Half Moon Run を聴きましょう!!!全アルバム紹介
5、6年前くらい前に映画の主題歌で聴いてからめちゃくちゃええバンドや…と聴き続けているカナダ出身のバンド、Half Moon Runをおすすめしまくるやつです。
日本国内でボリュームあるレビューが2、3件しか出てこないのどうかしてる!
Rate Your Musicだと10件くらいある中に「こういのはもう何周もしたやつだから今更だね(フッ」(超意訳) みたいなクソいけすかないレビューがあって、うっさいボケって感じです。
ただこのレビューにも一理あるっちゃあるのが悩ましいところ…。
それでも俺はこのバンドの持つポテンシャルはそれを補って余りあると思っています。
その理由を踏まえながらHalf Moon Runの現時点でリリースされている全ての盤を紹介して、各盤のおすすめ曲を抜粋し、拙い語彙と浅学な音楽知識をなんとか駆使してちょっとでも興味を引いてやろう、あわよくばこのバンドを好きな人が増えて、万が一にも彼らが「日本にもたくさんファンいるんだ。ライブしよっかな」ってなったら嬉しいなって試みです (あとYouTubeで「Underrated…」ってことあるごとにコメントされてんのがシンプルに癪に触ります。お前が評価を外に発信していくんだよ!!) 。
概要
Half Moon Run (ハーフ・ムーン・ラン)
ケベック州モントリオールを拠点に活動するロックバンド。
Devon Portielje、Conner Molander、Dylan Phillipsの3名が創立メンバー。1st Albumリリース直後に加入したIsaac Symondsは2020年に脱退。
メンバー全員がマルチプレイヤーかつボーカリスト。
バンドの主力たる3声 (時に4声) のボーカルハーモニー、コーラスワークは、過剰に振る舞うことなく端正に楽曲を彩り、高い技術力に裏付けされたバンドアンサンブルは不動の完成度を誇ります。
またライブではマルチプレイヤーである利点を活かし、複数の楽器を持ち換えながら演奏します。各々の技量が軒並み高水準なので、楽器を持ち換えたからといって演奏にブレが生じることがありません。
編曲にも無駄がなく、各パートがお互いの持ち味を潰したりすることなく綺麗に同居し、余計な音や足りないと感じる音がありません (エンジニアリングも強い)。
これがこのバンドの最大の強みでもあり、しかしながら人口に膾炙しない部分でもあります。
正直言ってサウンドに革新性があるかといえば、「どっかで聴いたよね」と言う評価に落ち着くのもまた事実だからです (RYMのいけすかないレビューでぐぬぬとなるのはそれが理由)。
しかしながら一曲一曲の構成力、そしてそれを実演してみせる堅実さに比肩するロックバンドを探すのは困難でしょう。まさしく総合力で戦うバンドなのです。
ジャンルは広義のインディーロックに分類されますが、アコースティック楽器と電子楽器の融合を旨とする楽曲が多いため、インディーフォークとも形容されます (RYMのカテゴリにもそうあったんでそうなんでしょう)。
こういう音楽のジャンル分けにはめちゃくちゃ疎くて、どのバンドがどのジャンルに属していてどう影響を与えてみたいなのはあまり分かんないんですが、「Fleet FoxesとRadiohead が影響元にあるんじゃない?」みたいなコメントをYouTubeで見かけて、あーたしかにってなりました。
個人的にFleet Foxesに対してちょっと大所帯すぎて重いと感じる部分と、Radio Headに対してもうちょっとポップでも良いんだよなと感じる部分をうまいことクリアしてると思います (どっちも好きだし当然素晴らしいバンドです)。こういうわがまま野郎に対して懐が深いバンド、それがHalf Moon Run。聴いてみてね。
メンバー紹介
Devon Portielje – lead vocals, guitar, piano, percussion
