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教科書まとめから理解と考察を進める:001_Essential細胞生物学(第3章)

教科書を読み進め,手持ちの知識を組み合わせて考察してみよう!という動機の企画です.題材はEssential細胞生物学です.
第3章では細胞の構成要素がどうやって働いていくのか,という反応機構について取り上げられます.

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1.内容のピックアップ

ー細胞はどうやって乱雑さから自らを保ち続けるの?

第3章は「エネルギー,触媒作用,生合成」の題で,どのような仕組みで細胞は必要な有機分子を生み出していくのかが基本的な化学反応の視点から説明されます.
まず熱力学の第2法則にある「エネルギー・物質のやりとりが遮断された閉鎖系の中では,状態は乱雑な方向に向かう」ということと「細胞のシステムは秩序が保たれている」ということの(一見すると相反する)関係性について触れます.これは細胞のシステムが熱力学の第2法則を無視しているわけではなく,細胞外に乱雑さを結果的に押しやることで細胞内に秩序を保っており,外側まで含めた閉鎖系を考えればちゃんと乱雑になっていると説明されます.
次に細胞がエネルギーをどのように得て・蓄え・利用するのかについて,関連する化学反応機構とともに説明されます.まず「エネルギーは形態は変わっても全体の合計量は常に一定である」という熱力学の第1法則に触れ,光合成によって太陽からの光エネルギーを化学結合エネルギーとして生物界に取り入れ,呼吸によってその化学結合エネルギーを細胞活動に関わる他のエネルギーに変換しているというサイクルを示します.
化学結合を新たに作ることによって分子にエネルギーを蓄えさせることは,自由エネルギーが増加する方向に向かうことになり通常は進行が難しいとされます.しかし細胞は触媒反応共役反応を活用することでそれを実現します.重要な役割を担うのは酵素活性運搬体です.酵素はそれぞれ特定の分子の反応に触媒として作用し,化学反応のエネルギー障壁を下げます.活性運搬体はエネルギーを分子内に一時的に蓄え,別の分子と共役反応を起こすことで分子の結合形成に寄与します.

2.興味を持ったポイント

・共役反応によって自由エネルギーの階段を上る
共役反応は自由エネルギーの低い方向にシステムは進むという物理法則を満たしながら,細胞が所望の分子結合を実現するための強力な武器になっているようです.しかし今回初めて知った単語でした...英語ではBioconjugationというようです.

・酵素は触媒として化学反応を制御する
酵素という言葉は普段の生活でも耳にすることがありますが,それが細胞内で触媒の役割を果たしているというのは今回学んだことでした.触媒というと個人的には固体表面を触媒として利用する例(白金など)を思い浮かべてしまうのですが,調べてみるとWikipediaに記載があるほどに酵素も代表的な触媒の例でした.

3.考察

共役反応の部分は反応制御の観点から興味深いものがありました.ただ各論ではまだ理解が追い付いておらず,精進したいと思います.Google Scholarにてレビュー論文を見つけましたが(リンク),最後に記載された図解部分を見ると反応で現れる元素は窒素や硫黄が多く,反応を局所的に見れば応用範囲は広いのではないかと感じました.

4.雑感

1章・2章に比べると概論から詳細に踏み込みつつある内容で,かなり理解に時間を要しました.しかし突然の飛躍はほとんどなく,教科書としてこの一冊でしっかりと閉じている印象を受けます.2章と3章で細胞の最小単位となる分子とその反応の基本メカニズムに触れられ,4章からは詳細な細胞の活動に説明が移っていくようです.折れない心をもって,読み進めたいと思います.

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