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本を読んで思い出した映画 〜 『同志少女よ敵を撃て』と「スターリングラード」

アガサクリスティー賞受賞作品『同志少女よ敵を撃て』

逢坂冬馬の『同志少女よ敵を撃て』を読んだ。アガサクリスティー賞受賞作のベストセラーで内容を半分位は想像できてしまう変わったタイトルの作品だ。時は第2次大戦、主人公セラフィマの故郷の村に侵入してきたドイツ軍は略奪を尽くし、村人全員をパルチザン呼ばわりをして虐殺する。たまたま狩猟に出かけていたセラフィマ母娘は帰路その光景を目の当たりにする。物陰から敵将校を猟銃で狙う母親をドイツ軍スパイパーは一撃で仕留める。ひとり残されたセラフィマはソ連赤軍の女性将校のもとで狙撃兵としての訓練を受け、仲間の狙撃兵少女たちと共に独ソ戦を戦い抜いていく。

プロットはすっきりとしていて読みやすい。ソ連兵が主人公なのにディテールがしっかりと描き込まれているため、違和感がない。また敵味方の狙撃兵同士の戦闘場面には臨場感と緊張感を感じさせる。そして何よりも主人公セラフィマの狙撃兵としての成長と上官や仲間の女性狙撃兵たちとの絆が物語の中心をしっかりと流れている。読んで損はない作品だと思う。

また、作品の中、ウクライナとロシアとの関係に言及した部分もあり、今のロシアによるウクライナ侵攻を思い起こさせるタイムリーさもある。以下はその抜粋だが、考えさせられる文章だ。主人公セラフィマとウクライナ出身のオリガとの会話である。

「オリガはウクライナから来たんだよね。こうやって話していると、違いがわからないな。」

なんとはなしにはぐらかす。オリガの口調に危険な気配を感じた。

「そう。ソ連だからこうやってロシア語を話すことができる。ソ連だからウクライナ語があったことも忘れてロシア語を使うことを強いられる。ましてコサックなんていない」

思わずオリガの顔色をうかがった。

いつもの愛想のいい笑みを浮かべて、彼女は話した。

「ウクライナがソヴィエト・ロシアにどんな扱いをされてきたか、知ってる?なんども飢饉に襲われたけど、食糧を奪われ続け、何百万人も死んだ。たった二〇年前の話よ。その結果ウクライナ民族主義が台頭すれば、今度はウクライナ語をロシア語に編入しようとする。ソ連にとってのウクライナってなに?略奪すべき農地よ」

「同志少女よ敵を撃て」

映画「スターリングラード」(2001年)

ソ連の女性狙撃兵の話に、昔見に行った映画を思い出した。ジュード・ロウ主演「スターリングラード」(2001年)だ。スターリングラード攻防戦の最中、ソ連、ドイツ両軍の狙撃兵達の手に汗握る闘いを描いた映画だ。ソ連の女性兵士が最前線で闘う姿に当時は「共産主義というのは、戦場でも男女平等なのか」と思った記憶がある。

当時テレビで流れていた映画のCMに興味を持ち、見ようと決めたのだが、印象的だったのがCMで使われていた曲、スラヴァの「アヴェ・マリア」。ところが映画の中ではこの曲が最後まで流れない。曲も楽しみにしていたのに、なにか騙されたような気分になりながらも、彼のCD「アヴェ・マリア」を買い求めたのを覚えている。

スターリングラード市街戦と狙撃兵達の緊張感が伝わる

「スターリングラード」を見ると『同志少女よ敵を撃て』で描かれるスターリングラードでの市街戦の雰囲気が映像で分かる。また狙撃兵同士の闘いの緊張感が伝わってくる。その世界観を味わうために、一度この映画をご覧になることをお勧めしたい。

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