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『伝染るんです。①』(文庫版) P10左〜脳に「社会」が住み着いた〜

 「お前は一体、何のためにそんなことをしているんだ。」こんな声が私の脳に響くことがある。私は脳みその戸締りはちゃんとしてる方だが、実利の伴わないことばかりしてると、私の脳みその小窓から侵入した、「社会」とか「時代」とか自称する宿無しが住み着いてそんなことを言う。脳の一室で遊んでいると、宿無しの定住に気付かない。定住に慣れた宿無しは私の脳内インフラを無断で使い、余り物で焼き飯など作ったりする。他人の家だという配慮が一切ない。その上お節介で、宿主の私を心配し始め、冒頭の文句を垂れる。得体が知れず怖いし邪魔だと思うから、「訳のわからない者に住まれると困るから出ていって下さい」と言うと、「お前のひいひいひいじいちゃんの頃から、代々お前をよろしくと言われている。それより一体お前は・・・・・・」と変な伝統を傘に着つつ私の人間的意義を問う。私は「なんとなくや」と答えるだけで、宿無しを追い出せないでいる。

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