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透明日記「賑やかな詩」「灰皿」 2023/12/21

「賑やかな詩」
すみやかに賑やかになれ
すみやかに賑やかになれ
隅田さんにこれ届けてほしい
隅田さんにこれ届けてほしい

渡辺さんにもゆうといてほしい
綿菓子食うようなガキ、連れてくるな。と
渡辺さんにもゆうといてほしい
綿菓子食うようなガキ、連れてくるな。と

村田くん、これどうなった?
すす すみません すすんでいません
村田くん、これどうなった?
すすみません 右折もムリです すみません すすんでいません
ももも 申しわ 申し ももし もももし人類が
ももも もも もも ありませ 誠に もも
実は、ぼく、桃が好きなんです
実は、ぼくぼく 桃なんです

岡崎、ミーティング行かんでええん?
あわ 泡泡 吹いてるよ 泡 あわ忘れて 屋根までシャボン
ありがとう井上、助かった こんど片道のバス代おごるわ

えっ、佐藤さん息してない
あっ、杉田さんも息してない
林さーん、藤崎も息してないですわー

村上くん、救急車呼んできて 戸田くんも救急車呼んできて
救急ヘリって呼べるんかな 木下さん、調べといて
おれAED買ってくるわ ドンキに売ってるかな
え?木田さんにいつも使ってるやつ?
あのAED、木田さん専用じゃないん?

木田さん休みらしいです AED持って帰ってるみたいです
もしもし、木田さん 今すぐAED持って来てください
もしもし もし人類が もしもし もしも
もしもし?人類?  賑やかですか?

「空を見る灰皿」
灰皿は何が起きたのか分からなかった。気が付くとベランダで倒れ、灰色のゲロを吐いていた。男に殴られたのだと思った。しかし男は優しさを取り戻すものだ。いつも殴ったあとは中途半端に温かい手でそっと起こしてくれる。このときもそうだった。男はこういうやり口を好む。灰皿はそういうことを思い出した。

雨の降らない日々は空を眺める。スズメやカラスが飛んでいる。名前の知らない虫も飛んでいる。灰皿は空を眺めて広大な世界を想像していた。昼も夜も同じようなことを想像していた。あるとき、男が灰皿にそのようなことを話したらしい。それから灰皿も同じようなことを想うようになった。灰皿は男の気持ちが少し分かりかけていた。

雨の日は働き方が変わる。灰皿は雨の日が好きであった。いつもと違う場所で働くのは気分転換になる。灰皿にとって雨の日は特別であった。普段の移動を男に委ねている灰皿は、雨の日は移動できることを知っていた。男に握られて部屋を抜け、別の場所に行く。そこにはいつもと違う色の空があったりする。灰皿はいつもそんな空を見ると、自分の想像力の貧困を呪った。想像以上に世界は広い。風の吹き方もベランダとは全く違う。聞こえる音も、ベランダで聞くときよりはっきりしている。灰皿はいつもと違う場所に来ると、自分の考える世界の形が広がっていくことを感じ、震え、心が開け、泣くのであった。傍らの男はそんな灰皿の気持ちが少し分かりかけていた。

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