咄の見える姿勢——島崎藤村『夜明け前』
木曽路はすべて、とまで言われれば、たとえイントロクイズをしているわけではなくても、思わず手か声で回答権を求めてしまう向きは、少なくないでしょう。その通り、島崎藤村『夜明け前』冒頭の一節です。木曽路はすべて山の中である。では、さらにその先の、あるところは岨づたいに行く崖の道であり、あるところは数十間の深さに臨む木曽川の岸であり、あるところは山の尾をめぐる谷の入り口である、というところまで読み進んで、そのまま勢いあまってふらふら山の奥へ奥へと潜っていく時、そこには一体、どのよう