若かりしディカプリオに一瞬似とらんこともない男前なリードボーカル。
すらっと高い背に引っ提げたJazzmasterを鳴らす立ち姿がイカしてます。
彼のみオタワ出身で、ConnerとDylanが結成にあたって掲示板でベーシストかドラマーを募集していたところに、ベーシストでもドラマーでもないのに応募したそうな。
歌めっちゃ上手い、ギター上手い、背高い、イケメン、ずるい。
♢
Conner Molander – backing vocals, guitar, keyboard, piano, pedal steel, bass, harmonica
リードギターを主に担当していますが、ピアノ もベースもバリバリ弾きます。
当然歌も上手い。ハーモニーでは上の声部を担当していることが多いです。
ペダルスティールもさらっと引きこなす器用さが売りで、ステージで楽器を一番持ち換えているのもこの人。フィンガーピッキングが流麗で、彼のアルペジオが基点になる曲がしばしば。
♢
Dylan Phillips – backing vocals, drums, piano, keyboard
ドラマー兼ベーシスト。
同時にこなす仕事量が一番やばい人。
彼がステージ上で何をしているかというと、ドラムとシンセベースを同時にこなしています。
左足はペダルハイハットでリズムキープ、右足はキック。ここまではまぁ普通として、そっから右手のみで両手を使った方が楽だろうリズムパターンを形成し、余った左手でドラムセット前または横にセットしたシンセでベースラインを奏でます。なんならスプリット機能使って和音の伴奏もやります。意味わからんです。
そして彼もハーモニーを担うので当然その状態で歌います。ますます意味わからんです。
彼のおかげで現行では3ピースバンドでありながら、そのサウンドは4ピース以上の厚みを持って展開できるわけです。
結成当時の人員と機材の制約をどうにかしようと模索した結果が、そのまま特異なスタイルへと昇華した稀有な事例でしょう。
ちなみに、そもそもクラシック畑の人間でピアノがめちゃくちゃ上手い。むしろこっちが本業で、個人名義でソロピアノのEPも出しました。ストリングスのアレンジとか考えてるのはこの人です。
♢
Isaac Symonds – backing vocals, drums, mandolin, synthesizer, bass
2020年に脱退。
彼も同じくマルチプレイヤー。
3人では補きれない部分をしっかり支えてくれていた素晴らしいミュージシャン。
ときにツインドラムの片割れを担い、リードギターもこなし、マンドリンなどの細かなサウンドも丁寧に補完します。
彼が加わり四声のハーモニーになった時のスケール感は圧倒的で、抜けてしまったのは惜しい限り。でも人生の新しい門出ってことなんで祝福したいです。
リリース盤紹介&おすすめ曲
それでは現時点でリリースされた盤の紹介とおすすめ曲のピックアップやってきます。
1st Album『Dark Eyes』(2013)
デビュー作ですね。もうこの時点で完成度が高いです。
フォーキーなサウンドにしっとりとリバーブを効かせた、夜半の雰囲気を全体的に纏った一枚。
これが一枚目って腰を据えすぎだろうと思うくらい安定感があります。
全員楽器上手いからどっかで綻び出るとかないんですね。初期リリースにありがちな荒削りなところとか一切なし。
すでにスタイルは確立してあって、ギターアルペジオを基点とし、クリーントーン主体のリードギターと、シンセベース特有のアタック感と音の連結、そして多層的なパーカッションが織りなすリズムの渦が見事に調和し、実際の楽器構成の少なさに反してとてつもない広がりと重厚感を生み出しています。
しかしながらミニマルな構成には変わりないので、案外聴き疲れすることなく、すべての楽器の動きを追いかけながら楽しむこともできる優れもの (アレンジや演奏に注力した聴き方をしていると、たまにガチャガチャした曲にぶち当たった時めちゃくちゃ疲れませんか?)。
