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透明日記「膝をぶつけて目が覚めて」 2024/06/27

朝はいつも、起きたらトイレに行ってから、口をゆすいで、水分を摂る。それでだんだん目が覚めてくる。でも今日は、水分の手前でコップを取ろうと食器棚に向かったら、その食器棚に膝をぶつけて目が覚めた。

家の食器棚には炊飯器を置く架台が付いている。架台はスライド式で、食器棚自体の据え付けが悪く、いつも突き出している。

その架台の角に膝をぶつけた。いや、膝に刺さった。というか、角に刺された。相当にめり込んだ感触があった。口から、人に刺された男の断末魔が飛び出た。

台所で食器棚の暴行を受けたぼくは、情けない呻き声を漏らし、膝を抱えて痛みを堪えた。激しい痛みがピークを過ぎた途端、オカンのせせら笑いが、家中を泳ぎ回っているのが聞こえてきた。

オカンはリビングで朝食を摂りながら、乞食を笑う貴族のように、存分に椅子にもたれ、天井を仰いで笑っていた。笑っとらんと、警察を呼べと思った。

「あ、いま、息子が食器棚に刺されまして、え?食器棚です。あっ、そうですね。はは、わたし慌ててて、あはは、すみませんでした。食器棚ですもんね。」

膝を見ると、右膝の上の方に、指二本分ぐらいの真っ直ぐな赤い直線が走っていた。衝撃の割には痛みは尾を引かず、皮膚が裂けているからか、青あざみたいに指で押して痛いというのもない。軽い切り傷みたいになっている。なんかラッキーと思った。

それから、朝なので中島らもの「夢うつつ」を口ずさんでいると、久々に中島らもの小説を読みたくなり、短編集を読んでいた。

数年ぶりに読んだ。数年前に読んだときも面白かったが、今日の方がより面白かった気がする。笑えるし、やっぱすげーや、好きやわ、と改めて思った。暇なときに何かしらの文章を書いているからか、「ああ、このノリな」と、そのノリで書きたくなる気持ちが分かるところも幾つかある。生きてるうちに無駄な知識を身につけてきたからか、発想の出どころみたいなもんも昔よりはよく見える。また中島らも、色々読もうかしらとも思う。

薄曇りで涼しいから、散歩に出る。川辺に向かう道中、紺の半ズボンが看板の支えに掛けられているのと、白い靴下が落ちているのを別々の場所で見た。靴下はゴムのところが折られ、落ちて間もないという感じだった。

川辺の土手の斜面は草が刈られ、その禿げた土手を無数の鳥がつついていた。ハトとムクドリが合わせて百羽ぐらい。なかなかレアな大所帯だ。大所帯で忙しなく土手をつつく姿に、ちょっと狂気を感じた。

一時間ぐらい散歩したところで、膀胱に限界を感じたので、久しぶりに立ちション。二年ぶりぐらいのように思う。最後にしたときはまだ寒く、股間は茹でたエビのように縮んでいたような記憶がある。川辺の空は遮るものもなく、大きく手を広げるように、ぱあっと開かれていて、尿が抜けていく開放的な安堵の気持ちと通ずるところがあった。

リラックスした状態で、階段に腰を据え、タバコを吸う。その辺りでは、ちらほらツバメが弾丸のように飛んでいた。人間の膝ぐらいの低い空を鋭く抜けたかと思うと、跳ねるように上空に舞い上がり、空を蹴るように角度を変える。飛行能力がエグい。タバコ二本分の時間、ツバメの飛行に見惚れた。

川辺を引き返し、大所帯がおった場所に近づいてくると、川の上空をその大所帯が飛んでいるのが見えた。ものすごい数で、さっきより多い気がする。それもハトとムクドリで、種の隔てがないかのように混じり合って飛んでいた。大所帯はいくつかに分かれ、分隊の一つが最初に見た土手の斜面にバラバラと舞い降りた。

ムクドリは背筋がシュッとして、背を伸ばしているように見える。姿勢がいい。それに、雀のようにチョンチョン両足で跳ねず、ペタペタとハトと同じように歩いていた。飛ぶときはヒシと羽を張り、菱形のようになる。羽を広げると言うより、突っ張るという感じなのが、頑張っているように見え、かわいらしい。

土手の上に白いキノコが生えているのを見つけた。傘が広がっているのが二つ、小人の家のように間口があってこんもりしたのが一つ。少し離れたところには、3軒の小人の家が転ぶ。

キノコのあった近くに、コンドームの袋が破り捨てられていた。たまに袋が落ちているのを見かける。が、コンドームが落ちているのは見た記憶がない。使ったら、遠くに投げるのだろうか。それとも、その男はコンドームを付けたまま、移動するのだろうか。肌着みたいな感覚で。

朝のうちに散歩に出て、長々と川辺を歩いているうちに昼になったので、ラーメンを食いに行った。前食べたときに塩ラーメンが美味しかったので、塩ラーメンを頼んだが、前よりは美味しいと思わなかった。醤油ラーメンにした方が良かったと思う。

家に帰って、本を読み、「ロブスター」という映画を観る。独身の人は動物に変えられるという、訳のわからない設定で、シュールでブラックな笑いが散りばめられていた。体か心に同じ傷を持った人間がカップルになるというところも良かった。恋愛禁止の森の中で、一人一人イヤホンで電子音楽を聞きながらバラバラに踊ってるシーンが好きだった。また、明日好きなシーンを観ようと思う。

夜はドライカレーを食べて、寝た。暑くていっぺん目を覚まし、泥のような脳みそを揺らしながら、トイレして水飲んで、扇風機で熱を洗い、寝た。

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