見出し画像

【小説】フラッシュバックデイズ 35話

この小説は決して違法薬物を推奨するものではありません。
架空の話であり、小説、エンターテイメントとしてお楽しみください。

35話 伝説の夜 後編

レコードとレコードを繋ぐ単調な作業。
次のレコードが混ざるタイミングなどは分かるわけもなく、ただひたすら止まらない数種類の音に包まれ重低音に合わせて体を揺らす。
用意していた玉を摂る事も忘れる程、こんなに踊ることに集中したのは久しぶりだ。
気づけば何人DJが変わり、何度声をあげただろう。
ふと気づくと、音が止まり、1日目が終わった。
自分も含め、皆まだまだ踊り足らない様子だがとにかく、これで終わりではない、あと数時間後の今夜には後半戦の2日目が始まると言い聞かせ、地下を跡にする。

まだ4つ打ちに慣れた身体を感じながら、歩いて数分の家まで歩いて帰る。シャワーを浴び、モンキーパイプにガンジャを詰め込み一服すると気づけば寝落ちしてしまっていた。目が覚めると夕方の何時くらいだろうと時計を見るとすでに夜中の12時を回っていた。もう2日目のPARTYは始まっている時間だ。
5分前に吸っていたような感覚のガラスパイプに詰まった残りのガンジャを吸いきり、アシッドの紙片を舌下に挟み、ウエストバッグの隠しポケットに、玉とガンジャとモンキーパイプを入れ、急いで地下に向かう。

地下は既に人で溢れていた。完全に乗り遅れた。
既に出来上がっている友人に「今来たの?遅いよ~」と声をかけられた。
遅れた分を挽回する為、すぐにトイレに駆け込み、苦い錠剤を水で井の中に押し込んだ。酒でも買おうとバーに向かう途中に手書きのタイムテーブルが貼られており、そこにはフライヤーには記載されてなかったお気に入りのDJが追加されていた。
タイムテーブルによると朝方どころか昼までやるつもりだ。
少しほっとした。

2日目は何故か踊ることに集中できない。玉のせいだろうか?音は聞こえるが、断片しか聞こえない。ホフマンが思った以上に効いているせいか、フロアのデコレーションやレーザーが気になる。周りにはたくさん人がいるのに、ものすごく孤独を感じる。深海の奥底にいる気分がした。
少し休憩をしようとフロアの後方のチルスペースへと向かう。
名前を呼ばれた。
声の方に目をやると数回会ったことがある身長の低い女の子だ。
俺はその女の子の名前を思い出せず、どうしようかと困惑していると、
その女の子は指を地面に指し、指をぐるぐると回しだした。
俺はその指に視線を操られているかのように指先を見ていると、
地面が回りだしそうで怖くなった。
「ぐるぐる?」
俺は本当に地面が回り出し地面に立っていられなくなるところだった。
「今のは本当に危なかった」と伝えると女の子は笑った。
俺も笑ってごまかし、「休憩してくる」と伝え、チルスペースのソファーに飛び込んだ。

それから長い間チルスペースのソファーを動か(け)なかった。
飽きることなく何時間もソファーのに座り、ブースを取り囲んで踊る人も観ながら流れてくる音を聞いた。皆至福の時間を楽しんでいるように見えた。
周りのソファーから聞こえる会話が少し耳に入ってくる。
おそらく東京から来たのだろう、「大阪やばいね~」というう標準語が飛び交うと、少し誇らしい気分になった。

俺にもこんな時、一緒に語り合うことのできる恋人や友人がいれば。
喋らずともこの至福の時間も共有できる人がいれば。
なぜか、ものすごく孤独を感じた。

少し頭が落ち着くと、フロアに戻り、軽く身体を揺らしたり、
昨日は踊ることに集中しすぎたせいでできなかった、知り合いや友人との会話を楽しんだ。中身のある大した会話ではないが。

インド旅行から愛用しているバックパッカーウォッチを見ると、昼の正午をとっくにを過ぎていた。ふと一旦外に出てみたくなった。
螺旋階段の上は明るく、上まで登ると現実世界に引き戻されてしまうような気がする。何人かが螺旋階段に座り込んでいる。
その中にマキが一人で座り込んでいた。
「おはよう、帰るの?」
本当はマキの横に座り込みたかったが、おそらく彼氏をまっているのだろう。
絶対にこのパーティーの最後まで見届けようと思っていたが、抑えていた孤独が一気に押し寄せた。
「おはよう~、、うん、帰るとこ。お疲れ~」
俺はそのまま螺旋階段を登り、地下を跡にした。

つづく

◆関連書籍/グッズ◆
下記のリンクから購入いただけますと私にアフィリエイト収入が入ります。
よろしくお願いします。

キャプチャ17

キャプチャ18

キャプチャ53








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?