映画「明日に処刑を・・・」マーティン・スコセッシの長編デビュー作
監督として50本以上、プロデューサーとして400本以上のB級娯楽映画を生み出してきたロジャー・コーマンがプロデューサー。若い才能を次々と発掘していった「ロジャー・コーマン学校」の一人であるマーティン・スコセッシ監督の長編デビュー作だ。
アメリカン・ニューシネマっぽい作風。『俺たちに明日はない』(1967年)が大ヒットして、それを意識して二匹目のドジョウ的な思惑で作られたようだ。1930年代の大恐慌のアメリカ。貨車で旅をしていた浮浪者ホーボーたちが列車強盗を繰り返す実話がもと。『俺たちに明日はない』同様に不況で社会からはじき出された若者たちが盛り上がりながら犯罪を重ね、追い詰められ、死に急ぐような感じはよく似ている。ただ、少し社会的な要素が盛り込まれている。
農家の娘のバーサ(バーバラ・ハーシー)の父親は、雇用主に無理に働かされて飛行機事故で死んだ。貨物列車でバーサがホーボーのように旅していると、共産主義者で労働者たちにストを扇動しているビル( デビッド・キャラダイン)と出会い恋に落ちる。この二人に、詐欺師の男 レーク(バリー・プリマス)と黒人のヴォン(バーニー・ケーシー)が仲間に加わることになる。留置所内での黒人差別の描写はかなり激しい。反抗的な囚人は次々と射殺されてしまう。脱獄して列車強盗で金を得たビルが、労働組合に自分の金を渡しに行く場面がある。犯罪者ではなく、組合員だと主張するビルだが、組合側は金だけもらって、すでに犯罪者であるビルを相手にしない。富豪たちから宝石や貴金属を巻き上げたり、富める者や鉄道会社のオーナーが敵役として登場する。
資本家、経営者、富豪たちと奴隷のような働きづめの労働者やホーボー、警官や権力者と差別される黒人や共産主義者そして犯罪者、学者と売春婦たちといったような社会的対立が明確に描かれている。ラストは、ビルが列車にキリストのように磔になって、列車とともに遠ざかっていく。泣きながら列車に追いすがるバーサーの姿で映画は終わる。キリスト教に強い関心のあったマーティン・スコセッシらしい終わり方だ。列車は人生や社会そのものか。なかなか荒っぽく血なまぐさい低予算の犯罪逃避行ものという感じ。
1972年製作/アメリカ
原題:Boxcar Bertha
配給:日本ヘラルド映画
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:ジョイス・フーパー・コリントン、ジョン・ウィリアム・コリントン
製作:ロジャー・コーマン
撮影:ジョン・スティーブンス
音楽:ギブ・グウィルボー、サド・マックスウェル
編集:バズ・フェイトシャンズ
キャスト:バーバラ・ハーシー、デビッド・キャラダイン、バリー・プリマス、バーニー・ケイシー、ジョン・キャラダイン、ビクター・アルゴ、デイヴィッド・R・オスターアウト、アン・モーレル、ハリー・ノーサップ
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