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透明日記「前の土曜のごく一部」 2024/07/02

タバコを吸う。煙が舌先に当たる。舌の形が変わり、口の中の煙が外気とともに喉を通る。吸気は呼気に転じ、舌が緩み、煙が吐き出される。心が徐々に落ち着いていく。

こういうことを書いていたい。土日を振り返って、映画を観に行ったり、ライブを観に行ったり、千鳥橋に遊びに行ったり、小説添削の聴講に行ったりしたけれど、それらについて書いていたけれど、思い出すと面白いのだけれど、なぜか書いていて面白くなくって、諦めた。

土日のことを書いているとき、なんかずっと、違うな、書く気がしないなと思っていた。

足早に、事、事、事という感じで出来事を書き並べていたけど、それがいけなかった。ぼくが書きたくなるのはそういうのじゃない。

出来事を簡潔に書くのがあまり好きじゃないのかもしれない。ただ、見たもの聞いたもの、心をかすめた何気ないものを書きたいという気持ちが強い。話すほどのエピソードにもならないような、もっとしょうもない、ただの現象を書いていたい。

そういう感じでなら、土日を書けそうな気がする。時間がかかるかもしれないし、飽きるかもしれないが、思い出せる範囲で書いてみる。

土曜。友達となんばパークスシネマでマッドマックスを観た。

外は蒸し暑い。梅雨の外気は、おっさんの裸祭りのような嫌な熱気を孕んでいる。でも、映画館は寒いだろう。服どうしようか、Tシャツ一枚だと不安だ。シャツを着ようかどうしようか。

まだ時間があったので、ベランダでタバコを吸う。一服のうちに服の問題は忘れられ、家を出かける時間になっていた。シャツを考える時間もないので、Tシャツ一枚で出かける。

チャリでマンションを出ると、やっぱり映画館で凍えるのではないかと不安になった。そうなると映画に集中できない。しかし、家に引き返すと間に合わない。寒いのは困るが、間に合わないのはもっと困る。チャリを漕ぐしかない。走行中、寒くなったら体にぐっと力を入れて耐えていればいいということに思い至り、映画館の寒さ問題はどこかに消えた。

最近はあまりチャリに乗らないし、予定がある日も少ない。チャリで予定に向かう人間になっているのが懐かしく思う。

駅までの道中はただ最短で障害を抜けるような競技だ。予定があって道を急いでいると、周りのどうでもいいような、見なくていいものを見なくなる。聞かなくていいものも聞かなくなる。速度となって、ただ、道を進み、路駐の車の傍を抜け、向かってくる電動自転車を避け、歩行者をかわす。こういうのも、たまにはいい。額に感じる直感で動くスポーツみたいで。

イオンの野外駐輪場に入る。駐輪場には周囲の植木から枯れ落ちた草木が散らばっていた。空気の抜けた前輪が、草木をパリパリと押しつぶす。

この駐輪場は嫌いだ。据え付けのロックでチャリを固定すると、3時間後から金をとられる。ある時間帯になると、ロックしていないチャリを押し込むバイトがうろうろしている。うろうろして、チャリを押し込み、前輪をロックしていく。

あんなバイトをよくやるわと思う。あの倫理警察のような、アホくさいバイトを。なにか正義を背負ってでもいるかのように、バイトが駐輪場で股を大きく開いて周囲を監視しているときもある。あのバイトをする人間とは友達になれない。とても、アホくさくて、大嫌いだ。それで、この駐輪場も嫌いだ。

若干苦いような気持ちで、チャリを据付のロックに押し込む。据付ロックの外側には子供用のチャリが止まっていて、道を阻んでいた。こういうのだけをどうにかしてほしい。ロック専門でやるんじゃなく、雑務的な仕事として。子供のチャリを避け、駅に入り、電車。

乗り換えで、駅構内を歩いていると、前に男が歩いていた。細い紐のサコッシュを掛けている。

あの細い紐に所有物を託す気持ちがわからない。どんな気分なんだろうか。見た感じでは心許ない。男はしきりに紐を握っては上げ、所持品を確認しているような様子だった。紐が肩から上がるとき、いつかあの紐で首を吊ってしまわないだろうかと、なんとなく思った。

紐を気にする男の横を追い越し、歩いていると、ベトナム人っぽい若者が通路の真ん中で何かを撮影していた。スマホを掲げている。

階段に差し掛かると、階段の途中で座るベトナム人っぽいカップルがいた。階段にざらざらとした空気が漂っている。邪魔だなあとは思うが、異国の雰囲気が醸し出されていて、ちょっと刺激的で、なんかよかった。

階段を登ると、前に歩いていたのは手をつないだカップルっぽい二人組。たらたらと、妙に不安定な、揺らぎのある感じで歩いていた。女が少し手を引いているように感じる。カップルでないのかもしれない。

何か不思議な感じのする仲の良さそうな二人組だった。その二人の感じがどことなく、かわいい。後ろを歩きながら、かわいいなあと思い、どうせなら銅像にしてどこかに飾りたいなあとか思っていた。道が開けると、二人を追い抜いて、乗り換え。

電車に乗ると、車窓からホームに立つ女が見える。ドキリとした。もしかすると、あの正気を保った女には、この電車が見えていないのではないか。そう思うと、この電車は乗ってはいけない電車だったような気がしてきた。この電車はどこか、別の世界に行ってしまいそうだ。そんな夢を見たことがある。降りようかと思うと、ドアは締まり、あ。

電車は走り出し、当たり前に目的地に着いた。

友達から少し遅れるとLINEが来ていたので、「謝って済む問題ではないが、私は慈悲深いので許します」と送り、喫煙所を探す。

久しぶりに難波に来た。高島屋前には広場ができていた。人間がパラパラ、青空の療養所。屋根とかあったほうが良くないかと思った。

バス乗り場とかあったところに、喫煙所の黒い箱が据え付けられていた。煙を外に出すまいという感じだ。室内は電子タバコと紙巻きタバコで部屋が分かれ、紙巻きは二つの扉をくぐる必要があった。部屋の端に行き、タバコを吸う。喫煙者の入れ替えが激しかった。

喫煙所を出て、なんばパークスの方へ行く。道中、南海に入るエスカレーターの感じがなんか変わったような気がして、自分がどこにいるのか、ちょっとわからなくなった。不案内な感じで歩き進む。

なんばパークスの二階広場を意味もなく歩き、暇なのでトイレに行く。入り口でやんちゃそうなカップルが何やら話をしていた。その横を抜け、トイレに入る。エアーの水切り付近で、トイレの床を這って何かを探しているような、拾っているような、妙な行動をする男がいた。どこか必死そうで、危なそうな感じだったので、無視して便器に向かう。

便器はすべて空いていた。六台ほど並ぶ便器の一番奥から二つ目で用を足し始めると、先ほど入口にいた、やんちゃそうなにいちゃんが一番奥、ぼくの隣に来た。少し迷ったようだが、そこに決めたようだ。ぼくにはそれが意外な選択に感じた。

用を足し、手洗い場に行くと、まだ男がトイレの床を這っていた。自分の目玉を拾っては落とし、拾っては落とし、という感じだった。無視して、トイレを出た。

あと少しで友達に会えそうだ。映画が観れそうだ。が、もう書くのをよす。

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