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体育における教師の介入モデル

今回は、体育における教師の子どもへのかかわりについて深く掘り下げる。教科書の存在しない体育では、教師の「ここに向かわせたい」という主観的なイメージが非常に強く影響する。そして、その達成に向けてさまざまなアプローチで子どもに指導や声かけをしていくのだが、それにはいくつかのパターンがあることが分かった。

本稿では、教師が子どもの活動に介入していくときの役割と介入するポイントを整理することで、教師の行動のパターンモデルを提案する。

1.授業中の教師の役割

教師は授業中にどのような役割を担っているのだろうか。いわゆる「指導者」を指す言葉には、「Teacher」「Coach」「Instructor」「Facilitator」「Advisor」など多様なものがあり、それぞれが微妙に異なるニュアンスをもつ。では、体育においてはどのような役割が存在するのだろうか。

1)「プレイヤー」としての教師

まず挙げられるのが、「プレイヤー」としての役割である。これは文字どおり教師自身もゲームに参加して、子どもと一緒に運動をすることを指す。おにごっこやドッジボールに一緒に参加することで、子どもと同じ立場でコミュニケーションをとるからこそ伝えられる場面も少なくない。特に20代のフレッシュな教師や体力に自信のある教師は、子どもと同じプレイヤーとしてのかかわりを大切にする人が多いだろう。

2)「サポーター」としての教師

必ずしも教師が一緒に運動しなくてもよいことはいうまでもない。その場合、教師がとれる役割は「サポーター(支援者)」である。このときの「サポート」の中身もまた多種多様で、子どもに声をかける応援や、ライン引きや道具準備などの環境整備もこれにあたる。プレイヤーはゲームの”中”で子どもとかかわるのに対し、サポーターはゲームの”周辺”で支えるようなイメージだろう。

3)「ハブ」としての教師

体育に限らず、どの教科でも授業であるならば教師を中心に回っていなければならない。決して「教師主導」でなくてもよいが、子ども主導の学び合いや活動が進んでいるように見える場合も、その水面下でのハンドリングは教師が握っている必要がある。このとき教師というのは、子どもの意見を集約させる「ハブ」としての機能を果たしている場合が多い。そのため、学習や活動の方向付けや軌道修正をねらって意図的に発言を集約することも教師にとって必要な手段である。

4)「コーチ」としての教師

ハブは意見を「吸い上げる」ことが主たる目的(子ども→教師)であるのに対し、コーチは集めた意見などをもとに「方向づける」ことが主たる目的(教師→子ども)である。個別のプレーに対してだけではなく、ゲームが進展するように新しいルールを提案したり、チーム戦術が深まるように助言したりすることもこれに含まれる。おそらくこれが教師の能動的なかかわりとして最もイメージされやすいかもしれないが、やりすぎると「余計なお世話」にもなるリスクを孕んでいることは承知しておきたい。

2.教師が介入する3つの目的

教師が子どもに介入していくとき、ゲームの中でなのか(プレイヤー)、ゲームの周辺からなのか(サポーター)、あるいはその方向は子どもから教師へなのか(ハブ)、教師から子どもへなのか(コーチ)、という4つのパターンを分類した。次に示しておきたいのが、教師がそれぞれの役割で介入するその目的である。なぜ教師は、自ら描く授業目標の達成のために介入をするのだろうか。

1)「促進」するため

教師が授業中にすべき最重要なことの1つが「価値づけ」である。中でもよい言動については積極的に称賛をし、その発現回数が増えるように働きかけることが大切になる。集団としての授業目標や、その根底にある価値観を明確に共有して、それが達成できるためにファシリテートすることが、教師にとって介入をする大きな目的となる。

2)「代弁」するため

集団という小さな社会がそこにあるということは、必然的に小さなヒエラルキーも発生する。特に運動という明らかな個人差が顕在化する体育は、それが生まれやすい環境であることは間違いないだろう。しかし、それをなるべく生ませないように調整することはもちろん可能である。そのための方法が、潜んでいる子どもの声を「代弁」することである。現在のルールやチーム状況にあまり納得できていない子や、理解が追いついていない子の声を教師が代弁することで、チームやクラス全体で共有することが解決への第一歩となる。

