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透明日記「あ、もう、夜なんですね 2/2」 2024/06/24

今日はぼんやりで、とくに何かをやる気がしないけど、ぽつぽつ書くことはできる。ぽつぽつ書いて、散歩に出る。

川辺にも何組かの子連れの雀がはためいている。空気のように歩いていても、人だとバレて、雀は遠くへ飛んでいく。地面の踏みそうな位置にカナブンを見つけて足を止めた。カナブンはじっとして、隠れてますと言っている。了解して、少し大きめに迂回する。

昼は暑い。朝からずっと、ぼんやりの空。川辺のいい加減なところで階段に座り、川を見る、音を聞く。川の段差でざあざあ、流れる川面が砕けてうなる。対岸で草刈機がうだうだと鳴る。川辺の草むらで虫が鳴く。断続的にリーリーとか、ときたま鋭く回るようなシュルシュルシュルとかが聞こえる。

ゆるい風に黄色い紙の切れ端のような蝶が、風とひとつになって、ひとひら、ふたひら。シロツメクサの赤いやつに止まって、蜜を吸う蝶もあった。

暑い。涼しいカフェでタバコを吸おうと思う。川辺を引き返すと、暗い色のトカゲがニョロニョロ横切った。歩いていると、草むらから音がする。長ズボンを丸めたぐらいの、まあまあ大きいような大きさの動物が動くような音。気配だけで形は見えない。

二、三の雀が背の高い草むらに、チロチロ鳴きながら、斜めになって留まって隠れている。雀の軽さが、草をやんわりとしならせる。絵になる。絵になるから写真を撮りたい。が、見るだけにする。

カフェでもエックスエックスを流して、ポツポツと何かを書く。ぼんやり眠たいような気分になって、外に出ると夕方。街が青い。交差点に水々しい青色が染み込んでいる。

外には涼しい風が吹いていた。じめじめしたところがなく、さっぱりとした湿気が口に感じられる。美味いと思う。風が美味い。特に、口当たりがいい。

やさしい雲に覆われた薄暮の空は、まだまだ明るかった。また?と思いつつ、用もないのに川辺に向かう。今日はぼんやりだから、一日に軌道がない。

日暮れの土手には上裸のスケボー男が現れる。向かいから、うねうねと迫ってくる。ちらっと、三度ほど、間を開けて風貌を確かめた。ごわごわとした確かな毛量感、小麦色のふっくらした健康な肉体、ベージュの布ベルトで締めたジーパン、白い有線のイヤホン。80年代のアメリカの不良みたいなスケボー男だった。横を過ぎるとき、太い二の腕が、涼しげに風を切る音を聞いたように思う。

歩くうちにだんだん辺りが暗くなってきた。土手を降る階段に腰を据え、暗い川と空を眺める。涼しい風が吹いている。タバコを吸う。滑らかな暗い灰色の煙がさらさらと流れる。外の音にも飽きて、イヤホンで音楽を聴く。風が速くてエックスエックスは合わない。合いそうな曲をかける。

光の絶えそうな暗い空を眺めると、色々な知った人の顔が思い出される。誰々は今ごろの時間帯に自宅でご飯を食べているのだろうか、まだ仕事中だろうか、前に聞いた仕事を今もしているだろうか、などと興味があるようなないような感じのことを徒然と思う。

暗い川を眺めると、亡き人々が思い出される。川には鈍いしわが走っていた。薄っすら悲しいような気持ちになる。生きている人々も流れていってしまう。無常に、意味もなく、詳しいことは何も知らされず、人ならぬ人の声に押されて、向かう当ても曖昧なままに、流れて、いなくなっていく。

暗い川を見続けると、涙が出そうで喉が苦しくなってきたので、川から目を離す。さっ、さっ、と悲しみを畳んで、階段を登る。雲の底がボロ雑巾のように、くすんで汚い。早く家に帰りたくなる。

土手には散歩する人、走る人、ママチャリを漕ぐ人、犬を連れる人。人々は闇色にくっきり染まり、おぼろな輪郭で過ごしていた。ときたま、ロードバイクの鋭く光るLEDが土手を貫き、辺りを透明のプラスチックのように光らせた。

家の近所の田畑では、カエルがグエグエ鳴いている。明日は雨が降るかどうかを、論争している。

暇をいいことに、ながながと書きすぎた。読み返すのもだるい。あ、もう、夜なんですね。

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