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透明日記「恐竜の交尾を想う」 2024/08/26

朝目が覚めて、まず、たこ焼き屋の行く末を憂うる。

近所の小さなたこ焼き屋は軒並みなくなった。小学生のとき、友達のオカンがたこ焼き屋を始めたが、だいぶ前に店を畳んだ。家に遊びに行くと、たこ焼きの余りを持たされて帰ることが多かった。べちょっとした大きなたこ焼きで、それほど好みではなかったが、ないよりかはいいので、喜んで持って帰っていた。

一つ上の先輩のばあちゃんがやってた10個で100円の、こんまいカリカリのたこ焼きというのもあった。値段に見合った、おやつみたいなしょぼいたこ焼き。カスみたいに小さなタコが入っている。そのしょぼさを小学生のぼくは気に入っていた。先輩のばあちゃんだと知ったのは、中学で部活を始めてからだ。一度、部活帰りに同級生と三人で行くと、三人で240円しか持っていなかったが、大皿に山盛りのたこ焼きを出してくれた。10個でいいと思ったので、部活帰りには行かないようにした。

いつからか、外ではあまりたこ焼きを買わない。値段が高くなり、遠い存在に思える。たこ焼き屋はいったいどうなるんだと、布団の上で考えていた。

起きてトイレに行く。前に観た「ダーウィンが来た」に出ていた、35メートルの巨大な図体の恐竜のことを思い出す。尻尾が長くて、アフリカゾウ十頭分の重さがあるという。ふと、セックスが気になる。どこをどうして交わるのだろうか。不可能な気がする。

恐竜は生きていないので、代わりに尻尾が長い動物のことを考える。たとえば、ヤモリはどうだろうかと。ヤモリが交わるのを想像すると、尻尾が邪魔で、頭がもつれる。なんべんイメージし直しても、ちんちんが空振りし、あらぬ方を指し示す。じれったい。考えるのをやめた。

朝は短編小説を読んで過ごした。年齢にまつわる作品が多かった気がする。それぞれの年齢をいつくしむような視点。短い話でも時間はいっぱい流れたので、たくさんの人が死んだ。

昼に図書館へ行く。チャリを漕いでいると、夏を恋しく思うような歌が頭に生まれ、少しのあいだ切なくなったが、図書館に入ると歌を忘れた。

図書を返却し、爬虫類コーナーでヤモリの交尾を調べる。近くで、ばあさんが本を探していた。本を漁っていると、ばあさんは屁をこきよった。たわんだ尻の割れ目ですり潰したような、きたない音を出す。

大阪の図書館は屁をこく利用者が多いと思う。人に聞くと、そんなことはないと言うが、ぼくはいつも図書館で屁の音を聞く。

結局、ヤモリの交尾について何かが分かる本はなかった。カメが交尾する写真は見かけたが、どこをどうというのは分からない。カンガルーも少し気になる。

図書館を出てカフェで、ヤモリが交尾する動画を観る。斜めか、とか思いながら見たが、ヤモリの交尾からは巨大な恐竜の交尾を考えることはできない。考えるのをやめて歴史の本を読む。戊辰戦争後に領土の再編成があったというような話。百閒も少し読む。

夕方、風がよく吹いているので散歩した。秋のような空が出ていた。ああだこうだ考えていたように思うが、何を考えていたのか覚束ない。少年が虫網を振っていた。トンボを獲っている。すれ違いざまに目が合うと、なぜか「バイバイ」と言われた。橋の下。風が強い。川の中に沈んだ自転車に、苔の生えた汚い亀が二匹たかっていた。

家に帰り、昔100円で買った爬虫類の本を思い出し、交尾について調べる。トカゲとヘビは皮膚の下に二本の陰茎を畳んでいるという。雌に近い方を使うらしい。斜めに出ているように思うと、納得できる。

ただ、参考になりそうで参考にならない。巨大恐竜が交尾するイメージが浮かんでこない。代わりに、他の動物について調べてみようと思う。

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