HMRはこの1stからサウンド構築において完成度が落ちることがありません。
もともと上手い人たちがずーっと上手いことやって進むので、進化というよりも成熟度合いが上がって行くという感じです。「1stの頃はさぁ楽器も下手で音もガチャガチャしてんたんだよ〜。そのころの荒っぽさも良かったんだけどねぇ」みたいな古参意見は封殺されます。
ではおすすめ曲をピックアップ。
なるべくとっつきやすいように人気な曲をチョイスしました。
人気な曲を普通に好きでガンガン聴ける人間なんで、ほんとはこれ聴いてほしいんだけど、まぁ無難にこれすすめるかぁではないです。ガチで全部良い曲だと思ってるんで。
M1. Full Circle
一曲目にどっしりと構える『Full Circle』。
『アサシンクリード4』のトレーラーに使用されてちょっと話題に。
いきなりHMR節が炸裂しております。
ぬるーっと流れるパッドの上にアコースティックギターの複雑なアルペジオが乗っかり、さらにその上にこれまた複雑な譜割りのボーカルが捲し立てるように歌い始める。
控えめに装飾するハーモニーが次の展開を期待させ、リズムセクションが加わります。タム中心の力強い打音で民族音楽のような装いに。
2ヴァース目からはいよいよリズムの厚みが増し、ボトムがより強固になります。そのまま進むと思いきや雄弁なリズム隊が突如引っ込んでクラップとアコギのみになるという緩急の付け方。このようにリズムセクションがメロディアスにさまざまな要素を伴って変化していくのがこのバンドの聴きどころの一つです。
間奏でクレッシェンドして入ってくるギターのバランス感覚も素晴らしい。
ここでこの曲の要たるアコギのアルペジオにも注目してみましょう。
なんとバンドから公式のTab譜が配布されてるので (優しい) そちらをありがたく活用させていただきます。
33334 (八分音符16個をタタタ×4とタタタタで割る) の細かいフィールと、1弦開放 (譜面上0記入されたポイント) のサスティンを効かせることで生まれるリズムの対比が良い。
この1弦の音がコードを切り替えるたびに、構成音の中で役割を変えながらもトップノートに居座り続けることで、サウンドが変化しているようでそこにとどまり続けているような曖昧さを醸し出してるのが良いんですよね。
分散和音の使い方が上手い。タテの響きとヨコの流れを意識した堅実なアレンジ。アコギなんて音の分離を聴かせてなんぼみたいなところありますからね。
こういうちょっと一工夫みたいなものの積み重ねをどの曲でも怠らないので、何度聞き返してもきっちり応えてくれます。このバンドの曲作りに対する姿勢は勤勉でいて遊び心に満ちているんです。
M2. Call Me In the Afternoon
本アルバムの2曲目。
これと『Full Circle』くらいです、でっかく跳ねたの。
これはもう文句なしの名曲です。
これ楽器の振り分けが面白くて、ギター以外全員ドラム叩くんです (Dylanはシンベもやる)。まずツインドラムがあって、ヴォーカルはタムを叩きながら歌い、ギターはずっとアルペジオのリフ (『Full Circle』とリズムパターンは同じ) を弾き続ける、実質全員リズム隊みたいな曲です。
こーれがめちゃくちゃ良くて、ボトムに全振りしてウワモノを極力排除した結果、ボーカルハーモニーがめっちゃ映えるわ、低音域の重厚さで包み込まれるような感覚になるわで、聴いてる時の快感がエグいんですよ (言ってて興奮してきた)。
これ聴いた時はこんなやりかたがあったんか!とびっくりしました。
俺は典型的な快楽至上主義リスナーなんで、このリズムの多層構造に乗っかるハーモニーに無限に気持ちよくなれるんですね(電話のベルを想起させる「Really really really…」って繰り返しもめっちゃ気持ちいい)。
Steve Reichの『Drumming』ってありますけど、あれをバンドサウンドで歌モノに変換したらこうなんのかなって思いました。
