昆虫本の書評(昆虫本編集者のひとりごと)04『昆虫の誕生』
昆虫学の泰斗、石川良輔による一冊。
『昆虫の誕生:一千万種への進化と分化』石川良輔、1996年、中公新書、700円、210ページ
全体の感想
新書だから入門書とは限らない。一般向けかもしれないが、結構専門用語も出てくる。
ただ、少なくとも発刊当時は「昆虫全体を理解するために体系的に解説した本がない」状況であり、「昆虫のすべての目の特徴とその系統関係」を解説した本書は今でも、もっと昆虫を知りたいというアマチュアファンのニーズにこたえるものではないかと思う。
アマチュア向けといっても、やや教科書的なスタイルで、ストーリーとして読めるものではない。したがい、楽しんで読むというより、改めてべ今日するというニーズにこたえるものと言えるかもしれない。
ざっと内容について
本書は「節足動物との系統関係が語られることがない」ことをうやい、その点を明らかにすることから始まっている。
「Ⅰ エントマから昆虫へ」ではまず最初に、アリストテレスによる生物分類の紹介から始まる。昆虫は節足動物と近いことが認められ、エントマという分類に含まれるとされる。その後、ローマ時代の分類に触れ、リンネによって体系化されたことが解説される。
ここではアリストテレスやリンネによって、注目された昆虫の特徴が解説されている。まず体節が、そして付属肢あげられ、祖先的な生き物から昆虫がどのように進化したのか言及される。
特に節足動物の筋肉系、神経系など体の仕組みは図解をしながら詳述される。
冒頭では、祖先的な生き物から昆虫へ、いかに体節や付属肢が進化していったかがテーマとなっている。
「Ⅱ 昆虫という生き物」では、一つ一つの目が順番に解説される。
図をともない、それぞれ特徴が記述されている。進化の面から特筆すべき点は、目の紹介の間に解説がある。例えばコムシ目とシミ目の間には、口器の変化があったこと、顎のタイプによって食性が決まり体型の変化、生息場所の限定につながったとされる。
目の紹介は祖先的なものから順番に紹介されているが、単に特徴を羅列していくわけではなく、進化の間にはどのようなことが起きたのか、どのような意味があるのかが、随所に挿入されている。
たとえば、上述のコムシ目とシミ目の間のでの顎の変化、カゲロウ目の出現と翅の獲得、トンボ目の出現と副性器の獲得、カワゲラ目・バッタ目の出現と大きな後翅の獲得、チャタテムシ目の出現と吸収型口器の獲得、アミメカゲロウ目と完全変態の獲得、甲虫目と鞘翅の獲得、などなど。
巻末で著者は、昆虫の多様化には特に翅の獲得と口器の変化を強調している。
読後の感想
著者の狙いは昆虫の進化を広く体系的に解説することなので、やや教科書的なスタイルとなっているのは仕方ないかもしれない。つまりストーリーがあるわけではなく、昆虫のそれぞれの特徴に絞って、順番に解説するスタイルだ。
またイラストが豊富にある一方で、写真はまったくない。図は全て線画で、やや専門性が高い内容だ。
教科書的なスタイルだが、「雑食性の忍者 ゴキブリ目」など意外と工夫を凝らした見出しにすべてがなっている。よく頑張ってコピーを考えたと思う。
一般向けの本なので見出しを工夫したのだろうが、やはり内容自体が難解な印象が強いため、効果的とは言い難いかもしれない。
巻頭カラー口絵とあるが、カラーは1ページしかない。
昆虫のほぼすべての目をこのようにコンパクトに紹介してくれるのは、アマチュアファンにとってはありがたい。
やや前の本なので、最新の分類とは違っている箇所もあるが、大きく変わって古くなってしまっているわけではないので、重宝したい一冊。
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