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透明日記「不合理な情動で、春」 2024/03/31

いっぱい寝たけど、また今日の夜も寝たい。できることならずっと寝たい。生きた死人のように眠り続けていたい。しかし寝るのもまた苦労だ。寝ているばかりでは生きられない。からだが勝手に起きている。からだが起きるから、寝る以外の活動を考えなくちゃいけない。しかし頭が回らない。春のかすみが悪いのだ。最近かすみを吸いすぎたのだ。頭の中まで霞んでいる。

考える対象が見えない日だ。見えないからイライラとして心が荊のように変形する。アプリの続きを作ろうと、パソコンを触っても、棘が強くなっていけない。

無職にも周期があるらしく、日曜はうまくいかない。からだに曜日が染み込んでいるのか、日曜の空気が家に流れるからか、外気に日曜を見るからなのか、よくわからないが日曜はダメだ。異教の神も休むことにしたと言うし。休むのがいいのか。休むとは何なのか、ずっと休みだと「休む」が分からない。

とりあえず、予定していたことを捨て、ホームパイを食べる。金色の個包装に小麦がデザインされている。黄金の風が吹く。ホームパイが私を連れ去る。多層構造をまじまじと見て表面の起伏を探索する。

雑草ひとつ生えない不毛の土地だ。ここで暮らすのは大変そうだ。本当にこんなところで米が育つのでしょうかと問う若者がいる。彼は何者だろうか。どこかの研究者みたいだ。そんなことより砂糖が眩しい。透明の立体が輝いて目がくるう。歯を当てると亀裂が走り、世界が崩れる。ホームパイが机にこぼれる。

ホームパイの表面を見るうちに夏の日差しの不毛の土地を眺めていた。私はベランダの日照に翳る灰色の部屋で、静かに意識が飛んでいた。

リビングでテレビが点いている。テレビは見ないときはうるさい。不連続に入れ替わり続ける電波の揺らぎが、興味を持って欲しそうにささやく。見ず知らずの他人が人の頭にさまざまなものを入れる現代文明。ぐつぐつ煮崩したじゃがいものペースト、巨大な灰色の壁、楽しげな風船を詰め込まれ、私は意志のない倉庫のようにただの区切られた空間になる。

ぼうよう、ぼうようと時間だけが過ぎる。時間から逃れるようにシャワーを浴びて外に出る。

外に出ると身体が動く。身体が動くと愉快になる。歩きながらパンクを聴く。むず痒い心の荊が枯れていく。パンクを聴くと心が潤う。「これからはパンクの時代だ」、「AI時代だからこそ、パンクの時代だ」、不合理な肉体の情動を収める器のようにパンクのことを考える。

「パンク」というのは間抜けな響きだ。そこがいい。人間の御しきれぬ間抜けに対する賛歌のように、私には聞こえる。

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