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#61 強欲の代償(1)


ホモ・サピエンス


現生人類と非常によく似た動物が初めて姿を現したのは、およそ二五〇万年前のこと。だが、数え切れぬほどの世代にわたって、彼らの生息環境を共にする多種多様な生き物の中で突出することはなかった。

その当時の現生人類と非常によく似た動物は、現在の人類のように互いを愛し、遊び、友情を結び、コミニティの中の地位や権力を求め争っていたであろう。しかし、それは当時に生息したヒヒやゾウにしても同じだった。

太古の人類は当時の環境の中で、取るに足りない動物にすぎず、環境に与える影響も微々たるもので、ゴリラやクラゲと特に大差はなかった。

生物学者は「種」を分類する。動物の場合、交尾する傾向にあって、繁殖力のある子孫を残す者どうしが、同じ種に属すると言われる。馬とロバは比較的最近、共通の祖先から分かれたので、多くの身体的特徴を共有している。

それでも、交尾相手として興味を示すことはない。交尾を仕向けられればそうすることもあるが、そこから生まれた子供(ラバ)には繁殖力がない。

そのため、ロバのDNAが突然変異によって馬に伝わることはけっしてないし、その逆もまたしかりだ。馬とロバは、それぞれ別の進化の道筋をたどっている、二つの別個の種とみなされている。

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上:ラバ(フリー画像)

これとは対照的に、ブルドックとスパニエルは外見が異なっていても同じ種の動物で、同じDNAプールを共有している。そのため、両者は喜んで交尾し、生まれた子犬は長じて他の犬とつがい、次の世代に子犬を残す。

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上:ブルドック 下:スパニエル(フリー画像)

共通の祖先から進化したさまざまな種はみな、「属」という上位の分類階級に所属する。ライオン、トラ、ヒョウ、ジャガーはそれぞれ種は違うが、みなヒョウ属に入る。生物学者は二つの部分(前の部分が属を表し、後ろの部分が種の特徴を表す種小名)から成るラテン語の学名を各生物種につける。

わたしたちは、ホモ(ヒト)属のサピエンス(賢い)という生き物である「ホモ・サピエンス」である。

属が集まると「科」になる。例えば、ネコ科はライオンやチーターなどで、イヌ科は、オオカミやキツネなど。ある科に属する生き物はみな、血統をさかのぼると、おおもとの単一の祖先にたどり着く。最もちいさなイエネコから獰猛なライオンまでネコ科の動物はみな、およそ二五〇〇万年前に生きていた、一頭のネコ科の祖先を共有している。

そして、わたしたちはヒト科に所属している。もっとも近しい縁者には、ご存じチンパンジーやゴリラやオランウータンがいる。なかでもチンパンジーが一番近く、わずか六〇〇万年前、ある一頭の類人猿のメスに二頭の娘がいた。一頭はチンパンジーの祖先となり、もう一頭がわたしたちの祖先となった。

他のホモ科


人類が初めて姿を現したのは、およそ二五〇万年前の東アフリカで、アウストラロピテクス属と呼ばれる猿人から進化した。約二〇〇万年前、太古の人類の一部が故郷を離れ、北アフリカ、ヨーロッパ、アジアの広い範囲に進出した。

ヨーロッパ北部の雪の多い森で生き延びるには、インドネシアの暑い密林で生き抜くのに適した能力は異なり、それぞれ辿り着いた土地に適応するように進化していった。その結果、別個の種が誕生した。

ヨーロッパとアジア西部の人類は、ホモ・ネアンデルターレンシスで、一般にはネアンデルタール人と呼ばれる。(ネアンデル谷(タール)出身のヒト)

ネアンデルタール人は、わたしたちサピエンスよりも大柄で逞しく、氷河時代のユーラシア大陸西部の寒冷な気候に適応した。アジアのもっと東側住んでいたのがホモ・エレクトス(直立したヒト)で、彼らは二〇〇万年近く生き延びた。

インドネシアのジャワ島に暮らしていたホモ・ソロエンシスは、熱帯の生活に適していた。また、インドネシア島の一つで、フローレスというちいさな島では、人類は小型化した。人類が初めてフローレス島に到達したのは、海水面が極端に低かったときで、そのころのこの島にはジャワ島から簡単に渡れた。その後、海面が再び上昇し一部の人類が島に取り残された。

しかし、島には資源が乏しかったため、多くの食べ物を必要とする大柄な人が真っ先に死に、小柄な人々の方がずっとうまく生き延びられた。そのため、世代を重ねるうちにフローレス島の人々は小型化した。

学者の間ではホモ・フローレシエンスという名の特殊な種は、身長が最大1メートルで、体重が25キログラム程度だったという。それでも、彼らは石器を作ることができ、島に住むゾウを狩ることもできた。但し、この島ではすべての生き物が小型化したので、ゾウもまた矮性種だった。

もし、日本人のわたしたちが当時のフローレス島に上陸したら、彼らからしてみれば多くの日本人が巨人族に思われたに違いないだろう。なぜなら、島の住人は、成長期の幼稚園児並みの身長しかないのだから。

東アフリカで進化」していったのは、ホモ・ルドルフェンシスや、ホモ・エルガステルや、ホモ・サピエンスなど、無数の種を育み続けた。

先にあげたホモ属に属するすべての生き物は皆、人間だ。

そのため、ホモ・エルガステルからホモ・エレクトスが生まれ、ホモ・エレクトスからネアンデルタール人が誕生し、ネアンデルタール人からわたしたちに進化したとするのは、いささか無理がある。

約二〇〇万年前から一万年前ごろまで、この世界にはいくつかの人類種が同時に存在していた。これは自然なことで、人間以外の動物においてはキツネやクマやブタに至るまで、多くの種が存在している。つまり、現在においてホモ・サピエンス種しかいないことの方が特異なのである。

ではなぜホモサピエンス種しか存在しないのだろうか。

つづく


参考文献「サピエンス全史 ユヴァル・ノア・ハラリ著」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

ルーベンスの画像(メトロポリタン美術館)を使用させて頂きました。

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no.61 2021.4.9



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