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「誰が為に陽は昇る」 真夏の夜の悪夢 -翌朝-

夜が明けると、少しづつ世界が照らされはじめる。正常な始まりという、気だるい光。そんなものに何の意味がある?隣りに横たわる、死んだように白い肌。その口元にこびり付いた、赤黒く乾いた色が見える。襟が引き裂け、甘い胸をはだけても、その指に絡みついたままの冷たい刃が、塗り重ねた俺の色で鈍く光る。お前は今何を感じてる?唇にまとわりつくこの指をうざったくて、いっそ噛み千切ってやりたいと思ってる?俺はお前を奪った時の鉄の味がまだ口の中に拡がってる。これまで味わったどんな美酒も、この甘さに比べれば味気ない水と同じだ。
俺が今、生きてるのかそれとも死んでるのか。そんな曖昧な事実より、お前を奪ったつもりで奪いきれてないんじゃないかって不安の方が体の奥で痛いほどずっと脈打ってる。穢らわしい獣じみた俺の姿が光の下に露わになった瞬間、この息を忘れる至上の快楽も泡と消えてしまうんじゃないかって。そうなったら俺はどうすればいい。

「…ダメだ」

耐えられなくなって、お前が起きる前に服を着てその場を離れた。どうせ居なくなるなら、俺の見てないうちに、いつの間にか消えてくれよ。家出猫みたいにひょいと居なくなって、またいつの間にかそばにいる、いつものあんな感じでさ。

「う あ」

体が、痛い。起きた瞬間、ものすごい痛みを感じた。何か言おうとしても、痛えって言葉さえ出ない。こんなに全身痛いのはきっと人生で初めてだ。まるで車で高速を走ってて、トラックと正面衝突したみたいな。だとしたら俺はもう動けないんじゃないか。消えたアイツらと同じように夜中に襲われて、骨もバキバキに折られて、ここに監禁されたんじゃないか。とっさに下半身を確認したら、脚が動く。ちゃんと指先まであった。とりあえず脚を千切られてはいないみたいだ。次に両手を確認すると、持ち上げた右手に血まみれの包丁が見えた。

「えっ?」

ゆうべ、ポンにサラダを作って食わすために、リンゴとかナスを切ってた包丁だ。握り方もあの時のまま。丸い穴の並んだデザインの刃先も、握りやすい柄の形もそっくり同じ。血というか、これは赤黒い何かだ。ああ、野菜の汁が付いたとかじゃないの。そうだよね。でなきゃ俺がこんな物持ってるわけがない。とりあえず手洗おう。それからシャワー行こう。綺麗にしよう体を全部

「いでっ…いた、い…!」

頭が真っ白なまま起き上がろうとしたら足がもつれて転んで、思いっきり床に頭打ち付けて、痛すぎてやっとまともに声が出た。とりあえず声は出せた。でも今の声をアイツに聞かれたかもしれない。今すぐ俺を消しにくるかもしれない。逃げよう、歩けないなら這ってでも、この場所から少しでも離れよう。そして助けを呼ぼう。でないとまた誰かがアイツに殺られる。アイツは絶対にまた戻ってくるから。
声を我慢して床の上でのたうち回ってたら、何とか足と膝と手のひらが床に付いた。そのまま這うようにして前進して、廊下にある二本の細い柱にしがみついて立ち上がったら、目の前にタカシの顔があった。

「虎ちゃん、大丈夫?」
「へ?ああ、大丈夫…え、タカシは?何でそんな顔…服も血、だらけ…なの…」
「俺は大丈夫だよ」
「そう…なの…?他の、みんなは…」

気付いた時にはもう遅かった。腰の辺りに何となく馴染んだ指の感触。何をしてるか分かってても言葉にならないし、嫌だとも思えない。タカシのやけに優しい声を耳元で聞いて、その眼の中に映る自分の顔を見て、もう何かが違っちゃってるって、元の二人には戻れないって分かった。

「欲しいのはお前だけだから」


▒登場人物は3人(あるいは4人?)

▒U&I…君をバラバラにしたイノセントデイ



▒(包丁を持ったまましてたから、身体中切り傷だらけ)

▒BGM: Himitsu - ALICE NINE. & 相殺性理論 - THE MUSMUS 


次のシーン▶赤の序曲 https://note.com/6halloween9/n/n42b5be4d8335

今日も読んでくれてありがとう。読んでくれる君がいる限り、これからも書き続けようと思ってます。最後に、あなたの優しさの雫🌈がテラちゃんの生きる力になります🔥💪