これぜひパフォーマンスの方も見てほしいんでおすすめのライブ映像も紹介します (生で見たい!)。
これがメンバーが何やってるかが一番分かりやすいやつ。
コロナ禍でのリモート収録ですね。ライブでは無いんですが実際のパフォーマンスを撮ってるので彼らのその高い技術力がお分かりになるでしょう。4分割右下のDylanの仕事量やばい。コーラス部分ではでベースラインと和音弾きながらハットペダルも踏んでますから。
こっちはちょっと全体的に走ってるんですけど、疾走感増し増しでいいですよ。
M4. She Wants Know
ダークでかっこいい曲。
イントロで、ピアノが単音を表拍で刻むわけですけど、8拍目の裏からボーカルスキャットが入ってビートを裏返します。
こういうちょっとした遊びをさらっと入れながら、でもめっちゃ凝ったことして煙に巻いたりしないのがこのバンドの安心感を担保してます。
この曲はギターの音作りがめちゃかっこいいです。シンベのエッジも立っててイカしてます。
総じて言えるのはボトムが分厚いことなんですよね。ベースもうねうねするんじゃなくて、オーソドックスにアンサンブルに奉仕する姿勢。ドラムスもタム中心のビートメイクでどっしりしたサウンド。低音域には芯の太さもそうなんですけど、でっかい音のクッションのような役割を果たしてほしくて、このバンドはそこがしっかりしている。
その上でウワモノも過剰にサウンドしないから、こういう激し目の曲でも聴き心地が抜群なんですね。楽器同士がガチャガチャぶつかったりしない。
ブリッジからコーラスまでの流れは全リリースのなかでも飛び抜けてイカしてます。
他にもボーカルハーモニーを余すことなく味わえる『No More Losing the War』、『Need It』、『Unofferable』などのバラードもおすすめ (全曲紹介したいのを必死にこらえています)。
とりあえずこのアルバムツアーのライブ聴いてみるのもいいですね。1曲目の『21 Guns Salute』とかめっちゃいいですよ。
♢
2nd Album『Sun Leads Me On』(2015)
前作同様フォーク志向がベースにありますが、ちょっぴりエレクトロニカに寄り道したりします。なので1枚目の雰囲気が好きだよーって方にはちょっとウケが悪いかもしれない。
俺もこれはぶっちゃけ微妙な盤です。完成度が高いことに変わりありませんが、「ちょっとそれは求めてないんよね…」みたいな気持ちが拭えません。
ただこれも結局何回も聴いちゃうんですけどね (何度もしつこいですがアンサンブルの安定感がマジで凄すぎる)。
※この記事書くために聴き返してたら普通にめっちゃ良かったのであんまり当てにしないで。
ではおすすめ曲ピックアップ。
M1. Warmest Regards
このバンドを知るきっかけになった1曲です。
『Demolition』(邦題は『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』。長い!) っていう映画の主題歌です。Jake Gyllenhaal演じる銀行員のおっさんが奥さんを亡くして、シングルマザーと仲良くなったり、その子供とチャカで遊んだり、街中で突然踊り出したり、自宅をぶっ壊したり、ガキンチョたちとのかけっこに全力出して勝ったりする映画なんですけど、俺は一時期この映画をひたすらローテしてて、最後に流れるこの『Warmest Regards』を聴くのが目的化してるのに気づいて、このバンドなんやろなと調べた結果がこの有様です。
このバンドには珍しくかなり大所帯な楽器編成で、フルートとトランペットが加わり哀愁の漂う仕上がりになってます。アルバムの1曲目にこんなコッテコテのバラード置くんかって感じですが、めっちゃ良い曲なんでしゃーないです。
アコギの伴奏が良いです。
