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『伝染るんです。①』P14右〜個性臭さ〜

 人間の個性は計り知れず、何気ない行為のアレこれに個性臭さがまとわりつくものだが、それに対して個性臭い視点というものもあり、個と個の対面においては互いが互いを個性臭い視点で「個性臭いな」と感じ合うことで、自他の間には不可思議な臭気が織りなされるものだ。
 みかんの白い皮をむく奴には大きな仕事を任せられない、ということも自他の臭気の相交わるところで発掘された論点であり、その論点を汗水垂らして主張するのも個性臭くて面白い。
 が、自分で自分の行為の個性臭さを発見するのは寂しいものだ。いつかの冬の夜に雪が降り、まだ帰らぬ妹を驚かしてやろうと、玄関の外に小さな雪玉を置いたことがあるのだが、妹が予想通りに「あの雪玉なに?」と訝りながら帰ってきたのを幸い、「何それ?」と知らぬふりをして玄関へ戸を開けに出た、が、自作の雪玉の形状や配置を見て「俺がおる」と錯覚した。雪玉に現れる「俺」はとても寂しいものだった。

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