アピチャッポンの幻想不思議映画『MEMORIA メモリア』

公開時に映画館で観てレビューも書いた(『MEMORIAメモリア』)のだが、一部で眠ってしまったので、WOWOW放送があったので、もう一度見直した。

これはSF映画なのか?爆発音のような奇妙な音、幻聴、記憶、時間、死、不在、言葉と詩、菌類、悪霊を散り払うために穴を開けられた6000年前の頭骸骨、宇宙人、夢、遠い過去、犬、石、物語の記憶・・・。SF映画という体裁を取りながらの自然と時間と記憶をめぐる映像詩のようなものなのか。改めて見てもよく分からない不思議な映画だ。この映画のワンカットは異様に長い。会話のない間合いがとにかく長い。テンポがとてもゆっくりなため、眠気に襲われる。ビデオで何度も見直した。

南米コロンビア・ボゴタに滞在しているランの栽培者ジェシカ(ティルダ・スウィントン)は奇妙な爆発音のような音で夜中に目が覚める。外の駐車場では車の警告音が響き、クラクションが鳴り、ライトが突然あちこちで点滅する。街中で爆発音が起き、バスが止まり、男が走り出す。この爆発音はジェシカだけに聞こえる幻聴なのか?ジェシカは、自分に聞こえる「地球の核から鳴り響く轟音」のような音を、音響技師のエルナンという男(フアン・パブロ・ウレゴ)に再現してもらう。ジェシカの妹は病院に入院している。その妹から、車に轢かれた犬の夢の話を聞く。夜の町や公園でジェシカのまわりのうろつく犬。再び奇妙な爆発音。ジェシカが座っていた椅子で塞がれている扉。その扉の奥の部屋の考古学研究室にトンネルの建設現場で発見された6000年前の女の子の骸骨がある。頭には悪霊を追い出すための穴が開けられている。ジェシカが買いたいと思う花の冷蔵庫は時間を止めるもの。爆発音を再現した音響技師エルナンは、彼女がやろうとしている花の農家に出資してもいいと言い出す。妙に親切な謎の男。退院した妹はやたらと元気で、妹夫婦はアマゾンの部族の話をする。社会との接触を断っている「見えない人びと」。そんなアマゾンの森の道路工事に携わっていた人びとが消えた話。またしても爆発音。そして突然消えた音響技師エルナン。もともと存在しなかった男なのか。ジャズの音のセッションがあり、ビルの中の光が差す何もない空間が映し出される。不在の空間。そして、軍隊が監視しているコロンビアの山の中のトンネル工事現場を訪れる。骸骨の発掘現場のようだ。音に悩まされているジェシカは医者に薬をもらおうとするが、「共感力が失われる」、「この世の美しさに感動できなくなる」と言われる。森の中の小さな川べりを歩いていると、音響技師と同じ名前のエルナンという男(エルキン・ディアス)に会う。男は、「全てを記憶しているから、映画もテレビも見ない」と言う。「物語は至るところにある。例えば、この石にも」と言って、「昼飯のことで争った二人の男の過去の物語が、石に刻まれている」と不思議なことを言う。その波動を感じると。自分の身体に刻まれている様々な記憶。そして死んだように目を開けて眠る男。仮死状態。「俺はハードディスクだ。そして君はアンテナらしい」と言う。過去の記憶を共有し、波動を感じ、過去の音が聞こえてくる二人。男は何者なのか?宇宙人なのか?そして森から巨大な宇宙船が飛び立っていく。あの爆発音。近くの火山で地震があったことをラジオが告げる。そしてトンネル建設現場から、また骸骨と動物の骨と墓が発掘されたらしい。

こうやって物語らしいエッセンスを書いていても、何が起きているのか意味不明だ。そこには、この世界の底知れぬ不可解さ、不思議さがあるだけだ。森には菌類やウイルスが遠い過去から存在し、6000年前の骸骨がトンネル建設現場に埋まっており、石には物語が刻み込まれている。ジェシカが聞く「地球の核から聞こえてくるような轟音」は、人類への警告なのか?森を壊す道路やトンネル建設をする人間たちへの警告。自然の中で昔から暮らす「見えない人びと」。全てを記憶している男とアンテナのように警告を聞き取る女。

『ブンミおじさんの森』でも、自然と死者と精霊と過去の物語や歴史を詩的に絡ませて描いていた。タイの映画監督であるアピチャッポン・ウィーラセタクンがティルダ・スウィントンを迎えて、南米コロンビアで撮った音と時間と世界に関するこの独特の世界観に、圧倒されながら魅せられた。ティルダ・スタントンという女優も、どこか宇宙人のような、幽霊のような、人間離れした雰囲気がある。


2021年製作/136分/G/コロンビア・タイ・イギリス・メキシコ・フランス・ドイツ・カタール合作
原題:Memoria
配給:ファインフィルムズ
監督:脚本:アピチャッポン・ウィーラセタクン
撮影:サヨムプー・ムックディープロム
キャスト:ティルダ・スウィントン、エルキン・ディアス、ジャンヌ・バリバール、フアン・パブロ・ウレゴ

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