DevonがTaylor GSmini mahoganyっていう小振りなギターを使って、ちょっとストレッチしたフォームのコードを鳴らすんですけど、使ってる弦が6、5、4で低中域の音で構成されたコードなんですよ。
【 E - Eaug - E6 - E7 - E9 - A - Am6 - Am7 】を繰り返すんですが、Eのコードの部分に注目すると6弦開放のE (ルート)と4弦の6フレットのG♯(長3度)を固定して5弦2フレットからB→C→C♯→D ( 5度→増5度→6度→短7度) と半音で上行 (クリシェ) していってますよね。Eのコードは基本オープン(※)ボイシングになってて、この5弦の音の変化が分かりやすいと思います。
GSmini がサイズの小ぶりなギターなので弦の振動がボディーに瞬時に行き渡り音の立ち上がりが良く(これTaylorの人の解説受け売り)、低音域のゆったりした内声の変化が映えるわけです。和声連結の細かいことは分かんないんですけど、こういう一工夫のある伴奏って聴いてて気持ちいいです。
この伴奏の上で、フルートのリードメロディとトランペットの合いの手がめっちゃ映えます。木管と金管、柔と剛、なんかダブル主人公の少年漫画みたいっすね (?) 。
アウトロのギターソロも堅実で良いです。
基本メジャーペンタにちょっとマイナーペンタを混ぜる塩梅が最高。ギターの「おいしいとこ」をきっちり押さえてます。
コピーも楽だし難しい事そんなにしてないので、ギター初心者の方には練習としておすすめですね。
くそ個人的な話なんですけど、GS mini mahogany 、HMRの曲だとめっちゃ活躍するんですがかなり好みの音ですね。お手心価格だし買うか。
映画用の長尺Verもあります。
俺はアルバムverのほうがまとまってて好きですね。
こっちは映画の余韻のためにって感じです。
M2. I Can’t Figure Out What’s Going On
シンプルなフォークロックです。
アップテンポでカントリーな香りのギター。スネアのサウンドもカラッとしてて、アルバムの中でもとりわけポップなやつですね。
こっちのアコースティックに寄せた編成もいいですよ。
原曲のストリングスが外されてるので、よりシンプルなアレンジが好みな方はこちらもぜひ。
M3. Consider Yourself
ハイ出ました、本作の曲者です (MVも)。
正直2曲目の後にこれかかった時は「なんじゃこれ!?」ってなりました。
いきなり急ハンドルきって、ドゥッ ドゥッ ドゥッ ドゥッ ってシンベのイントロ始まるから笑っちゃいました。
これと最後の『Trust』だけエレクトロニカにちょっと寄せるのでめっちゃ浮いてます。
アルバムをある程度コンセプトを探りながら通しで聴く人間としては、こいつはちょっと異物感あるなぁって最初は思ってたんですが、何回か聴いてくと結構クセになるんですよこのドゥッ ドゥッは。
ピアノがシンベをなぞるように展開し始めてから「おっ?」となります。
M9. Everybody Wants
荘厳な1曲です。
スケールを大きくしながら、徐々にサウンドの輪郭がくっきりとしていき、最後はドライブサウンドと共に力強いボーカルが堂々と締めくくります。
祝祭を迎えたような恍惚感に浸ることができます。
M11. Devil May Care
これ小粒でいい曲です。
こっちはかなりカントリー強め。とりわけブルーグラス寄りですね。
速いフィンガーピッキング (Devonのかなり我流の3フィンガー) とハーモニカ、4声のハーモニー。
シンプルな楽器編成なんで、HMRの売りであるハーモニーを存分に味わえます。
3人体制になってからのライブバージョンもいいですよ。
マイク1本を囲むブルーグラススタイル。取り合いになるのはお約束。
1stと2ndの楽曲中心のパフォーマンスでおすすめなのがこちら。
撮影もめっちゃかっこいいんで、ぜひ見ていただきたい。
♢
3rd Album 『A Blemish in the Grat Light』(2019)
きました!!傑作です!!!
