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光とよんだものたち

絵を描くことにした
花瓶にうつる陽の光がやわらかいから
歌をうたうことにした
公園であそぶ子どもの声が軽やかだったから
物語を紡ぐことにした
海をみて涙をながすことができたから

そうして切りとった世界の一瞬は、
すぐにその色を失ってしまって
ああ、わたしが触れなければ、
わたしが見つけなければ、
もうすこしは輝いていたのかもしれないのに


ふと気がつくと、
手垢にまみれたうつくしかったものに囲まれて、
どうにも息ができなくなっていた
可能性という
ひどく甘ったれた、おそろしく優しい言葉に、
すいぶんながいこと沈んでいた

わたしのなかに存在した、
かつて光とよんだものたちよ、
どうかわたしを許さないで
あなたを腐らせて、
そのくせ捨てさることすらできないわたしを
どうか許さないで


それでも時折、
散らかって、惨めに積みあがった生活のなかで、
あの色が、
あ音が、
あの言葉が、
ちいさな明滅をみせることがある

わたしはそれを、祈りとよんでいいのでしょうか
それともあなたを、呪いとして愛しましょうか
その明滅をそっとすくいあげると、
いつもかなしい暖かさがするのです

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