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【ニンジャスレイヤー DIY小説】 「カットレット・フェル・トゥー・ザ・シー・オブ・ミスティック・スパイセズ」

#ニンジャスレイヤー222 タグを記念して、昔スシ=コンのときに、たまたまブッダも起きるほどヒマだったので、カツカレーから始まる忍殺SSを書こうとして、なんとなく途中で満足してしまい、ローカルコトダマ空間に死蔵されていたテキストに加筆してとりあえず終わらせたものを掲載します。

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【ニンジャスレイヤー DIY小説】
「カットレット・フェル・トゥー・ザ・シー・オブ・ミスティック・スパイセズ」

オキブ。カブキチョに隣接するその街は、マケグミと呼ばれる下層市民、あるいはヨソモノと呼ばれる流れものたちのテリトリーだ。ところ狭しと露天が立ち並ぶその様子は大陸のミヤゲモノ・ストリートめいている。が、圧倒的に活気がない。

今にも崩れそうなビル群の一角、その地下に店はあった。ヒンディー語でショドーされた看板に小さく「シヴァン・スシ」とカタカナのルビが振られている。エスニックな装飾で埋め尽くされた店内、中でも異教のゾウやカメやイルカの上でブッダが寝ているポートレートが異彩を放っていた。

カウンターしかない狭い店だ。もともとはおそらくショットバーか何かだったのだろう。客は一番奥の席に一人だけ。カウンターの向こうでは白いサムエにコック帽のインド・イタマエがせわしなく調理を続けていた。

やがてイタマエは盛り付けを終えて、プレート一枚の料理をカウンターの客に差し出した。「ドーゾ、インド=スシです」「ドーモ」客の男はそれを受け取り、テーブルの上に置く、と皿の上に盛られた料理に、思わず目を見開いた。コレハ?

片手では握りきれぬほどの多量のシャリ!その上に厳かに乗せられたる濃いキツネ色の塊はスライスカットされており、わずかにのぞく背徳的な薄ピンク色の断面はオイランの着物から覗く素肌めいている。

そしてツメ・ショーユめいてかけられた多量のタレからはオーガニック・ブレンド・スパイスの刺激的な香りがたちこめる。これを嗅いだ者のニューロンは、瞬く間に虹色に輝けるゴクラクめいたアトモスフィアへと誘われるのだ。

「尋ねるが」ハンチング帽にトレンチコートの客が怪訝そうに口を開く「これが、スシだと?」「ポーッカットレット・カリ=スシ、インド=スシとしては有名な品ですぜ」インド・イタマエはニヤリと口の端を釣り上げ、答えた。「インド=スシが珍しいかい?」 

「そういう顔してるぜ。だがこいつは正真正銘のスシだ」「チラシか」「チラシじゃねえや、シャリの上にネタが乗ってるだろうが。ブッダ曰く、スシに必要なものは二つ。シャリ、そしてネタ!シャリにネタが重点すれば何だってスシ足り得るのさ」 

「フーム」客は怪訝な表情を浮かべたまま、皿の手前の紙ナプキンの上に置かれたスプーンに目を落とす。「箸はないのか」そう男は問うた。「本場インドじゃあ何でも手づかみで食うんだぜ。が、スキルが要る。シロートがおいそれとマネできるもんじゃねえ」 

「かといって、箸で食ってぽろぽろ落とされちゃ店が汚れちまうからな。そいつはサービスなのさ」「なるほど」得意げなイタマエの説明を聞き流しつつ、客の男はスプーンを手に取った。読者の方はもうお気づきであろう、彼こそ暗黒非合法探偵イチロー・モリタことフジキド・ケンジ。 

怪訝な顔をしつつフジキドはスプーンでコメとツメを軽く混ぜ合わせてすくい、口に運んだ。ひと時の沈黙、腑に落ちたようにごく軽くうなずくと、フジキドは二口めを口に運んだ。「フーム……」