アルバム単位だとこれが現時点で一番好きですね。
HMRの研鑽と遊び心に裏打ちされたポップネスが、ひとつの結実を迎えたと言って良いでしょう。捨て曲一切なし。全曲おすすめです。
70sポップスを参照しつつも過去の焼き直しでは決してないバランス感覚。
私情がこもりまくってて冷静な紹介ができないんですが、とにかく俺が求めているリスナーに寄り添う「ポップミュージック」の完成形だと思います。マジで良い曲しかない。
全曲紹介したいのを何とか抑えつつピックアップ。
M1. Then Again
しょっぱな良い曲。
ストリングスの使い方がいいですよね。大袈裟なオーケストレーションにはせず、細かいパッセージが隙間を縫うように配置するバランス感覚。
ライブだとマンドリンがそこのフレーズを担ったりして、またサウンドに一味違う印象をもたらします。
この曲もアコギの伴奏が6、5、4弦を使ったヴォイシング。
シンプルなGのトライアドを起点としてそのままAm - Bm - Cと順次進行で動いていきます。アクセントで混ざる3弦解放が半音でぶつかって、危ない響きになるポイントがあってちょっとスリリングです。
この6、5、4弦でトライアドをつくる (6弦ルート、5弦3度、4弦5度) フォーム、ちょいちょい使われがちで、4作目のアルバムにも1、2弦の開放も足しつつこのボイシングが出てきます。
人によっては割とストレッチしないといけないコードフォームなんですけど、Devonの手がでっかいので余裕で押さえてる風に見えるのが地味に罠 (John Mayerにもたまにある、え?こいつ手ぇでっか…ってなるフォーム)。
まあ本人もそのへんスムーズにしたいからこそのGS miniのチョイスなんでしょう。
どうもHMRはアコギの低音域を重視する傾向があるようです。ブライトな音域はなるべく排除したいのでしょうね。
ウォームサウンドは好みなので、このバランスは個人的には嬉しいですね。
あー全曲紹介したい。
でもボリュームが膨らみすぎる。
M3. Fresh and Blood
これ本作で1番好きな曲。
ただただあったかくて、生活の合間に流れると自然と体が弾む曲です。
このアルバムだと1番ポップでとっつきやすいと思います。
でもじっくり聴くとめちゃくちゃ聞き応えのある曲。
こういうのが俺の中では正統派のポップスですね。Ah…ってコーラスのとこ一緒に歌いたくりますよ。
Connerのペダルスティールプレイが光るのもこの曲。
アウトロのピアノが明るく跳ねるリズムでどこか切ないのも魅力。
M5. Black Diamond
うーん…良い曲。
70sを感じるじーんと染み渡るミディアムテンポなバラード。
ピアノがいい仕事してるんですよね。
3分と短い曲ですが、余韻の深さたるやそれは凄まじい。
ファルセットのコーラスはこのバンドだとわりかし珍しい。
M6. Yani’s Song
これは完全に俺の好みの押し付けです。
このパフォーマンスめっちゃいいんで聴いてください。
Dylanが本業のピアノでめっちゃ活躍してます。
M7. RazorBlade
本作最長 (7:27) の大作。
異論はありましょうが、『Starting Over』『Smells Like Teen Sprit』『Paranoid Android』をごちゃ混ぜにして、HMR仕立てにしたらこうなったと思っています。
オーディーズ志向とのオルタナティヴ志向の融合。
なんとも奇怪な様相を呈していますが、ガチガチのプログレってほどでもないですし、まぁ聴きやすい方なんじゃないでしょうか (この手のやつだと『A Day In The Life』のほうがイカれてますし)。
M9. Jello on my Mind
楽しい曲 (あとエロい)。
