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透明日記「あ、もう、夜なんですね 1/2」 2024/06/24

朝、だるい。歯みがいて、茶飲む、水飲む、水飲む。水を飲むと、ああ、もう朝ですかと、体が目を覚ます。ぼうっとしながらスピーカーでパンクとか流す。

ベランダでタバコを吸ったり、水を飲んだりして、ただぼうっとする。薄い雲に透かした太陽は、体に悪そうな気がする。体に悪そうな光に体を晒す。体が溶けていく。

空はぼんやり、うすぐもり。かたちのある雲はしょぼい風に押されて、めんどくさそうに北へ、北へ、だらだらポケットに手を突っ込んで流れていた。

ゆるい風。パンクが流れるベランダで、カスカスに枯れたバスタオルがかすかに揺れるのを見る。バスタオルはみんなノリが悪い。背の高くなったパキラも、だらだら頭を振るだけで、どうにこうにも風がぬるい。

ヘリがバリバリ空気を破る。つかの間、ヘリの轟音に呑まれたパンクが活き活きとして、ゆがんだ太陽の熱のようなものが生まれた。と思うと、ヘリは過ぎ去り、熱のようなものは消え、ぬるい風がただただ気怠い。

ぼうっとするうちに一枚のアルバムがリピートされる。やる気のない日は音楽を聴いていたいような気がする。

ベランダで過ごしていると、暑い。梅雨の湿気にこもった熱が、肌の表面にどろどろと纏わりついて、体がとても泥人形。湯を掛けられたように輪郭の曖昧な泥人形。ベランダは泥人形の館。

館から冷房の部屋に戻る。冷たい水を飲み、ぷはー、と涼を祝うような息を吐く。でも、やっぱり、ぼんやりとだるい。なに聴こ思て、ずっと聴こうと思って聴いてなかった、The xxの『xx』を流す。書いてみると伏字みたいでおもろい。

エックスエックス、だるい、おお、とか思って、またベランダ。だるいような、かなしいような、微温的な空間が広がるようなアルバム。ぼんやりの日の生ぬるい風に丁度いい。ベランダにたゆたうバスタオルのリズム感。

風に揺れるバスタオルもパキラも、白濁した空も湿気にこもる、鬱陶しい梅雨の暑さも、みんな、だるい音楽になっていく。顔もゆるむ。あごが煙に溶けていく。意識がうっすら、白っぽい空に紛れる。タバコが疎かになり、灰がこぼれそうになる。

近くで雀が呼んでいる。

雀の声が大きくなって存在になり、意味を結んで、意識がはっきりしてくる。部屋に戻って、一掴みのエサをベランダの受け皿に出してやった。

リビングで水を飲んでいると、かすれた声でチヨチヨと鳴くのが聞こえる。こっそり窓の方を見た。

手すりの上に、子雀がいた。あわくて儚い薄茶の羽を、めいいっぱい小刻みに震わせて、しきりにチヨチヨ鳴いていた。ベランダにいのちの火の粉を振りまくようだった。やわらかい羽毛をふぁさふぁさと立てて、いとおしい、くるおしい。

エサをついばむ親をなんべんも呼ぶ。親は、エサの受け皿と手すりとを行き来して、子雀の前で背中を伸ばし、大きく開かれた子雀の口にご飯をあげていた。

アルバムはだらだら何周も回り、腹が減り、カレー。シャワーを浴びて特に好きな曲を何べんか聴いてるうちに、なにか大切なものが思い出されたのかして、泣く。

かなしいような、たのしいような、いつかの過去が、イメージにもならずに、頭をよぎった。

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