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教科書まとめから理解と考察を進める:001_Essential細胞生物学(第4章)

教科書を読み進め,手持ちの知識を組み合わせて考察してみよう!という動機の企画です.題材はEssential細胞生物学です.
第4章ではタンパク質について,何から構成され・どんな働きをしているのかと説明が続いていきます.

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1.内容のピックアップ

第4章は「タンパク質の構造と機能」の題で,細胞の乾燥質量のほとんどを占めるタンパク質がどのようにして多様な機能を実現しているのかが説明されます.タンパク質とは,20種類のアミノ酸が数珠つなぎに結合した高分子のことを指します.アミノ酸の持つアミノ基とカルボキシ基が結合していくことで(ペプチド結合),一方がカルボキシ末端・他方がアミノ末端でペプチド結合が直列した高分子=タンパク質が形成されます.多くのタンパク質はアミノ酸50~2000個ほどが連なって形成されますが,どのアミノ酸がどの順序で結合するかによってタンパク質がどのような形で存在するのが安定かが異なってきます.その結果,タンパク質は特有の折りたたまれ方(コンホーメーション)を持つようになります.折りたたまれ方によってタンパク質に特徴的な結合部位が生まれます.結合部位の複雑さによって,タンパク質の周りにあるたくさんの分子の中から特定の分子と選択的に反応を起こすことができます.また細胞が最適な状態を維持するために,反応速度を制御する様々な機能があります.この章では酵素の働きフィードバック阻害のふたつに触れられています.酵素は特定の反応に対して触媒として働き,反応の際のエネルギー障壁を下げることで反応を促進します.フィードバック阻害はA→B→Cと進む反応があった時に,Cの生成物がA→Bの反応を抑制することでCの生成量を制御します.フィードバック阻害の方法のひとつとして,タンパク質のアロステリックな性質の利用が紹介されます.アロステリックとは異なる複数種類のコンホーメーションが切り替えられる性質のことを指し,反応に対する活性・不活性をコンホーメーションの変化によって切り替え可能にします.

2.興味を持ったポイント

・タンパク質の折りたたまれ方が変わることの影響
章の途中,コンホーメーションの変化によってはタンパク質が凝集体となり細胞だけでなく組織に対して疾患となる例が示されます.折りたたまれ方が異常な=異常なプリオン型のタンパク質によって狂牛病などの神経変性疾患が引き起こされます.同じ結合の分子でも,折りたたまれ方が異なるだけで病気の原因が引き起こされるというのはタンパク質や生体の繊細さを感じます.

・抗体は抗原を不活性化するために備えられた数十億におよぶ結合部位
細胞に悪影響を及ぼす細菌・ウイルスなどに対し,細胞は抗体によって不活性化を図ります.抗体は数十億種類の結合部位を生産可能な状態で「外敵」を待ち構えており,選択的に外敵に結合し不活性化することで細胞を守ります.先に述べたコンホーメーションと結合の選択性がここにも活かされているようです.また,不活性化に成功した抗体を持つ細胞が増殖することで生体内に同一の抗体を大量に生産することが可能になります.この抗体の仕組みを見るとなぜワクチンが細菌・ウイルスに対して効果的なのかも腑に落ちてきます.

・反応経路のフィードバック経路
本文ではフィードバック阻害が負のフィードバックの例として示されました.一方で正のフィードバックの例も反応経路の中に存在するようです.一般に負のフィードバックは安定化しますが,正のフィードバックには振動・発散などの不安定性があり,反応経路においてはどのように活用されているのか気になるところでした.

3.考察

・反応のフィードバックによる速度制御
前章の共役反応に続き,フィードバック阻害と呼ばれる私にとって初耳な反応機構が現れました.確かに制御の観点から逐次反応を見るとフィードバック機構は有効そうです.進化の過程でこのような機構が現れているのは驚くばかりですが..教科書に書かれている模式図はブロック線図に近く,線形システムを思わせるものでした.細胞のシステムに非線形性はないのかググってみたところ,Nonlinear biologyやNonlinear biochemistryといったキーワードの文献はヒットしたので,教科書の先に学術領域が存在するようです.

・構成要素がオブジェクト指向
タンパク質の構造はコンポーネントとして理解できるという点も興味深い部分でした.ひとつひとつの結合レベルで複雑性を持って大きな組織が動くという選択肢が進化の過程で削ぎ落ちてしまったのか,それとも人間が細胞活動を理解する形態としてこの枠組みになっているだけなのかは気になるところです.

4.雑感

今回は狂牛病や抗体などの普段の生活やニュースで耳にする単語と高分子の化学から出発した細胞生物学がつながる部分があり,興味深さを感じるとともに細胞の繊細さやシンプルさと複雑さの関連性も感じました.次の章はDNAと染色体というタイトルです.遺伝について核心にせまる題目ですので,楽しく読めればと思います.

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