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透明無題日常劇場 2023/08/03

 はて、何を書いたら心は癒えるのだろうか。

 別れの電話から三週間経った。彼女に振られたのであった。電話の向こうからの、「もっと私に興味持ってよ」と、「無職の人間を通しては二人の未来が見えない」とが、私の身体を穴だらけにした。
 一年間の無職のあいだ、坂口安吾安吾全集を読み、哲学史や日本史をなぞり、切り絵をし、お昼に「ぼのぼの」を観、アクリル絵の具で絵を描いたりして呆けていた。就職と収入の目処は皆目つかない。私が呆けている間にも、彼女の心に不安の塵が降り積もり、目にも明らかな不安の地層が出来上がっていったのだろう。感覚時間で数万年は積もっていたことであろう。そう思うと、苦しい、哀しい、救われない。

 別れ際、「就職したらまた会おう」ということになった。会ってどうなるかとか、分からないけれども、一回だけでも会いたい。せやから今、就職しようとしてる。周囲にはなぜか「残念だ」という声もある。私の一部も「残念だ」と言う。
 就職しながら無職になるような、無職でありながら就職しているような、画期的な方法はないものか。こうやって、無駄な思考に迷いに込んでは、ニヤニヤと天井に張り付いている私がいる。そんな時間ばっかりだ。アホなんだろう。とりあえず、就職してから考えることにしよう。

 失恋してから詩を書いた。少し癒えた。載せておこう。

「無題」 2023/07/30
 夏、殺伐として暮れゆけよ、鬱
 夏、殺伐として暮れゆけよ、鬱

「風」 2023/07/30
 彼女と別れた
 身体は穴ぼこ
 風が吹く
 冷蔵庫の黒いバナナのような
 車道に落ちぶれた手袋のような
 被せ損ねたコンドームのような
 西日に蒸せた靴箱のような
 生ぬるい風が、抜けていく

「君と無常とエレベーターと」 2023/07/30
 無常な人混みと
 無慈悲なエレベーターと
 無口な風景と
 「今日はありがとうございます」と
 火照る気持ちの君がいた
 ドキドキ光る夏だった
   
 そして訳もなく四年が過ぎた
   
 無常な人混みと
 無慈悲なエレベーターと
 無口な風景と
 「じゃあね、ここでいいよ」と
 冷たい背中の君がいた
 チカチカ光る夏だった

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