3)「修正」するため

先ほどよしとされる言動は促進すべきと書いたが、一方で発現回数を減らしたい言動に対しても策を講じる必要がある。運動能力が高い子の独りよがりなプレーや、運動に自信のない子が肩身の狭い思いをする状況など、改善を図りたい場面は必ず浮かび上がってくる。

これに対しては2つの手段がある。それは、「①人への直接的な介入」と「②環境への間接的な介入」である。逸脱行為を本人に直接指摘したり、全体にマナーを考えるよう声をかけたりすることは、子どもへの直接的な介入による軌道修正となる。一方で、ルールを変更することで事態の解決を図ったり、ゲームを一旦終了して仕切り直したりする間接的な介入も可能である。どちらも「現状を変えたい」という教師の思いが動機になり、このさじ加減が授業力のバロメータといっても過言ではないだろう。

3.【4つの役割】×【3つの目的】

これまで検討してきた介入するときの教師の「役割」とその「目的」は、それぞれ独立している。つまり、これを二軸として掛け合わせることができる。

ゲームに参加しながら(プレイヤー)、子どものプレーを称賛したり(促進)、逸脱行為を指摘したり(対人修正)する場合もあるだろう。また、授業の終末には子どもの意見を吸い上げることで(ハブ)、様々な気づきを共有したり(代弁)、次回のゲームルールを検討したり(環境修正)する場合もある。このように4×4の一覧表にすることで、今自分がどの役割で何を目指した介入をしているのかを可視化できるのだ。

各マスに記入してあるのはそれぞれの凡例でしかないが、1回の授業の中で教師が様々な役割や目的を使い分けていることがわかるだろう。そして、同じ場面に対して、教師によって講じる手立てが変わることも想像にたやすい。まずは具体的な場面を想像しながら、それぞれの16マスがどのような介入方法となるのかイメージをふくらませていただきたい。

4.「事前」か「事後」か

さらに、もう1つの変数があることを補足しておきたい。ここまでを読みながら想像した場面は、主に「子どもの言動に対する教師のリアクション」ではなかっただろうか。称賛や指摘といった価値づけも、意見を吸い上げて代弁することも、教師の「後出しジャンケン」としての介入に聞こえたかもしれない。このようなリアクションとしての事後介入は、「フィードバック」とよばれる手法である。

一方で、授業の開始時にあらかじめ念押しすることや、事前に道具等の環境整備をしておくことは、教師の「未然の予防策」である。この未来に向けた事前の介入は「フィードフォワード」とよばれ、準備の入念さが結果を左右する場面も大いにある。

つまり、この「タイミング」という第三の変数も大きく影響しており、教師の行動パターンは32にのぼることになる。だからといって32個すべてを覚える必要はない。①自分の今の役割は何か、②介入する目的は何か、③先回りか後出しか、という3つの項目について明確な答えをもってふるまうことが重要なのである。その一助となるツールとして活用できるために本稿を記した。

5.忘れてはならないこと

本稿で紹介したツールを活用すれば、自分の授業中のふるまいをより深く内省することができるだろう。「『コーチ型』に終始している」や「対人介入が非常に多い」といった傾向がみえたり、「次はもう少しフィードフォワードで整えておこう」などの目標設定もできるかもしれない。しかし、こういうツールを活用する際に注意したいことがある。

それは、「目的が達成できれば何を講じてもよい」ということである。本稿ではタイミングも含めると32パターンの介入方法を紹介したが、仮に同じマスの介入手法を選択しても、子どもとの関係性、扱っている種目、授業の序盤か終盤か、前回の授業での経験、その日の天候など…結果を左右する他の変数は無数にある。その中で、このツールを使えば「ほんの少し確率が上がる」程度に気楽に捉えた方が、より目の前の子どもに適した介入ができるだろう。

本当に達成したいことは、「すべての子どもが今日の授業に満足すること」である。そこから目を逸らして手段にとらわれてしまうと、ますます目指す結果からは遠ざかってしまう。ただし、本稿で紹介した32の介入方法のうち、12個しかできない教師よりは、20個以上の手法が選択できる教師の方がその目的を達成しやすいはずである。魔法のような絶対的な指導法がないからこそ、教師自身の引き出しを増やすために本稿を活用していただけたら幸いである。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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