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透明日記「車椅子」 2023/09/10

夜になって、車椅子のおじいさんとすれ違った。前方は白色のライトに包まれ、背もたれの左右からは緑と青の電飾が花かなんかのように伸びている。凝視するのは失礼に感じ、一瞥で捉えただけだが、おじいさんが光に包まれているように見えた。

緑と青の電飾は怪しいパラダイスを予感させる。パラダイスの住人はただただ当たり前の日常を移動している。そのせいか、これといった表情がない。夜道に浮遊する白い無表情。その無表情が、怪しさに輪をかけていた。電飾のパラダイスに関して、おじいさんは無関係のようで、不気味だ。この世のどこかで自然に生まれたパラダイスが、おじいさんをどこか知らない所へ運んでいるかのようにも見えた。

最近、外に出ると車椅子の人とすれ違うことが多くなった。昔よりも多くなったように感じる。思えば、昨日も別の車椅子とすれ違った。

昨日の車椅子は後ろから来る車に構わず、変なところで横断していた。これと似た無法の車椅子走者はよく見かける。彼らは車に有無を言わせぬオーラを纏って進む。

無法の車椅子が生まれるのはなぜだろうか。目立つから記憶に残りやすいだけなのか、一部の車椅子生活者の素行が悪いだけなのか、車椅子では周囲の確認が難しいからか、狭い道が多く、車椅子に合う道がないがゆえか、あるいは車椅子生活者の無言の抵抗なのか。車椅子で生きるということについて、あまり知らないから分からない。しかし、これからも車椅子は街中に増えていくだろう。また今度、車椅子について調べてみようか。

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