第9回: ムスリムのモディストファッション

2016年10月25日掲載

ムスリム(イスラム教徒)のファッションというと何を思い浮かべますか。男性であれば中東の白い民族衣装カンドゥーラ、女性であればヒジャーブやブルカといったところでしょうか。本コラムではこれまでインバウンドにおける食事やお土産について解説してきましたが、今回はファッションについて注目してみましょう。

実はツーリズムよりも大きいムスリムファッション市場

まずご紹介するデータは「分野別イスラーム市場の動向」(*)です。これはトムソン・ロイターが2014年と20年の市場規模を予測したものです。イスラームファッション市場は金融と食料食品よりも規模は小さいものの、この間の年平均成長率は6%と安定的な成長が見込まれています。ハラール・イスラーム市場といえば食料食品とツーリズムが代表格ですが、ファッション市場は意外と大きな市場であることが分かります。

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ムスリムファッションは欧米ではMODEST FASHION(モディストファッション)と呼ばれ、近年世界中でショーが開催されています。「MODEST」とはファッション界で最先端の「MODE」の最上級とMODESTYという控え目である、あるいは隠すという意味のダブルミーニングであるとされています。今年イタリアのラグジュアリーブランドであるドルチェ&ガッバーナが参入したのを皮切りに、「DKNY」や「MANGO」といったブランドが次々と作品を発表しました。地味でおとなしいというかつてのイメージを覆すハイセンスでおしゃれな作品は、日本でも大きく注目されています。

ムスリマの関心は「衣・食・遊」

ハラールメディアジャパンでもファッション関連記事に注目が集まっています。8月の月間アクセスランキングで「着物をモチーフにしたヒジャーブ」が首位を獲得しました。これはハラールメディアジャパンの読者の60%が女性であることが影響しているとも考えられますが、この結果からもファッションが大きく注目されていることが分かります。

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こうした中、本年11月の開催を発表したTOKYO MODEST FASHION SHOWは、多数のメディアに取り上げられ、海外からも問い合わせが相次いでいます。参加を決めたマレーシアのデザイナーによると「非イスラーム国であっても日本市場は魅力的。すぐに自分の作品が日本でヒットするとは思わないが、東京のショーに出品することはブランディング上非常に重要」と語っていました。
 
また別のデザイナーは「日本のファッションが素晴らしいのは生地が優れているから。日本人の細かなデザインはあの繊細な生地があるからこそ生きる。日本品質の生地はASEAN(東南アジア諸国連合)では手に入らないので、東京のショーでコラボレーションできる日本企業を探索したい」と語っていました。ちなみにこのデザイナーは年に数回訪日し、東京・日暮里の繊維問屋街でちりめんと呼ばれる高級呉服や風呂敷に使われる生地をまとめ買いしているそうです。

高機能の生地とデザインが切り拓く新興市場

ムスリムファッション市場は日本企業にとって新しい市場ではありませんが、これまで繊維メーカーの活躍が中心でした。例えば中東諸国における東洋紡やシキボウの成功例はよく知られています。シワになりにくく通気性のよい速乾性の生地は爆発的にヒットし、高価格帯でありながらそのシェアは7割にも至っているといわれます。

こうした高機能の生地にファッションセンスをプラスして成功しているのはユニクロです。着心地の良い生地を使用し、デザインは日本人ムスリマであるハナ・タジマを起用したコンフォートウェアは「着やすい上にシルエットが美しい」と評判になり、ASEANのほか英国や米国でも大ヒット。今では日本でも発売されています。
 
ムスリマがけん引して勃興し始めたむむリムファッション。高機能の生地を求めるイスラーム諸国と新たな需要を求める日本。ハイブランドとカジュアルブランドを併せ持つ日本企業にとっては、イスラーム企業とのコラボレーションによって新興市場を開拓するチャンスが訪れているといえるでしょう。

*「The State of the Global Islamic Economy Report 2015/16」Thomson Reuters

掲載紙面PDF版のダウンロードは以下から。https://fooddiversity.today/wp-content/uploads/2016/10/NNA_SG_161025.pdf


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