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体調が悪かった日の備忘録。

どうにも朝から体調が悪かったので、そんな1日について書きます。すぐに健康に戻ると忘れてしまうので。つい最近まで邪魔だった下くちびるの裏側にあった口内炎が治りかけて、すでに食事の不自由さをなかったことにしている自分がいます。なんて調子がいいんだろう。
今日の出来事がいつかのネタになりますように。

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あ、こりゃダメだ。朝6時、起き抜けで便器におはようございますをしながら思った。昨日からお酒を一滴も飲んでいないのに吐く。理由はわかってるから、波が引くのを待つしかないこともわかっている。

こういうとき、吐き方がいつもわからない。口に指を突っ込めばいいというが、その加減も難しい。迫り上がってくる吐き気とは違う、口内からの刺激に、身体と意識が混乱する。
だからわたしの場合、ただただ便器とご挨拶をするだけになってしまうのだ。

すっぱくて苦いもので口のなかがいっぱいになる。そこまで食べものがなかったようで、ほとんど黄色がかった透明な液体しか出てこない。

ひとしきり吐いたあと、口をゆすいで薬を飲んだ。どうか薬を吐くことになりませんように。

そのままベッドに戻って、じっと横たわってみる。天井を眺めて、吐き気の波をいなす。眠気も来ない。

全然ひどい病気とかじゃ、ない。服用している薬に、ちょっと副作用が出るものがあるのだ。それも毎回出るわけじゃないし、ときどきこうして吐き気などに見舞われるだけ。だから不安はなかった。

朝7時。弊社は8時始業だから、もう準備をはじめないといけない。うーん、こりゃ今日8時は無理だな。上司にLINEを入れる。「おはようございます。申し訳ありません、体調不良のため1時間ほど出勤遅れます。よろしくお願いいたします」

そのあと、ちょっとだけ眠れた。薬が効いてきたのだ。アラームで8時に目が覚める。ゆっくりした動作で起き上がる。横たわっていた口も食道も胃も、一緒に立ち上がる。うん、なんとかなりそうだ。

今日は一本記事を入稿して公開しないといけない。これは絶対に。わたしの仕事にとってはGWがはじまるまでが山場で、いまは休んでいられない。休んでいられないのだ。普段とは違う。

顔を洗い、歯を磨き、日焼け止めを顔に塗って眉毛だけ描く。鏡のなかの自分を見つめる。いけそうか? いけるよな? 向こう側で彼女は頷いた。

ゆっくりした速度で歩き、会社へ。打ち合わせをしてから作業場に移動する。

入稿作業をして、遷移先のURLや金額を何度も確かめる。入れ込んだ情報を、実際に並べたあとで微調整。写真を入れ替えたり、文字色を変えたりもする。

これで大丈夫だろう、と思えるだけ確認が済んだら、編集部にプレビューを投げた。

14時をちょっとまわったところで、仕事がいったん落ち着いた。お昼ごはんを食べていないけど、吐き気はまだ潜んでいて、けっこうこわい。しかしお腹は空いている。どうにもならない切なさ。

チョコレートを恐る恐る口に含んだ。
これがよかったみたいで、夕方にはすこし元気になった。

残業はせず仕事を切り上げて、自動車屋さんへ。車検に出していた車を取りに行かなければならない。

人と会うと、ついつい明るく振る舞ってしまう自分がいる。いつもお世話になっているおじいちゃんおばあちゃんが迎えてくれた。

「くりちゃん、元気しとった?」
「はい! 元気ですよ〜! おじいちゃんも元気そうですね」

こういうときに限っては、さらりと嘘がつける。相手に害がないし、わたしにも悪意がないからだ。それに、元気に振る舞えば元気になれる部分もある。おじいちゃんは耳が遠いから、自然に今日いちばん大きな声が出た。

自動車屋さんは春が忙しく、おじいちゃんも忙しそうだったけれど、仕事があるのはありがたいことだと笑っていた。

おばあちゃんが出してくれたコーヒーをいただく。胃にはちょっと刺激が強いけど、厚意がうれしい。どら焼きもいただいて、それはカバンにしまった。

おじいちゃんが言う。
「くりちゃん、6月になったら、梅味噌つくらん? わたしがつくり方教えてやっけん。身体によかとよ」

身体にいいもの、それはいい。去年もおじいちゃんにいただいた梅味噌はおいしかった。

「去年もらった梅味噌も、おいしかったですよ」
「ありゃ、そうだったかね?」

いろんなおじいちゃんおばあちゃんがそうなのだけれど、けっこう忘れている。わたしによくしてくれたことだって、この人たちにとっては当たり前みたいなやさしさだから忘れてしまうのだろう。

ちょっぴり切ないけど、でも過去は消えない。それに、わたしがちゃんと、おじいちゃんのぶんも覚えているからいいのだ。

「おじいちゃんの梅味噌おいしかったです! 楽しみにしてますね」

車検は、思ってた以上に安かった。山菜採りでいろんなものを乗せて汚れていた車内もきれいにしてくれていた。ありがたい。

スーパーに寄ってから家に帰ると、しばらく玄関に座り込んで立てなくなってしまった。なけなしの元気が尽きたのだ。身体は言うことを聞かないけど、思考はまだ動いている。

明日は、退院したばかりのおじいちゃんに会う。このあいだ電話をかけたら手術後で、元気そうな声だった。なにかおいしいものを持っていきたいな。

そのためにも、今日をちゃんと最後まで乗り越えなくては。立ち上がる。

サーモンのハラスとしめじの炊き込みごはんをつくった。おいしそうな湯気。吐き気はもうなくなっていた。よかった。

炊き込みごはんに、昨日土鍋でつくった鶏肉と新玉ねぎのスープ。シンプルな食卓だけれど、ぜんぶちゃんとおいしい。
炊き込みごはんは、ハラスの旨みのある脂がお米をひと粒ずつ包み込んでいた。しめじの風味がまたいい。

ちゃんとごはんを食べれるしあわせよ。

明日もまた、おいしいものを食べて、しっかり働くぞ! 寝ます。おやすみなさい。

30minutes note No.995

さいごまで読んでくださり、ありがとうございます! サポートしてくださったら、おいしいものを食べたり、すてきな道具をお迎えしたりして、それについてnoteを書いたりするかもしれません。