映画『秘密の森の、その向こう』セリーヌ・シアマの愛の分身

『燃ゆる女の肖像』(2019)が面白かったセリーヌ・シアマ監督。この作品は、母の子供時代の少女マリアンヌと森の中で出会う8歳の少女ネリーの不思議な物語。実際にも双子のようによく似ている姉妹の少女たちが演じているため、見分けがつかなくなるほど。とにかく二人の少女たちが美しく可愛らしい。森の中で小屋を作り、母の家でクレープを作ったり、お芝居ごっこをしたり、二人は分身のように遊ぶ。『燃ゆる女の肖像』では、見る者と見られる者、肖像画家とモデルになった館の娘との女性二人の愛の物語だったが、それを今回は親と娘の少女時代の二人の関係にアレンジしているようだ。

大好きな祖母の施設での死から始まり、祖母の家、母の実家の片付けに森の中の家に行く。母のマリアンヌ(ニナ・ミュリス)が、ベッドで夜、闇に目が慣れた頃に現れる黒豹の話を娘のネリーにする。壁に映る森の枝の影なのだろう。そんな母と娘の会話がいい。祖母を失った悲しみが家の空気を支配しており、母のマリアンヌは朝、突然いなくなる。観客にはあまり説明がないため、なぜ母が不在となったのかよく分からない。代わりに父が現れ、父(ステファン・バルペンヌ)と娘の家での片付けが始まる。父と母と娘。それぞれの距離感。そしてネリーは森の中で母の子供の頃のマリアンヌと出会うのだ。

森の中でのタイプスリップに特別な映像的な仕掛けはない。シンプルにネリーは同じ歳の少女マリアンヌと出会い、時空を超えて母の家、まだ祖母が生きている家へと行く。そして、また森を戻って同じ家、父と片付けてしている現在の家へと戻ってくる。その映像の重ね方が、特別な感じが何もないのがいい。記憶は森や家の中にそのまま残っている。73分と短いながら、愛すべき特別な時間を描いた美しい作品になっている。

2021年製作/73分/G/フランス
原題:Petite maman
配給:ギャガ
監督・脚本:セリーヌ・シアマ
製作:ベネディクト・クーブルール
撮影:クレール・マトン
編集:ジュリアン・ラシュレー
音楽:ジャン=バティスト・デ・ラウビエ
キャスト:ジョセフィーヌ・サンス、ガブリエル・サンス、ニナ・ミュリス、マルゴ・アバスカル、ステファン・バルペンヌ

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