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透明日記「夜、コンビニに行く」 2024/01/08

なんとなく、家が動き出しそうな夜だ。そう思いながらコンビニに向かうと、遥か前方にでかいトラックが見えた。後ろの扉が開き、巨大な洞穴を感じる。ぼんやりと、テールランプの赤い光が入り口に滲んでいた。おかしなほど巨大だ。車高がコンビニの看板より高い。洞穴に見える荷台はどこまで続いているのか、計り知れない。

周囲に人の気配もなく、不気味だ。そう思いつつ、手前のコンビニに足を向ける。コンビニの入り口は半開きで人を食いそうであった。開くか閉まるかそのままなのかと思ううちに、扉は開いた。

二つのレジは作業中である。最後尾にちょうど女が並んだところだ。冷凍コーナーには商品の補充に余念のないバイトがいる。弁当コーナーではおじさんとおばさんが目を輝かせ、物珍しそうに弁当を吟味していた。嫌なものを見た気がした。

女の後ろに並ぶ。ケツが見えそうなワンピースを着ている。女が右のレジに向かった。と思うと、左のレジ前に女が現れた。タバコの番号を3つぐらい、矢継ぎ早に吐き、番号とともに指が素早く動く。射的でもしているように見えた。

左のレジが空く。タバコの棚をご覧あれと、レジの男が肩を開く。銘柄を告げると、男の顔に理解できないという文字が浮かぶ。続けて、番号を伝え、タバコを買う。理解できないという文字は嘘である。この男は前に一度、銘柄に応えて商品を取れていたのだから。

番号を告げる前に、ダウトと叫ぶべきだったのかもしれない。知らないうちに妙なゲームが始まり、知らないうちに黒星を付けられた気分だ。半開きの扉を見てからそう思った。

いくつかの家が動いている気がする。家というのは不思議だ。こんなに外は暗いのに、こんなに外は静かなのに、中に住んでる人がいるという。人の家を見ても人の気配はない。住む人は顔も表情もない。姿形もないように思う。形のない人は人なのだろうか。分からない。

誰かの家の玄関前をイタチが過ぎる。薄闇に影となって、地面をするすると流れる。獣が家の周りにいるのに、人が出てくる気配はない。全く決め手に欠けるが、人の住む家ではないと思った。

ああ、空には星がある。星がスパムを送ってる。明日の朝一番に迎えに行くと言っている。いい迷惑だ。

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