フジキドは不思議な心持ちで三口、四口めを口に運んだ。これはとてもスシと呼べるものではない。だが、体に滋養が染み渡っていくのを感じる。多量に盛られたツメ・ショーユにZBRめいた化学成分でも含まれているのか?否である。

フジキドには知り得ぬことだったが、これはスパイスの力だ。インドにおけるスパイスの調合は、スシにおけるツメ・ショーユに酷似した各店舗ごとの秘伝であり、ブッダもかつて食したであろう神秘のひとつである。

幸いなことに、スパイスは本来のスシに使わぬが故に安く調達できる。しかもネタは魚ではなくポークである。ゆえに、オキブのような場末の地でもその神秘の一旦を垣間見ることが可能なのだ。

「どうだ、うまいか?それとも辛いか?」イタマエはフジキドの目の色が変わったことを目ざとく見抜き、自慢げに尋ねた。「……」だがフジキドは答えず、イタマエをひと睨みするのみ。「アイエッ…」

視線に押されてイタマエは後ずさる。イタマエは職業的モラルにより、板場での失禁を堪えきった。しかし、食事の邪魔をするのは己がためにならないことも理解したようだった。沈黙の中、フジキドはスプーンを口に運んだ。

チリーン、入り口の扉に付けられたフリーン・ベルが鳴った。「イラッシェー」イタマエは反射的に声をかける。「なんだ、セキイ=サンか」セキイと呼ばれた男はインド・ムービーに登場する俳優のような濃い髪と口髭を蓄えた男だった。この陰気な街に似合わぬ陽気な笑顔を浮かべ、セキイは答えた

「へっ、なんだとはなんだ。いつものだ」「アイヨ、ポーッカットレット・カリー=スシイッチョー!」「スシ、ねぇ……」フジキドは男を一瞥すると再びインド・スシをすくって口へ放りこんだ。(((フジキド!この男……))) (((ああ、わかっている)))「ド……」「ドーモ、ハジメマシテ」

「セキイ・イブドゥーです」「ドーモ、ハジメマシテ。イチロー・モリタです……」機先を制しアイサツしたのはセキイだった。「うまいだろ、そのカツカリ」「……カツカリ?スシだと聞いたが」「こっちでいうスシのことを、インドではカリって言うのさ」

「カリはいいぜ。インドではカリを食ってれば医者要らずって言うんだ。栄養面じゃスシもなかなかのモンだが、カリは不調も直してくれる」(((フジキド!戯言につきあうでない、今すぐ殺せ!こやつこそは捜し求めていた))) (((黙れナラク!)))

「ア、アイエッ」店の奥でインド・スシを調理していたイタマエは、背中から強烈な剣呑アトモスフィアを感じ取って失禁しかけた。だが、板場を汚してはならぬという職業的モラルにより堪えた。

「マッタ、マッタ」セキイは陽気そうな笑顔を絶やさず、手をかざしてフジキドを制した。「メシくらい食わせてくれよ。別に逃げやしないから表でやろうぜ。なあニンジャスレイヤー=サン」「ヌウッ」

「俺はここのカリが好きなんだ。イタマエは元スシ職人なんでインド・スシなんて名乗っちゃいるが、ここのカリは本場顔負けの味だ。たぶんネオサイタマ一だ。俺たちがここではじめたら、店は確実にぶっ壊れちまう。悪くすりゃあのイタマエだってもオタッシャだ」フジキドは眉根を寄せた。

確かに一般市民を巻き込むのは本意ではないが、敵のマッタに乗って、裏で援軍を呼ばれる可能性もある……抑えられぬ殺気が眼光となってセキイを射抜く。が、セキイの笑顔が崩れることはなかった。そうしてどれだけの時が過ぎただろう「ア、アイエ……セキイ=サン、ドーゾ、イッチョアガリ……」

イタマエは恐る恐るインド・スシをカウンターへ置いた。「おう、来た来た。じゃあ食うぜ」香りをかぐと、セキイの陽気な表情はさらに笑顔になった。「アンタ、メシの邪魔すんなよ。最近いちばんの楽しみなんだ」セキイはフジキドへそう釘を刺すと、わき目も振らずインド・スシを口に運びはじめた。

