ロジャー・コーマンのアナーキーな暴力が炸裂『血まみれギャングママ』

1930年代に実在したギャング、ケイト・バーカー一家の悪行をB級映画の巨匠ロジャー・コーマンが映画化。ケイト・ママ(シェリー・ウィンタース)がなかなかの迫力と存在感だ。レイプ、近親相姦、強盗、殺人、誘拐、ドラッグ中毒など何でもアリのママと4人の息子たち。なかでも息子たちを溺愛するシェリー・ウィンタース演じる「血まみれのママ」の毒々しさ、悪行は恐ろしいまでのダークヒロインぶりだ。マシンガンをぶっぱなしながら死んでいく壮絶な生涯。ドラッグ中毒で死んでしまう 三男役で若きロバート・デ・ニーロが出ているのも注目だ。

『俺たちに明日はない』の大恐慌時代のギャング、「無法者たちの滅びの美学」を描いたものと同じ流れだが、この一家の悪徳ぶりは凄まじい。最初に少女が兄弟たちにレイプされる場面が映し出され、「パパ助けて」と父親に助けを求めるが、父親は助けてくれない。そんな少女だったケイトは、自分の言うことを聞く「息子が欲しい」とつぶやく。なんとも胸くそ悪くなるオープニングだ。歪んだ生い立ちによるケイトの家族愛がマザコン息子たちを増長させる。

彼女のすべての基準は息子への愛。息子たちが村でレイプ事件を起こして発覚しそうになると、夫を捨てて4人の息子たちと旅に出る。彼女にとって夫はただの種馬だったのか。特に長男は自分の暴力衝動を抑えることができず、人を殴り殺してしまう。長男が連れてきた娼婦は、「金のためならなんでもする」とケイトは信用しないし、三男が湖で知り合って家に引っ張り込んだ娘は、兄弟たちに風呂場で殺すように命じ、湖に沈めてしまう。大金を手に入れようと誘拐した初老の富豪サムをケイトは最初から殺すつもりだった。それでいて「抱いてくれ」と男に迫ったりもする。しかし、息子たちはこの富豪の紳士サムに父親の影を感じ、その温和で知的な振る舞いに惹かれて、ママの「殺せ!」という命令に背くのだ。結局、そのサムを逃がしたことで、警察からバーカー一家の正体がバレて追われる羽目になり、最後はFBIに包囲されての銃撃戦となって、家族は皆殺しとなる。

息子や同性愛の友をベッドに誘ったり、失敗したら頬を張り倒し、自らマシンガンをもって銀行強盗の先頭に立つ。ケイト・ママには怖いものナシだ。息子たちは何も逆らえない。一方で、戦争で子供たちが死んでいった母親の心情、戦争で殺されるために息子を育てたわけではない・・・といった反戦歌を歌う場面もある。家族の絆こそがすべてであり、他人は一切信用しない。大恐慌時代の不況が、自分たち家族以外は何も信用できない偏狭で猜疑心に満ちた自分勝手な心の闇を作り出す。そんなママのケイトも、最後は長男に殴り倒され、権力の移行が描かれる。

家族の中の歪んだ関係を描いた作品である一方、映画の随所に記録ニュース映像が挿入され、殺伐とした時代を映し出す。人間の心の闇や弱さ、良識や道徳や善的なものを嘲笑うかのような強烈な悪意がこの映画にはある。


1970年製作/90分/アメリカ
原題:Bloody Mama
製作・監督:ロジャー・コーマン
脚本:ロバート・ソム
撮影:ジョン・A・アロンゾ
音楽:ドン・ランディ
キャスト:シェリー・ウィンタース、ドン・ストラウド、ロバート・デ・ニーロ、ブルース・ダーン、パット・ヒングル

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