宙犬ハチロウを探せ
ショートショートです。
サクッと書いてみました。暇つぶしにどうぞ。
交番の中で宇宙服に着替えながら新人の警察官アイバは先輩警察官ササキに聞いた。
「宙犬ハチロウってなんですか?」
「史上はじめて火星へ行った犬のことだよ。お前、火星の交番に勤務するなら、そんくらい覚えとけよ。」
「すみません、私、火星勤務になると思ってなかったので、地球のことしか勉強してません。」
「その、宙犬ハチロウの銅像が砂嵐で行方不明になったんだよ。昨日、交番の近くに住んでるおっさんがわざわざ知らせにきた。宇宙服のファスナーちゃんと締めとけよ。外の空気薄いから酸欠で死ぬぞ。」
「はい。銅像ってどの方角へ飛んでいったんですか?」
「わかんねぇ。火星の重力って地球の3分の1だし、砂嵐は頻繁にあるし。飛んでどっかに着地して砂に埋もれてるのは確か。ほら、街の外へ出るぞ。」
ササキは街全体を覆うドームの出口に向かって歩いた。そして鋼鉄の自動扉の前で立ち止まると頭上の防犯カメラに向かって話かけた。
「解除してくれ。」
自動扉に緑色の蛍光色で『解除』の文字が浮き出た。
「まずは1個目解除。こっから先も似たような扉が3つある。最後の扉が開けば外へ出れる。」
アイバとササキは街の外へ出た。歩くと細かくサラサラした砂に足を取られる。地球の砂浜を歩いているような感覚だった。
しばらく歩くと宙犬ハチロウがあった場所に到着した。宙犬ハチロウが乗っていたコンクリートの土台だけがそこにあった。そこから見渡す景色は赤い砂と赤い石、360度砂漠。地平線は砂埃で見えない。重力が軽いせいで常に砂が舞い上がっているからだ。
「先輩、銅像って何色ですか?」
「赤茶色だよ。」
アイバは周辺を歩きながら、銅像っぽい形をしたものを見つけると指を差し、色を確認した。残念ながら全て赤い岩だった。
「あか、あか、あか…はぁ。赤い大地の上の赤茶色を探すのって…」
「お前の言いたいことはわかる。俺だって正直めんどくせって思ってるよ。」
「どうやって探すんですか?全部赤ですよ。米粒の中から餅米探せって言われてるようなもんですよ。」
「安心しろ、金属探知機があるから。」
ササキはキャリーケースの中からドローンを3台出した。
「地球のアマイゾンから取り寄せたドローンに金属探知機くっつけた。これを飛ばせば、体力を消耗せずに探せる。」
「先輩、さすがですっ!」
「3台とも電源入れた。よし、飛んでけー!」
ドローンは砂埃の舞う空へ飛んでいった。
「わぁー、飛んでる!」
ドローンはどんどん上空へ飛んでいく。
「はははっ、成功した!飛んでる、飛んでる、飛んで……あれ?飛びすぎじゃね?」
「先輩、地球のトンビと同じ高さまで飛んでますよ。あんなところから金属探知機、正確に動作しますかね?」
「無理だな。さらに飛んでるな…飛行機くらい飛んでるな…。あれか、重力ってヤツか。重力軽いと高く飛べるっぽいな。もう通信の届かない距離へ行ったから、操作できねぇ。」
「先輩…。」
「宙犬ハチロウがあった土台に岩でも乗っけて帰るか。」
「そうですね。」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。