追うことの覚悟が問われる作品だ。真実を追うことの正義などない。追うものは追われるものに簡単にひっくり返る。誰かにとっての真実は、別の人にとっては別の真実もある。そういう問いを忘れては、真実を追う資格さえないのかもしれない。ちょっと雑な設定もあるが、多くのジャーナリストに見て欲しい作品だ。

2020年製作/152分/G/日本
配給:ビターズ・エンド
監督・脚本・編集:春本雄二郎
プロデューサー:春本雄二郎 松島哲也 片渕須直
撮影:野口健司
照明:根本伸一
美術:相馬直樹
ドキュメンタリー監修:鎌田恭彦 清水哲也
キャスト:瀧内公美、河合優実、光石研、梅田誠弘、川瀬陽太、丘みつ子、松浦祐也、和田光沙、池田良、木村知貴、前原滉、永瀬未留、河野宏紀、根矢涼香

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