「J J J Jello on my Mind」のとこ好きです。
シンベが歪み強めでアタックも結構強いのが味ですね。
シンプルなギターリフとの対比が良い。
さぁこのアルバムを気に入った方はぜひこちらのパフォーマンスを。
めちゃくちゃ完成度の高いバンドアンサンブル。
コピーも兼ねて何回も聴いてます。マジで生で聴きたすぎる。
♢
1st EP 『Seasons of Change』(2020)/
2nd EP 『Inwards & Onwards』(2021)
3作目をリリースし、3人体制になってから出されたEP2枚。
コンピレーション盤で1組になってるので一緒に紹介。
3ピースに戻っため、よりシンプルな楽器編成を模索している印象があります。
小粒な曲をまとめた2枚。もちろん良い曲ばかり。
1st EP - M1. Monster
寝起きに聴いてます。寝覚めが最悪なことが多いので、非常に癒されますね。
基本2コード (CM7 - G) で延々展開するリフ、サスティンの強いピアノ。リバーブとディレイを重ねに重ね、包み込まれるようなサウンドメイク。
ドリームポップやアンビエントなど、あんまりその手のジャンルは聴かないので定かではありませんが、サイケとはまた違う浮遊感をそれらが醸し出すというのなら、この曲はその入り口としてはもってこいなのでは。
1st EP - M4. Grow Into Love
かなり人気な曲ですね。
ハーモニーが特に際立つ1曲なんでファンからも好評なもよう。
例に漏れず俺も好き。
Devonがフィンガーピッキングを多用するようになりました。
単純に1人分の穴を埋めるためでもあり、サウンドに幅を持たせるためでもあるでしょう。
こういう編成の移り変わりで見える工夫を楽しむのもまた良いものです。
1nd EP - M6. Seasons of Change
1st EPの表題曲。
寂寥感漂うバラード。
ここでDevonのボーカルソロってとこが憎いですねぇ。
マジで歌上手いんですよ…。
Devonのボーカルは小手先のうまさで魅せるわけでも、パッションで押し通すわけでもない、楽曲に自然と溶け込むような、いい意味でクセのないボーカルなんですよね。
フロントマンがなんだかんだバンドのインプレッションを担うわけですけど、じゃあバンド全体の魅力がそれに集約するのかといえばそうではない。
やはりボーカルもバンドを構成する一要素として、楽曲の完成度に奉仕する姿勢が求められると僕は思います。複数の楽器を掛け持ちするのが当たり前なHMRにおいて、Devonはその立ち位置をしっかり理解しパフォーマンスする真摯なボーカリストだと思います。
2nd EP - M1. How Come My Body
ドラムが良い仕事してます。
乾いた音作り、2拍3連の余白が美しい。
こういうミニマムな作りの曲に本格的に乗り出したがこのEPですね。
2nd EP - M3. Fxgiving
後期Beatlesみたいなことし始めた?って思いました。
ただそこまでクセのある曲でもないので、スルッと入っていけるかと…。
良い曲なことは確かです。
♢
4th Album 『Salt』(2023)
コロナ禍でのしばしの休止を経て活動を再開したHMR。
メンバーそれぞれの生活に起きた変化、それに伴った心境が楽曲にも反映されています。
新たな楽器編成が生み出す研ぎ澄まされたアレンジに、1つ上の次元へと到達してみせたという確かな手応えを感じさせる1枚です。
1曲1曲の完成度はディスコグラフィのなかでも飛び抜けており、この最新リリースでもやはり信頼を裏切らないと大変嬉しくなりました。
楽曲単位だと他のアルバムより好きな曲多いですね。
前半5曲の流れが良すぎるので、どうしても紹介させて欲しい!
最後だし許して!!