(((フジキド!)))(((黙れナラク!)))セキイの一挙手一投足を観察していたフジキドだったが、やがて彼も視線を自らのインド・スシへと移し、スプーンで切り分けられたポーッカットレットの一切れをスプーンですくい、口へ運ぶ……とカットレットを皿に取り落とした。

「イタマエ」フジキドは顔をあげるとイタマエに問うた。
「箸は、ないのか」「アイエッ?」

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オキブ。カブキチョに隣接するその街は、マケグミと呼ばれる下層市民、あるいはヨソモノ呼ばれる流れものたちのテリトリーだ。昼間はところ狭しと露天が立ち並んでいたが、日が沈んだいまは、まるでハカバめいた静けさだ。

今にも崩れそうなビル群の一角、その地下に店はあった。ヒンディー語でショドーされた看板に小さく「ブッダ・スシ」とカタカナのルビが振られている。エスニックな装飾で埋め尽くされた店内、中でも異教のゾウやカメやイルカの神の上でブッダが寝ているポートレートが異彩を放っていた。

チリーン、入り口の扉に付けられたフーリン・ベルが鳴った。「イ、イラッシェー」イタマエは反射的に声をかけた。「アイエッ」イタマエはあまりの驚きに失禁しかけたが、板場を汚してはならぬという職業的モラルにより絶えた。

入ってきた男は、トレンチコートにハンチング帽を被った男だった。見間違えようはずもない、昼間もやってきてポーッカットレット・カリー=スシを注文した男だ。常連と何事か話していた。男は疲労の色濃く、一番奥の席へどっかりと腰掛けると深いため息をひとつついた。

「スシをくれ」「アイエ……う、うちはカリ……インド・スシしか置いてないよ」「それでいい」その男、フジキドは有無を言わさぬ態度で代金分のトークンをカウンターに置いた。「ア、アイヨ、インド・スシイッチョー」

「スゥーッ、ハァーッ、スゥーッ、ハァーッ」スシが出てくるまでのつかの間も、フジキドはチャドー呼吸による回復を試みていた。だがそれだけでは足りぬ。エネルギーが、スシが必要だった。呼吸を深めながらフジキドは先ほどまでの戦いを振り返っていた。

情報統制が徹底されているアマクダリ・ニンジャのうち、個人情報を得られた数少ない対象を追ってフジキドはオキブへ赴いた。インドでディセンションを受け、なんらかの方法によって日本へ舞い戻ったニンジャ。その情報は国外のサーバーで発見された。

セキイ・イブドゥーと名乗った男、またの名をカッティーヤは恐るべきカラテの持ち主だった。ブッダ本人が習得していたとされる古代暗殺拳カラリ・パヤットの使い手であり、特に千手観音のごとき連続掌打は強力無比で、ニンジャスレイヤーは命を落としかけた。だが殺した。

しかして結論から言うと無駄足だった。カッティーヤはただの傍流ニンジャに過ぎず、新たな情報を得ることはできなかった。深いダメージのせいで朦朧とする意識を、チャドー呼吸でつなぎとめる「お、お客さん?大丈夫かい?」

フジキドはイタマエの心配そうな呼びかけにより意識を覚醒させた。「……ああ」「ドーゾ、ポーッカットレット・カリ=スシ、あがったよ」「スマヌ」フジキドはイタマエが差し出した皿を受け取り、テーブルにそっと置いた。

「イタダキマス」スプーンを手に取り、コメとツメを軽く混ぜ合わせ、カットレットごとすくって口には運ぼうとした。が、そうする前にフジキドはスプーンを置いた。

「……イタマエ」「アイエ…」「箸は、ないのか?」

【ニンジャスレイヤー DIY小説「カットレット・フェル・トゥー・ザ・シー・オブ・ミスティック・スパイセズ」】終わり

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コブラのように生きたい。コブラ・ニンジャのようには生きたくない。