アイアン辻斬りハードコア -十人斬りの巻-

「お前! 聞き込み中だ。この男を見たか」
 おれがラーメンから顔を上げると、スーツ姿の強面男がおれを見おろしていた。おれはびびりながら、差し出された写真を見た。被写体の視線がカメラを見ておらず、露骨に盗撮だ。黒い蓬髪、長身で首は太く肩が広い。バンドTのロゴが胸板で盛り上がっている。
「あれ、どっかで見たような」
「本当か」
 男が身を乗り出す。おれが少し考えていると、舌打ちと共に紙幣が数枚テーブルに乗せられた。おやまあ。
「ええと、ライブハウスでベース弾いてた。髪型から見るにメタルバンドかな」
「こいつが?」
「他に心当たりないスよ」
 男はおれを睨んでから、紙幣をドンブリの方へ押しやり、いなくなった。おれは伸びた麺をすすり、彼は刑事かヤクザか考えた。どっちでも物騒だしおれに区別はつかない。貰った金は怖かったので、惜しみつつレジ横の募金箱に入れて店を出た。
 既視感の正体には街角の手配ポスターを見て気づいた。

(続く)

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