M1. You Can Let Go
さすがにRadiohead (笑)
↓これ
とまぁ、ちょっと茶化してみましたけどももちろん良い曲です。
3ピースサウンドの洗練され具合は1stの比ではなく、ドラムビートの余白の残し方はかなり大胆です。ハイハットのパターンめちゃくちゃシンプルですからね。
この曲と『Jigsaw Falling Into Place』を聴き比べると、アレンジの志向の違いをより感じることがきるのではないでしょうか (そもそも人数が違うというのもありますが)。
もっとシンプルになったVerもどうぞ。
M2. Alco
構想はデビュー時からあったものの10年間あたためて完成した1曲。
いやーあたためて正解ですよ。
厚みのある低音の上を流れていくウクレレの細かな粒のような音が曲全体をリードしていく。
この流れに身を任せるだけで良い、そんな曲。
M3. Hotel in Memphis
HMRでは珍しいゴリゴリダンスミュージック。
かなりファンクな風味。ベースがブリッブリでございます。
ライブverだとストリングスのオブリをDevonがジャズマスで弾くことがあるんですが、 それがまぁかっこいいんですわ。
M4. Everyone’s Moving Out East
ちょっと尖った曲が続いてからのこれが最高なんですよ。
フィンガーピッキングが流れ始めた瞬間の染み渡る恍惚感。
開放弦の使い方が好きすぎる。3フィンガーのパターンもコピーしやすくて個人的には助かる。
ブリッジでシンベが入ってきて、口笛が乗っかる瞬間にめちゃくちゃ視界が開けるんですよ。ドライブとかに持ってこいではないでしょうか。MVもそんな感じだし。
歌詞もいいですね。こう生活の変化をただ歌うっていう。
俺はあんまり歌詞の内容をごちゃごちゃ考えるタイプではないんですが、好きなタイプの歌詞はあるにはあって、こういう生活に伴うあれこれを素朴に歌った歌詞が好きです。
叙情よりは叙事に寄っていて欲しいですね。
「みんな東へ引っ越していく…」
良い歌詞です。
こちらのアコースティック編成も超おすすめ。
M5. 9beat
ハイ出ました、HMRお得意のレイヤードパーカッション。
曲名通りの9拍子(9/8) が要です。
1作目の『Call Me In The Afternoon』とはまた違ったアプローチですね。
リムショット主体のビートメイク。軽いサウンドを意識しているので、こちらのほうが実は聴きやすいかも?
M8. Gigafire
最後だからって詰め込みすぎか…?(まぁええか)
Key=B
【 Badd11 - C♯m7 - G♯madd♭13 - Badd11 - E 】
の延々繰り返し。
『Then Again』にも出てきた6、5、4弦のトライアドのフォームが使われてます。それ好きやなーって感じです。
E以外のコードが全部これ。3弦ミュートであとは開放鳴らしっぱ。
(※)アヴォイド...?知らんな…みたいなボイシングでウケる。
BとG♯m (よりにもよって!?) のとこで1弦開放がめっちゃぶつかってるんですよね。なんでこんなことしたんだろう…。
俺はこの曲めちゃくちゃ好きで、このボイシングもスパイスって感じでいいんじゃないかな?と思ってます。
この曲のバッキング聴いてどこか引っかかるとこあるか1000人くらいにアンケート取りてぇ。
M9. Goodbye Cali
いいかげん最後にします。
これはConnerのギタープレイが光りますねぇ。
ねばっこいロングトーン大好き。
こいつにも3フィンガーピッキングが出てくるんですけど、カントリー (だいたい3コード) ではなかなか使われないコード進行で、コテコテの3フィンガーするのなんか良いですね。
最新リリースメインのライブもあがってるのでぜひ!!!(なんで再生全然回ってないんだよ!!!!)
おまけ
コロナ禍でのリモート収録のコンピレーション。
最近やってるツリーハウススタジオでのセッション。
Fred again . . & Obongjayar の『adore u』を彼らなりのアレンジでカバーしたもの。
原曲はこちら。めちゃかっこいい。
最後に、ごちゃごちゃした文章でお目汚ししましたが、もうとにかくHalf Moon Runを聴いてほしい、伝えたいことはそれだけです。
俺が金貯めてカナダに直接行くのが先か、日本でも彼らが認知されてこっちにも来てくれるようになるのが先か、とにかく1度でいいから生で彼らの曲を聴きたい。
ほんとはライブ苦手で1人でじっくり聴きたい派なんですがこればっかりはガチです。
みんなー!Half Moon Run 聴いてくれー!!
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