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透明無題日常劇場 2023/08/04

 マンションの階段を降りて行ったところで、手すりの端にGを見た。Gはテレパシーで俺の存在を悟り、羽を広げ、ジリリと羽ばたきながら飛んで逃げた。低く低く、飛んでいった。きもい速さで飛んでいった。
 ぞわぞわする。Gの羽ばたきが俺の腕に張り付いている。取れない、消えない。数秒の内に刻印された不快な動きが、俺を離れなくて思い出す夏の、じゃりんこの道。

 俺は眩いほどに美しい少年だった。友達もまた、眩いほどに美しい少年だった。二人の眩い少年がはち切れんばかりの夏のじゃりんこ道で、用もなく突っ立っていた。今日の遊びの計画をテレパシーで伝え合っていたところだ。
 テレパシーは傍受されていた。夏の白い砂利道の向こう側、南の空に時空を超えてやってきたかのようなGの群れが飛ぶのを見た。隊列を組んでこっちに来る。「回線が乗っ取られた!」と叫びながら、真夏の俺と真夏の友達が真夏の速度で車道へ逃げた。

 振り向けば、日差しに燃える砂利道に茶色のGが着地したところ。美しい俺と眩い友達は、急に原始的な感覚でシンクロした。

 「石によりて虐殺せよ」

 という声なき声で二人は動いた。乱れ飛ぶ石、散り果てるG、砕かれた夏と壊れたテレパシー。恐怖と暴力の渦に狂いながら、眩い俺と美しい友達は内なる生命の神秘的な醜さを、美しいほどに発散していた。

 Gとの遭遇。

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